2026年3月18日水曜日

ハタオリトラベル in タイ王国:タイの織機のしくみ編

ハタオリトラベル in タイ王国シリーズ第3回、今回タイの織機のしくみ編をお送りします!


前回お伝えしたタイの織物や織機のなかには、どうやって手織りでこれを作っているのか?
どういう仕組みでこの織機は柄を出すのか?という疑問が渦巻くものがありました。

今回はその仕組みを解説する回となります。

解説の内容は、帰国後にタイ語のサイトを調べて勉強したり、またタイでお世話になったTHTIJeabさんとSNSでやり取りを続けるなかで、タイの織物の専門家であるサナン先生(タイ語で言うとอ.สนั่น=アージャーン・サナン)を紹介していただき、たくさんの質問をさせていただき、教えてもらった知識がもとになっています。この場を借りてJeabさん、サナン先生に改めて心よりお礼を申し上げます。(※「อ.」は「อาจารย์/Ajarn」の略)

今回取り上げる織機は、タイで見た二種類の紋織用の手織り機です。

ひとつ目はノンブアランプー県のKhwanta社で拝見した、こちらの写真の紋織り織機。


ありえないような数の綜絖が並んでいて、これを見た時は驚かされました。足元の踏み木の本数の多さも、いままで見たことがないレベル!

こんなにたくさんの踏み木のなかから、次にどれを踏んだらいいのか、どうやったら分かるのでしょうか…?

このように沢山の綜絖が水平に並んだタイプの織機を、ここでは仮に『水平型』と名付けたいと思います。

この織機で織った生地をクローズアップして見ると、紋織りの模様が、緯糸を浮かせた組織で織り出されています。



もう一つは、イサーン・テキスタイル・ミュージアムに展示されていた、世界最大の1775本の綜絖を備えた紋織りの織機です。


知っている綜絖の形とは全然違う、膨大なヨコ棒が縦方向に積み上がるように並んだ綜絖これがどうやって使われるのか、ちょっと見ただけではさっぱり分かりません。

このタイプの垂直方向に綜絖が積み上がった織機を、仮に『垂直型』と名付けたいと思います。


この織機を使って織られた生地です。手織りとはとても思えないような複雑な柄が織り出されています。この幅の総柄を織るのは、機械式のジャカード織機でも大変なレベルです。


『水平型』紋織機のしくみ


まずは『水平型』の紋織機について見ていきましょう。まずはじめに、各部の名称についてタイ語で何と呼ぶかからご紹介します。


この織機の綜絖には、平織用の綜絖「タコーラーイカッド(ตะกอลายขัด)」と、紋織用の綜絖「タコードーク(ตะกอดอก)」の二つがあり、平織用のタコーラーイカッドが奥に、紋織用綜絖のタコードークが手前に配置されています。紋織用タコードークは、この写真では約30枚あり、この写真の工場Khwanta社では最大35枚のタコードークが使われるそうです。

タコードークの語源は、タコー(ตะกอ/綜絖)+ドーク(ดอก/花)で、いわば「花を織り出す綜絖」。沖縄の伝統織物でも、文様を織り出す手織りを「花織」といい、琉球花織読谷山花織のように呼ばれているのと共通した言語表現になっています。

タコードークのほか、
タコーローイ(ตะกอลอย/浮き綜絖 )、カオフェム(เขาฟืม/筬(のように密な?)綜絖)、カオトゥブ(เขาทึบ/密な綜絖)などの呼び名があり、タイの各地方で様々な用語のばらつきがあるそうです。

そして問題は、「こんなにたくさんの綜絖をどうやったら踏み分けられるのか?」という謎です。日本で目にする手織機の踏み木は、普通は2本~6本、多くても十数本です。30本以上もの踏み木が並んでいて、どうやったら一つ一つ狙いを定めて踏み分けられるのでしょうか?

