2016年10月28日金曜日

サテンのひみつ(1) 光沢のひみつ

「サテン」 という言葉を知っていますか?



ジャズのスタンダードナンバー『サテン・ドール』では、

着飾った魅力的な女性のことを ”サテン・ドール” とうたっています。

この歌のように、贅沢で華やかで美しい、というイメージがサテンにはあります。



今回のシケンジョテキでは、サテンの美しさ、特に光沢のひみつに迫りたいと思います。













サテンを知っている方は、きっとこんな光沢のある生地を

思い浮かべるのではないでしょうか。


サテンというのは、織物の織り方のひとつで、

高級なウェディングドレスではシルクのサテンがよく使われます。

上の写真も、ヤマナシ産地(宮下織物(株)さん)で作られた、シルクのサテンです。



ではまずサテンとは何か、まとめてみましょう。


サテンの基本


サテンは、日本語では「繻子織(しゅすおり)朱子織)」という織物組織のことをさします。

基本的な3つの組織、平織綾織繻子織のうちの一つです。



上図の右側にある、描かれた方眼紙に「■」を並べて描いた図は、織物組織を表すもので、組織図と呼ばれます。

組織図では、経糸と緯糸の交点で、経糸が上なら「■」、緯糸が上なら「□」で表されます。


上の図で5×5マスので示したような、繰り返しパターンの一番小さな単位のことを

完全組織と呼び、ふつう織物組織は、完全組織で描かれます。



光沢のひみつ


いよいよ本題、サテンの光沢のひみつに迫ります。

なぜサテンの生地は、光沢があるのでしょうか?



まず、綾織と繻子織の組織図を比べてみましょう。

どちらも、経糸「■」と緯糸「□」の比率が、 の同じ比率になっている組織です。

経糸「■」の面積比率は、綾織と繻子織、どちらも全く同じです。






次に、それを実際に織ってみた写真をご覧ください。



織った結果、黒い経糸と、青い緯糸の見え方の比率は、どうなっているでしょうか?



上の綾織では、黒い経糸のナナメの線////がハッキリ見えていますが、

繻子織では、黒い経糸は、青い緯糸陰にかくれて少ししか見えていない!のが分かりますか?



黒い経糸が、青い緯糸かくされて見えなくなる傾向は、

緯糸の密度が高ければ高いほど、はっきりと現れ、

織物組織のなかでも、経糸の比率が低い(=完全組織のサイズが大きい)ほど、

経糸は隠される傾向が強くなります。


下の写真は、経糸緯糸1:15の、綾織と繻子織を比べたものです。


繻子織では、経糸ほとんど見えなくなってしまいました!

ほぼ青い緯糸だけが見えている状態になっています。



組織図と、製織後のイメージを比べて見ると、こんな感じです。






製織後の写真にあるように、繻子織の場合、

組織図中の■が、ふくらんだ緯糸に隠されて、見えづらくなっています。



これは、綾織の場合とちがって経糸の見えている組織図中の「■」が、

互いに隣接していない構造になっているところと、

緯糸途中で膨らんでいることにポイントがあります



さて、このようにほとんど緯糸だけが見えているということは、

どういう見た目の効果に結び付くのでしょうか?


それはズバリ、緯糸だけということは、

横方向の繊維だけがきれいに揃って見えているということです。

言いかえると、織られる前の緯糸の姿に近いということです。

(もちろん、裏側から見ると経糸だけの繊維が目立つことになります)



織物工場で織機にかけられた経糸を見た経験のある人は、

こう思ったことがあるかも知れません。

「織る前の糸の光沢は、織ったあとよりもむしろキレイなんじゃないか?」
、と。

※イメージ映像   上の写真は、今回織った織機とは別の写真です。


※イメージ映像   上の写真は、濡れ巻き整経で使われる経糸のかたまり、「経玉」です。



できれば織らずに身にまといたいくらい、美しい糸の光沢。

その美しい光沢を、織ったあとでも最もキレイに再現するための織り方が、繻子織です。

これこそが、サテンの光沢のひみつであり、サテンの秘められた役割なのです。

(…というのが、シケンジョテキライターの持論です)



濡れ巻きのこと


一番上の写真で紹介した、サテン生地に使われた「濡れ巻き」について少し紹介します。

濡れ巻きは、染色後に経糸を湿らせたまま、手作業で乾かしながら整経する技法で、

サテンの輝きが増すと言われており、その効果はシケンジョの研究からも実証されています。

濡れ巻について知りたい方は、下のリンク先をご覧ください。


 ・濡れ巻サテンの輝き











また、サテンは織り方だけでなく、

繻子織で織られた生地、とくに絹の生地をさして、

布の種類を表す言葉として使われることもあります。



satin  と sateen


英語では、サテンを表すのに、satin  と sateen という似た用語があります。


   satin   [sˈætn]  サテン、サトゥン

   sateen [sætíːn] サティーン


satin と sateenは、どちらも繻子織で作られた生地をさしますが、

特に satin は、シルクやポリエステルなど、光沢のある糸で作ったものをさし、

sateen は、綿など、光沢のないスパン糸で作ったものをさすそうです。





サテンの光沢のひみつ、いかがでしたでしょうか。

サテンのひみつシリーズ、次回は、様々なサテンの種類についてお話しします。

それでは、また。



(五十嵐)