2022年6月23日木曜日

織物の基本を学ぶ14日間/織物基礎研修ダイジェスト

毎年恒例、シケンジョで年度初めに開催している研修「技術者研修『織物基礎及び設計』」が終了しました。

参加したのは、宮下織物(株)、光織物(有)、富士桜工房(山崎織物(株))、OULO、装いの庭、
で働く6人の研修生。

職場だけでは学べない、織物の全体像を理解してもらうためのカリキュラムです。

14日間×2時間、使ったパワーポイントは600ページという、膨大な研修内容をダイジェストでお送りします。

一日分ごとに、より詳しく学べるシケンジョテキの過去のアーカイブへのリンクを貼りますので、内容を詳しく見たい方はぜひそちらもご覧ください。


DAY1
*織物とは/織機の歴史/織機の原理/織物の設計要素/産地の概略
*スパンとフィラメント/糸をほどいてスパンかどうか確認

【オンライン織物基礎研修 ①】機屋さんのテキスタイルデザイン

【オンライン織物基礎研修 ②】スパンとフィラメント

織物とは何か?人類の歴史をひもときながら、最後にはみんなで糸をひもといて、スパンかフィラメントかを調べました。その違いを知らなかった、という研修生が多数。






研修の全体的な目標は、上図の織物のさまざまなパラメータのそれぞれに、どんな選択肢があり、どんな意図でオプション選ばれているかの全体像をつかむこと。上の図の左から右へ、という方向で勉強を進めていきました。


DAY2
*手機(腰機)体験
*単糸と双糸/インターレース
*顕微鏡で生地を観察

【オンライン織物基礎研修 ③】単糸/双糸、撚糸、インターレース糸

研修は基本的に座学の勉強ですが、なるべく体を使って体験できるように試みました。

原始的な織機、腰機(こしばた)体験では、織機に張られた経糸の張力を整えることがとても重要であることや、手織りの大変さを実感してもらうことが狙いです。

スパン/フィラメントに加えて、単糸と双糸についても学び、糸についての解像度がだんだん高くなっていきました。










DAY3
*撚り / S撚・Z撚 / 上撚・下撚 / 強撚・甘撚
*模型で撚りを体験する/検撚器実習
経と緯/密度/鯨寸と曲寸/筬羽/〇羽〇本入れ

「撚糸」のひみつ

【オンライン織物基礎研修 ④】タテとヨコの違い

スパン/フィラメント、単糸/双糸の次は、撚りのS・Z、上・下、強・甘の違い。

三日目ですが、まだまだ糸の勉強が続きます。

ちなみに研修で体験した実験を収録したバックナンバー「撚糸」のひみつは、シケンジョテキで最高の閲覧回数を誇る人気コンテンツです。










DAY4
*繊度/番手/恒重式と恒長式/デニールの測り方
*密度と番手を調べる実習


【オンライン織物基礎研修 ⑤】糸の太さ ~ 繊度と番手 ~

【オンライン織物基礎研修 ⑦】糸の密度

【オンライン織物基礎研修 ⑧】糸の密度~筬羽と打ち込み

4日目は糸の番手。まだ糸の勉強は長く続きます。

そして密度と番手の測り方を学び、だんだん織物に近づいてきました。


四大天然繊維、麻、綿、絹、毛、を見分けようと糸を観察。


A~Cチームごとに、生地を分解して密度と繊度を計る実習をしました。



DAY5
*染色/素材と染料/染色実習
*品質検査/各種測定機器の見学

5日目は講師陣が変わり、染色と品質検査について学びました。

各自の染色体験を染色機にかける時間を活用して各種測定機器を見学し、濃厚な一日に。





ビーカー試験(少量の染色試験)のための装置で、各研修生が染色を体験しました。



一枚の生地に複数の素材が織り込まれた試験布を染めた結果。酸性染料と直接染料を使ったもので、サンプルによって染まり方に違いがあること、染まる糸、染まらない糸がはっきりとちがうことが分ります。