その答えは、「踏み分ける必要はない。並んだ順番で踏むだけ」というものでした!
たしかに沢山あるなかから選んで踏むことは難しくても、踏み木の右隣、または左隣に順番に踏んでいくことならできそうです。

次に浮かぶ疑問は、「それでどうやって柄が織れるのか?」だと思いますが、その答えは…

日本でふだん目にする織機では、経糸は綜絖に規則正しく順番通り(「順通し」と呼ばれるのが基本)に通されるのが普通ですが、それはさまざまな織り方に対応できるようにするためです。

一方、タイの『水平型』手織機では、紋織用のタコードークは、特定の柄を織るために作られていて、基本的に綜絖の踏み木は並んだ順番どおりに踏んで行けば柄が出るようになっています。

下の図では、6枚のタコードークでその仕組みを図解してみました。
図のなかの組織図にあるような柄を織るために、経糸は6枚の綜絖に柄に応じた複雑な通し方がされています。




準備をするのは大変ですが、織る人は1、2、3、4、5、6、と順番に踏むだけで、柄を織ることができます。1、2、3、4、5、6、のあとは、5、4、3、2、1と逆に踏んで行けば、上下対称の柄を織ることができます。

これが、踏み木を並んだ順に踏むだけで柄が出せる理由です。

下の図では、もっとたくさんの踏み木を、柄A、柄Bのグループごとに準備したときのイメージを示しています。

この図のように、柄A、柄Bのタコードークを切り替えて使うことで、複雑なボーダー柄を作ることもできると考えられます。

日本で目にする織機は、様々な柄を織れることを優先するために経糸と綜絖の仕掛けをシンプルな順通しなどにすることが多いですが、タイの『水平型』紋織機では、特定の柄に限定するのと引き換えに、複雑な柄を簡単に織れるように進化した技術だということができると思います。

※もちろん日本でも、特定の柄を織るために沢山の綜絖に特殊な通し方をすることは多々ありますが、それはパンチカードや紋栓で記録され、自動的に織ることができる機械式織機で行われるものが主であり、手織りではこれほど沢山の綜絖を使うことはないと思います。

柄を変えるたびに紋織用タコードークを準備するのはものすごく大変かと思われますが、おそらく伝統の定番柄を長く織り続けるような場合が多く、そうするとめったに綜絖通しをしなくても良いので、きっとそれほど問題にならないのでしょう。

ちなみに、紋織用タコードークを準備する作業のことを、ケブタコー(เก็บตะกอ/集める綜絖)、またはケブラーイ(เก็บลาย /集める+模様)などと呼ぶそうです。綜絖を集める模様を集める、という表現がとても面白いと思います。

次に、実際に柄が出るメカニズムを紹介します。
この図では、平織用の綜絖タコーラーイカッドが2枚、紋織用の綜絖タコードークが4枚
の仕掛けで説明します。

上図の左側のように、平織だけを織る場合には、平織用のタコーラーイカッドh1、h2が交互に上下し、紋織用のタコードーク4枚はその動きに追従して上下するだけで、普通に平織りが出来上がります。

上図の右側のように、模様を織る場合には、黒いヨコ矢印で示された緯糸2を織るとき、経糸に着目すると、平織用のタコーラーイカッドh1開口させようとしますが、紋織用のタコードークが踏み木を踏むことで下げられ、紋織用のタコードークによって経糸開口がキャンセルされて、下図のA'のように、平織の経糸が上がるはずの箇所で下げられ、つまり緯糸が浮きます。これは日本の紋織りで「伏せ」と呼ばれるものと同じかと思われます。

続けて緯糸3、4、5を織るときに紋織用のタコードークを下げることで、B’C’D’の箇所で緯糸が浮き、次に逆順でタコードークを下げることで、ダイヤ型の模様が緯糸の浮きで作られます。

以上が、これまでに分かった『水平型』の紋織機で柄を織る仕組みです。

見学させてもらったノンブアランプー県のKhwanta社をはじめ、現代のタイの手織りによる紋織りでは、基本的にこのタイプの織機が使われているようです。

また案内してくれたタイのTHTIの皆さんは、このタイプの紋織のことも英語では「ジャカード」と呼んでいました。ジャカードというと、どうしても垂直方向に経糸を持ち上げて開口するジャカード機構が織機の上に載っかっているイメージがあるので、「あ、この織り方のこともジャカードと言っていたんだ」と気付くまでタイムラグがありました。(日本人向けに分かりやすいよう、そう言ってくれていたのかもしれませんが。)

次は「ジャカード」のイメージにより近い紋織機、『垂直型』のメカニズムをご紹介します。



『垂直型』紋織機のしくみ


イサーン地方、ウドンタニー県にあるウドンタニー・ラーチャバッド大学構内の博物館、イサーン・テキスタイル・ミュージアムで見たこの『垂直型』紋織機の、各パーツの名前からご紹介します。


このタイプの織機は、キートーパーベープタコーヤーウ(กี่ทอผ้าแบบตะกอยาว)、直訳すると「長い綜絖タイプの織機」と呼ばれるそうです。

その言葉を分解すると、キートーパー(กี่ทอผ้า/織機)ベーブ(แบบ/型)タコー(ตะกอ/綜絖) + ヤーウ(ยาว/長い)となります。

ただしベープラーイ(=ベープ(แบบ/型)+ラーイ(ลาย/模様))で「図案」という意味の言葉もあるので、「図案を表現する長い綜絖を持つ織機」というニュアンスがあるかも知れません。

まずこの特徴的な無数の「長い綜絖の束」、タコータムナーオタン(ตะกอตามแนวตั้ง)、直訳すると「縦方向に沿って配置された綜絖拡大してみると、生地の織り柄と似たパターンが見えます。



どうやらこの長い棒状の綜絖タコーヤーウ(ตะกอยาว)には、織り柄が記録されているようです。日本でいうジャカード織機とは異なり、さきほどの『水平型』紋織用の綜絖タコードークと同様に、特定の図案を織るために特化した仕掛けとして作られていることは間違いないようです。

この長い綜絖、タコーヤーウには、ジャカードの通糸のような役割をする糸綜絖が、「タコーヤーウの前後どちらを通っているか」という二値情報として記録されていると思われます。組織図が白と黒の二値情報で織り方を記述するのと同じ原理です。

おそらく、タコーヤーウの前面を通っている糸綜絖を選択的に持ち上げて経糸を開口する、という仕組みであることが推測できます。

さてここで問題となるのは、「記録された情報をどうやって取り出すか?」です。

なぜなら、棒をここから外さなければ、どの経糸を持ち上げなければならないか分からず、外してしまえば、苦労してケブタコー(綜絖を集める)した情報が一回使用しただけで消えてしまうことになり、この複雑さを考えるとそれはあり得ないと思われるからです。タコーヤーウに保存された情報を、どうやって取り出し、また再利用するのでしょうか?

もうひとつの疑問は、「この綜絖:タコーヤーウでどうやって経糸を開口させるのか?」です。
なぜなら、なぜなら、タコーヤーウは経糸に固定されていないようなので、これを上下させるだけでは経糸を開口させることはできなさそうだからです。


それら二つの問いへの答えを、こちらの図で説明したいと思います。
まず上図の1にあるように、棒状の綜絖
タコーヤーウの、一番下の1本を外します。

そうすると、棒に記録された情報、「どの経糸を持ち上げれば良いか」が分かります。

次に、経糸を開口させるための刀のような木の板「マイダープไม้ดาบ)」マイ(ไม้ / 木、棒)+ダープ(ดาบ/ 刀、剣)を使って、経糸を開口させて、緯糸を織り込みます。

タコーヤーウは糸を選ぶことだけに使われ、開口は別の道具、マイダープが担う訳です。

これで、保存された情報が、織物の柄に翻訳されたことになります。

次に、上図の2にあるように、棒状の綜絖タコーヤーウを完全に取り外す前に、どの経糸を持ち上げるかの情報が消えてしまわないよう、選ばれた糸の情報とともにタコーヤーウ織機の下側に移動させます
これで、織機の上側に保存されていた情報が、下側に複製保存されたことになります。

このようにして、タコーヤーウに保存された情報を一本ずつ取り出しながら織り、情報が消えないように織機の下側に保存させながら、織り進めます。

そして上図の3にあるように、タコーヤーウがすべて下側に移動したら、今度は最後に織った「6」のタコーヤーウを外して情報を取り出し、61と逆順に織りながら、今度は織機の上側にタコーヤーウを移動させて、元の場所に情報を保存します。

これで一番最初のステップ、上図の1に戻ることができ、繰り返すことで上下対称の織り柄を繰り返し織ることができます。

この織り方について見ているうちに、特に「記録された情報を取り出して複写する」という点について、あるものに似ていることに気付きました。

それは、生物のDNAです!