上は対光堅牢度試験機と、その結果の判定の様子。

下は摩擦堅牢度試験機。


撥水試験装置


DAY6
*産地概論/産地の特徴/歴史/甲斐絹/戦後の産地/近年の取り組み
*甲斐絹の生地見本見学

映画『千と千尋の神隠し』にみる「名前」と主体性の問題

甲斐絹ミュージアムより #1

六日目は産地の歴史から現在を学び、100年前のルーツ甲斐絹を見学する日。

富士吉田市役所の富士山課からもゲスト聴講に来てくれました。
























日頃は一般公開していない甲斐絹サンプルをじっくり観察し、産地のルーツを感じてもらいました。

DAY7
*絹の繊度/中と片
*素材/天然繊維/植物性・動物性/再生繊維/合成繊維
*染色/かせ染色とチーズ染色
*整経/部分整経と見本整経

【オンライン織物基礎研修 ⑥】糸の太さ ~ 絹の「中と片」~

糸の勉強のラストは、絹糸の番手に使われる「中」と「片」。山梨が養蚕王国だった時代のことも勉強しました。

整経、染色の職人を紹介するビデオ映像も鑑賞。部分整経と見本整経の違い、かせ染色とチーズ染色の違いを学びました。










DAY8
*織物組織/三原組織/組織図の描き方
*組織を顕微鏡で観察する実習

【オンライン織物基礎研修 ⑨】織物組織の「白黒大小」

【オンライン織物基礎研修 ⑫】三原組織のキャラクター

ついに織物組織に入りました。

あらかじめ渡してあった生地サンプルセットを使い、生地に触ったり顕微鏡をみたりしながら、組織の違いとその役割を学びました。



























DAY9
*織物組織/繻子織の組織図の描き方/飛び数
*色糸と組織による表現の実習/ピンドット、ピンストライプ、千鳥格子
*組織を顕微鏡で観察する実習

サテンのひみつ① 光沢のひみつ

三原組織のラスボス、繻子織について学び、そのあとは簡単な組織で複雑な柄を出す工夫として、色糸と組織の組み合わせによる表現について、方眼紙で塗りつぶしながら実習しました。













方眼紙に向き合ったあとは、顕微鏡で実際の繻子織を観察。



白と黒の糸を繰り返し並べ、簡単な綾織りを織るだけで、千鳥格子(ハウンズトゥース)の柄が生まれる仕組みを実習で学びました。


DAY10
*織物組織/白黒大小/軽重浮沈
*模型で組織を作る実習


織物組織の役割を考えると、三原組織の違いよりも、むしろ重いか軽いか、大きいか小さいかが重要と思えることが多いです。

そうした観点から組織をとらえるための考案した「白黒大小」の図をつかって学び、紙で組織を作る実習をしました。










DAY11
*織物組織/二重組織/風通組織
*模型で組織を作る実習2

組織の軽い・重いを応用すると、どんなことができるか?

タテ二重、ヨコ二重から、風通組織への発展を学び、紙で風通組織を作る体験をしました。







風通(タテヨコ二重)組織を紙テープで再現する実験。










この段ボールの織機は、10年近く前からこの研修で受け継がれてきたもの。代々数センチずつ織り進めてきました。


DAY12
*色々な織り方/紗・絽・羅/擬紗/ワッフル/ヘリンボーン
*紋栓図と引込図
*ジャカードとは

さまざまな組織の実例をとおして、ドビー織機でいかに複雑な表現をするか、という先人の工夫を学びました。














DAY13
*ジャカードとは/紋紙の仕組み
*多丁杼のジャカード
*ジャカード織物の設計実習

【オンライン織物基礎研修 ⑪】ジャカードという名の劇場

これまで学んだ組織の知識を生かして、最後の仕上げはジャカード織物の仕組みとその目的について学びました。

ジャカード織物は、部分ごと(場面ごと)に主役・脇役になる糸(役者)や、その見え方(演じ方)が変わり、それを設計することは、芝居の脚本を書くことに似ている、という観点から、「ジャカード織物とは、糸が織りなす劇場である」という自作の格言を披露しました。

仕上げに研修生には各自シェイクスピアになってもらい、ジャカードの組織を自由に決める課題に取り組みました。


研修生それぞれが指定した組織を使って同じ柄を織る実習。同じデザイン画でも使う組織によって全く印象が変わります。






同じデザイン画で、緯糸3丁(3色交互に織り込む方法)で織ったサンプル。

経糸が黒(左側)か白(右側)かで全く印象が異なるものが出来上がりました。



DAY14
*相互見学/富士桜工房・宮下織物(株)・光織物(有)

研修の最後の日は、恒例の相互会社見学。

ふだんの仕事ではなかなか足を踏み入れられない同業他社を見学できる、貴重な機会です。


1か所目は河口湖畔の商業施設ハナテラスの一角にある富士桜工房。
織物企業が自社で直営し、他社のファクトリーブランドも含めて販売するという、産地と消費者の貴重な出会いの場になっています。





さまざま犬種をジャカード織物にするプロジェクト「Iruyo(いるよ)」。”取扱犬種”がすごい数になっていました。



2か所目は、ウェディング衣装や舞台衣装の生地を製造する宮下織物(株)。

青い花柄の生地は、忌野清志郎さんが最後のステージで身にまとった伝説的なテキスタイル。もともとは真っ白なウェディングドレス用の生地だったということを初めて伺いました。


ジャカード織物の設計の中枢。
図案と組織の境界レベルの微細なところまで、手作業できれいにしていく現場を拝見しました。



3か所目は、金襴緞子や掛け軸の額装生地を作っている光織物(有)の工場。

沢山の織機が動いていますが、もちろん機械だけでなく職人さんたちの細やかな手仕事があちこちに入っていることを感じました。



14日間の研修の最後に記念写真。終わってみるとあっというまに思えます。

小さな産地とはいえ、なかなか同じ境遇で働く他社の人とは出会う機会がありません。この研修がそれを補う場になってくれれば良いと思っています。

また、若手職人がそういう社外ネットワークを構築するための支援として、「糸へんの会」という定期的な集まりが実施されています。真ん中の青いマスクの方は、糸へんの会のメンバーで丸幸産業(株)の堀内洋平さん。回の見学に参加してくれました。

研修参加企業の皆様、ご協力ありがとうございました。
研修生の皆さん、これからも頑張ってください!

(五十嵐)