DNAでは、上の図のように
複製されるとき、二重螺旋構造がほどかれ、二つのDNAに情報が写し直されます。

またふだんDNAの情報が使われる際には、情報が保存された二重螺旋構造の必要な箇所だけがほどかれて情報を取り出すことができるようになり、mRNAに転写されたのち、目的のタンパク質に翻訳される、という仕組みになっています。

これはセントラルドグマと呼ばれ、分子生物学の基本原理とされています。


タイの『垂直型』紋織機でも、織りの情報が保存されたタコーヤーウという綜絖が1本ずつほどかれて情報が取り出されて、目的の織物組織・紋様に翻訳され、また織機の下側にその情報が保存されます。

タイの伝統織物の知恵と、数十億年の生物進化から生まれた摂理が、同じような仕組みに到達していた!

それに気付いたときには、思わず震えるような感動に襲われました。

この織り方の様子をぜひ動画で見ていただき、皆さんにも感動を味わっていただきたいと思います。

イサーンの博物館で見た『垂直型』と同じような織機が使われているシーンが、YouTube「古代の金糸織物...伝説から生きた芸術遺産へ」という動画で公開されています。

YouTube「古代の金糸織物...伝説から生きた芸術遺産へ」
(ผ้ายกทองโบราณ ...จากตำนาน สู่มรดกศิลป์มีชีวิต)

上記リンク先の動画は、タイの伝統工芸振興を目的とした公的機関「The Sustainable Arts and Crafts Institute of Thailand(SACIT)」YouTubeチャンネル「sacitchannel(@SACICTchannel)」で公開れているものです。

2分35秒から、9分20秒からのあたりで、織る作業が見られます。
一台の織機を4~5人で操作して織っている様子が見られます。


さて次に、ちょっとややこしくて恐縮なのですが、この『垂直型』『水平型』の開口の違いについて見てみましょう。

この両者では、綜絖が垂直か水平かの違いだけでなく、平織用の綜絖タコーラーイカッドと、紋織用の綜絖タコードーク、あるいはタコーヤーウの前後関係が逆になっているという大きな違いがあります。

『水平型』では、平織用の綜絖が奥側にあり、平織を織りながら、紋織用の綜絖が必要に応じて開口をキャンセルする「伏せ」を用いて、ヨコ出しの柄を表現していました。

しかし『垂直型』では、平織用の綜絖が手前側にあるため、平織をキャンセルすることができません。そこで、平織と紋織りを交互に行う方法が採られているのではないかと思われます。

上図の『垂直型』の図解では、紋織りをするとき、開口された赤い経糸が通っている平織用の綜絖h1が、上の方でぐにゃっと曲がっているように描かれています。これは、マイダープの開口に追従している綜絖を表しています。

同じ綜絖h1には、開口されない経糸も通っているはずで、その経糸は青緑の経糸のように、シャトルの下を通っていなければなりません。

ふだん日本の織物産地の工場で見る織機では、同じ綜絖を通る糸同士が、上と下に分かれて開口することはできません。しかし、このタイの織機では、同じ綜絖枠の経糸でも、開口している糸としていない糸が同時に存在して紋様を織り出しているわけです。

これは針金の綜絖ではなく、糸綜絖だからこそ可能となる仕組みではないかと考えられます。



さて、上の写真にあるイサーン・テキスタイル・ミュージアムで見たこの『垂直型』紋織機では、タコーヤーウが連なった「長い綜絖の束」、タコータムナーオタン(ตะกอตามแนวตั้ง)が、前後に何列も並んでいます。

これはおそらく下図の「マルチデザイン型」のように、複数の柄のセットを組み合わせて、より複雑な柄を作ることができるように工夫されているものではないかと思われます。
この他にも、確認はできていませんが上図右のループ型のように、同じ柄を逆向きに折り返さなくても繰り返せるようにした織機もあるのではないかと想像します。

以上が、『垂直型』紋織機、キートーパーベープタコーヤーウでの仕組みについて、これまでに分かったことや、推測できそうなことです。

前回の投稿でご紹介した、ナカー衣料品市場で見たこの複雑な紋織物も、このような『垂直型』、キートーパーベープタコーヤーウで織られた逸品なのではないかと思われます。


今回紹介したイサーンの博物館の織機や、YouTubeのリンクにあるような大規模なものは、
『垂直型』のなかでもかなり特別なものだろうと思われます。

実際の生産現場では、もう少しシンプルな『垂直型』が稼働しているのではないかと想像します。

そしてこの仕組みと同じような機構は、きっとタイだけではなく、日本を含めて世界の色々なところに違った形で伝わり、伝承されているのだと思います。

しかしおそらく今、その多くは失われ、忘れられようとしているのではないでしょうか。

今回、タイでこうした出会えた伝統技術をお伝えしましたが、これによってタイの織物文化の素晴らしさを知ってもらえるだけでなく、気付かずに失われようとしているその他の地域の伝統技術にも光を当て、未来へ伝えていくきっかけになればうれしいです。

なお手織りの技術の表現やタイ語の表現については詳しく調べたつもりですが、専門に研究しているわけではないので、誤りが含まれているかも知れません。説明に間違いなどがありましたら、ご指摘いただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

以上で、ハタオリトラベル in タイ王国のシリーズ三部作を終わりたいと思います。

お付き合いいただき、ありがとうございました!


2026年3月17日火曜日

ハタオリトラベル in タイ王国:タイの織物探訪編

タイで山梨のハタオリを伝え、タイのハタオリ産地をめぐる、ハタオリトラベル in タイ王国シリーズ第2回は、タイの織物探訪編です!

前回は山梨の織物をタイの皆さんに伝えるセミナーを紹介しましたが、今回はこの旅で出会ったタイの織物をお伝えします。


今回訪問したのは、チェンマイ(タイ北部)と、ウドンタニー周辺(東北部/イサーン地方)と、バンコクの三カ所です。



チェンマイのあるタイ北部は、綿織物が主体で、また国境に近い山岳地帯では少数民族による伝統的な絹織物がよく知られています。

ウドンタニーのある東北部/イサーン地方は、絹織物(タイシルク)の中心的な産地として知られています。

THTI(タイ繊維産業開発機構)の皆さんに案内していただいたチェンマイ、ウドンタニー、そしてバンコクの、タイの織物と織物スポットを一挙にご案内します。

今回はかなり分量があるので、ページ内をジャンプできる目次を作成しました。

《目次》
◆チェンマイ編
 ランナー郷土史博物館/Lanna Folklife Center
 チェンマイ文化芸術館/Chiang Mai Cultural Center
 ワット パー ターン(寺院、手工芸コミュニティスペース、博物館)
 PAKAPAN’S(アパレルブランド)

◆バンコク編
 THTI(タイ繊維産業開発機構)
 クイーンシリキットテキスタイル美術館


チェンマイ編


チェンマイを案内してくれたTHTIのチェンマイ支部のMaggieさん。チェンマイにたくさんあるカフェの中でもモダンなデザインの「The Baristro Asian Style」にて。

チェンマイでの講演のあと、タイ語での研修が続いて行われている会場をあとにして、チェンマイの街を案内していただきました。

ランナー郷土史博物館/Lanna Folklife Center

ランナー郷土史博物館の「ランナー」はかつて存在した王国の名前で、この博物館はチェンマイを中心としたランナー王国の文化的資料が収められています。

タイの皆さんは写真を撮ったり撮られたりする文化がナチュラルに
行きわたっています。自分の写真もたくさん撮ってくれました。

入館すると、受付には近隣の高校の女子生徒たちがボランティアとして待機しており、そのうち一人が館内を一緒に案内してくれました。チェンマイでは、地元の若者がこうした形で文化の継承に関わるような取り組みが行われているようです。

博物館の建物はかつてチェンマイ統治者の所有物で、1935年より司法裁判所として使用されていたもの。

伝統的な技法で織られた生地は、伝統的な女性の腰巻き「パー・シン」。腰に巻くためのものであるため、手織りといえども日本の和装生地のような小幅ではなく、1メートル以上の広幅が基本です。





生地のほかに、様々な地域文化を紹介する展示がありました。






チェンマイ文化芸術館/Chiang Mai Cultural Center

チェンマイ文化芸術館は上のランナー郷土史博物館の隣にあり、有史以前から現代までのチェンマイの社会、都市、文化の移り変わりを紹介する博物館。

チェンマイはタイ北部地方にあり、周辺の山岳地帯でミャンマー、ラオスに接しているので、歴史的に周辺国家との交流の影響が大きく、また山岳地域に少数民族が多数いることもあって、独自の文化圏を色濃く残しています。

特に13世紀に成立したランナー王朝の名から、チェンマイの文化は「ランナースタイル」と呼ばれ、現代でも脚光を浴びています。

建物の正面は広場になっており、ランナー王国の創建に貢献した3人の王を称える象徴的なモニュメント、三王記念碑が立っています。




近隣には、チェンマイの伝統的な衣服を着た
学生たちが沢山あるいていました
普段の制服は西洋式のワイシャツスタイルですが、毎週金曜には、こうした伝統服を着るという決まりになっているそうです。こうした取り組みは官公庁でも行われているということでした。






ワット パー ターン(寺院、手工芸コミュニティスペース、博物館)


チェンマイ市街を少し離れた場所にある仏教寺院ですが、その一角でタイ伝統的な手織機による織物体験などができ、工芸技術を伝承するためのコミュニティとしての場になっていました。

またほかにも古い学校や家屋などの歴史的建造物の展示や、古い経文を布で包んだものなど、歴史的な所蔵品の展示が行われていました。

タイでは寺院が観光地としてだけでなく、地元伝統文化のコミュニティを支える場としても機能していることが伺えます。




古い学校の様子が保存展示されています

古いお経を布で包んだもの

チェンマイの古い家屋の展示

PAKAPAN’S

チェンマイ近郊のアパレルブランド、PAKAPAN’Sのアトリエを訪問しました。

PAKAPAN’Sは伝統衣装をモチーフにしつつ、現代的なファッションを、オリジナルのデザイン、マーブリング技法、大柄の手刺繍で制作するアパレルブランド。








住宅の一棟を使った社屋で、10人ほどの社員により手描きで手刺繍の下絵を描く作業が行われていていました。下絵のトレースなど、膨大な手作業を担っている職人たちを含めて、みな若い人たちだったのが印象的でした。


Facebook、インスタグラムは2万人以上のフォロワーを持ち、インドネシア、フィリピン、台湾などに商品が流通しているそうです。SNSなどに使われる商品撮影用の照明と撮影コーナーも作られていました。

日本にも販路開拓のために展示会出展している記事が、帰国後に繊維ニュースにも掲載されていました。

pakapan'sの会社の前でチェンマイ最後の記念撮影

ウドンタニー編

チェンマイから飛行機で東へ一時間、イサーン地方と呼ばれるタイ東北部に移動し、そのなかのウドンタニー県の中心へ。ウドンタニーでは、THTIのJeabさん、Nokさん(上の写真の二人)が案内してくれました。

hattra

ウドンタニーの市街に着いて最初に訪問したのが、高級アパレルブランド hattra(ハトラ)のショップ。

ウドンタニ―の中心市街地にあり、手織りの絣織り(マットミー)、紋織り(ミーキット)などを使ったオリジナルのアパレル製品を製造販売する高級店。

伝統技術と共に新しい技法やアーティスティックなアイデアが盛り込まれ、伝統衣装ではなく、現代の新しいファッションに用いられています。












hattraの製品は、タイの認証制度で五つ星(OTOP Premium)を受賞しているほか、OTOPの認証シールが貼られた生地が多く並んでいました。

下の写真にある金色のシールは「ロイヤルピーコックブランド(ゴールド)」で、その要件である「経糸、緯糸ともタイ産シルク糸を使用」、「天然染料または環境に優しい化学染料を使用」、「伝統的な手織機を使用」という条件を満たしていることを証明するものだそうです。





なおOTOPは2001年から始まったタイの一村一品運動(One Tambon One Product ※tambonは郡と村の間に相当する行政組織)であり、織物だけでなく食品、飲料なども対象で、認証制度のほか、商品開発やマーケティング支援を行う地場産業振興事業の総称ともなっているそうです。

Khwanta

タイシルクの高級ブランドを展開するアパレルブランド「クワンタ」を訪問しました。
地元の200人ほどの手織り職人とのネットワークで生地づくりから縫製までを地元で行い、国内外に販路を持っています。





本社のある拠点は、ウドンタニー県の西隣にあるノーンブアランプー県の中心街から数キロ離れた、のんびりと広がる田園風景のなかにあります。

豊かな自然に囲まれた敷地には、ショップのほかにカフェ、ミーティングスペースが整備されていて、クワンタの商品が美しくプレゼンテーションされた空間が広がっていました。






さらにここは生産拠点であり、また織物生産について学ぶ体験・研修施設でもあります。
織物工房、染色工房、糸繰り工房、整経工房など生産に関わる機能が集約しており、さらに200人収容可能な研修施設、食堂、子供たちのための体験工房なども用意されていました。



















社員は30名ほどだそうですが、工房には近隣の職人が通ってきて、必要な時にはスタッフとして手伝ってくれる協力関係が成り立っているそうです。

次世代を担う近隣の児童への織物文化の継承にも意欲的で、訪問した時にも200名ほどの学生が研修に訪れていました。



現在の代表のター氏は三代目で、二代目の母親と同様にファッションの学校で学び、ファッションデザインまで手掛けています。





クワンタはイギリスでのファッションショーも行うなど高いクリエイティブを実現し、さらに地元への価値還元や持続可能性を高めるような足元への配慮も充実しています。

こうしたラグジュアリー提案と地元への還元を強く意識したブランドにイタリアのブルネロクチネリが知られていますが、ター氏に尋ねたところ、知らなかった、とのこと。「僕たちのようなことをしているブランドがあるんだね」とナチュラルに口にする姿は、とても格好良かったです。




ナカー衣料品市場/Na Kha Clothes Market

ナカー衣料品市場は、東西300m、南北100mほどのアーケード内に数十のショップが軒を連ねる衣料品専門の市場です。





グーグルマップでは「バーンナーカー(ตลาดผ้าบ้านนาข่า)」として表示されています。
(北緯,東経 17.551434,102.801140

手織りのマットミー(絣織り)、ミーキット(紋織り)のシルクを中心とした生地、アパレルが、溢れんばかりの規模感で販売されています。

主な客層はタイ国内の観光客だそうで、官公庁を中心にオフィスなどによって伝統服を着る日が設定されていて、そうした機会に着る服として需要があるとのこと。

基本的に手間のかかった伝統的な生地の洋服が並んでいるはずですが、あまりに多く並んでいるため一見するだけでは高級そうに見えず、普段着が並んでいるように見えるというのが第一印象。

しかしその中に埋もれるように、ひと目見てただものではない、と分かるような手の込んだ逸品を扱う店がありました。








このショップのオーナーさん。奥の看板には、タイ語で「この店はロイヤルピーコックブランドのシルクを販売しています」と書かれているようです。

ロイヤルピーコックブランドとは、先ほど紹介した同じウドンタニーのショップ「hattra」でも紹介したゴールドの認証シールのことで、「経糸、緯糸ともタイ産シルク糸を使用」、「天然染料または環境に優しい化学染料を使用」、「伝統的な手織機を使用」という条件を満たしていることを示しています。

イサーン・テキスタイル・ミュージアム/Isan Textile Museum

イサーン・テキスタイル・ミュージアムは、ウドンタニー・ラーチャバッド大学FTCDC(ファブリック・テキスタイル・クリエイティブ・デザイン・センター)内にある、イサーン地方の伝統織物やその素材である様々なシルク、そして織物で作られた衣類などが収集、保管されている博物館です。











なかでも圧巻だったのは、まずこの
世界最高の1775本の「綜絖」を備えた織機の展示でした。



この超複雑な紋織りを、手織り織機で実現するための仕掛けです。


この織機の謎については、次回以降の投稿でたっぷりご紹介したいと思いますので、ご期待ください。

そして次は、世界一の長さ1199mの紋織シルク(ミー・キット/Mee Khit)の反物。




この1199mもの長さのひとつながりの織物は、6か月を費やして
1991年に作られたものだそうです。おそらく何十人もの職人たちが関わるビッグプロジェクトだったことでしょう。

その他、このミュージアムでは地域の織物、衣類を購入・寄附されたものを収蔵する可動式ロッカーなどを備えています。



FTCDC全体としては、この博物館のほかに、当センター同様に品質検査をする設備、研修所を備え、ファッション開発、デザインの支援を行う機能も担っているとのことでした。



ウドンタニーを案内してくれた二人のうちNokさんがウドンタニー空港まで送ってくれました。このあとバンコクへ向かいます。

バンコク編



バンコクに到着。写真は空港に見えますが、じつは
空港ビルにいるような雰囲気を味わえることで知られた巨大ショッピングモール「ターミナル21」
エスカレータの下にあるサインも飛行機のピクトグラムとともに「Arrival(到着便)」と書いてあるのが見えます。



バンコクを案内してくれたのはこちらの三人。左がTHTIのPUNNRATさん、右はPPさん、真ん中は通訳の大学生、プレープロイさん。

THTI

今回、舟久保織物さんの舟久保勝さんとシケンジョの五十嵐を招いてくれた、研修事業の主催者、THTI(Thai Textile Institute)/タイ繊維産業開発機構を訪問しました。

THTIは、今回のデザイナー教育プログラムのような人材育成のほか、国際的なISO規格に基づく品質検査や、シルクの高品質化や新技術の研究開発なども行う、公設試験研究機関としての側面を持っており、いわばタイの国立シケンジョです。

引張試験、ピリング試験、摩擦堅ろう度試験など、当センターでもなじみのある試験機も多く見られました。

規模的には当センターをはるかに上回っており、ビルディングの1~5階フロアまでを占め、およそ30名の職員が各種試験業務を行っていました。











THTI所長のチャンチャイ・シリカセムレット博士にも面会することができました。




クイーン・シリキット・テキスタイル博物館

タイシルクを愛し、支援してきたシリキット王太后をたたえる博物館。歴史的なタイシルクやその製造技術のほか、シリキット王太后の衣装も展示されていました。

訪問から数か月後、シリキット王太妃は10月24日にご逝去されました。
心よりご冥福をお祈りいたします。

展示物もさることながら、伝統的な錦織り(Pha yok dok)の織機による実演映像など、制作風景の動画が素晴らしく見ごたえがありました。写真撮影できなかったのでご紹介できないのが残念です。

ミュージアムショップでは絣織り(マットミー)生地などの反物をカット売りするコーナーがあり、ショップの担当の方が見事なハサミさばきで生地をカットしてくれました。



そしてバンコクのスワンナプーム国際空港で、タイ王国でのハタオリトラベルも終了です。
空港の守り神である鬼神(ヤック)の前で記念撮影。

今回紹介させていただいたのは織物に関連するスポットのみですが、それ以外にも地域の歴史にまつわる様々な場所、伝統的なローカルフードなど、様々なタイの魅力を紹介していただき、タイの文化の豊かさに驚かされ続けた数日間でした。

お会いした人々はみんなタイの歴史文化や産業に誇りを持ち、タイでの暮らしを心から愛していることが感じられました。そんな方々に山梨のことを紹介させていただき、ものづくりの素晴らしさを共有できたことは、とても嬉しい経験でした。

THTIの皆さん、ありがとうございました。


次回は、帰国後にTHTIのJeabさんとやり取りして教わった、タイの織物のメカニズムをご紹介します!


(五十嵐)