2022年6月28日火曜日

太極拳のなかのハタオリ

 コロナ禍を機に、昔から興味のあった太極拳をYouTubeで勉強していたときのこと。

「これは機織(ハタオリ)の動きです」

などと説明のされるパートがあることに気が付きました。

それが、このアニメーションの動きです。

参考:竹内太極拳チャンネル

実際には、この動きが左右逆になったものと合わせてひとセットになります。

これがどういうわけでハタオリの動きなのか、ひみつを探っていきたいと思います!

太極拳とは

まず太極拳といえば、香港や台湾の朝の公園で市民たちがそろってゆっくりとした動きをする映像が思い浮かぶと思います。

太極拳といっても実は大きく分けて2つあり、ひとつが武術としての太極拳、いわゆる「伝統拳」で、もうひとつが、それをもとに誰にでも学べるよう簡略化されて戦後に生まれた「制定拳」だそうです。朝の公園の映像で見るのは、こちらですね。

制定拳のうち、最もポピュラーなものが 二十四式太極拳(簡化太極拳と言われています。

今回紹介するハタオリの動きの太極拳は、二十四式太極拳の中に含まれる18番目の動作、左右穿梭(ズォヨウ チュアンスォ)と呼ばれるものです。


【二十四式太極拳(簡化太極拳)】

 01 起勢
 02 左右野馬分鬃
 03 白鶴亮翅
 04 左右摟膝拗歩
 05 手揮琵琶
 06 左右倒巻肱
 07 左攬雀尾
 08 右攬雀尾
 09 単鞭
 10 雲手
 11 単鞭
 12 高探馬
 13 右蹬脚
 14 双峰貫耳
 15 転身左蹬脚
 16 左下勢独立
 17 右下勢独立
 18 左右穿梭   ズォヨウ チュアンスォ   Zuǒyòu chuānsuō 
 19 海底針
 20 閃通臂
 21 転身搬攔捶
 22 如封似閉
 23 十字手
 24 収勢



左右穿梭とは

左右穿梭 という動作の名前にある穿梭」とは、中国語でどういう意味か調べてみました。

まず漢字一字ずつだと、

 穿」 =(穴を)開ける,突き通す,貫く
Weblio/日中中日辞典、HANZII (Mandarin Chinese Dictionary)

  = 杼(製織の際に横糸を通すのに使う器具)
Weblio/日中中日辞典、HANZII (Mandarin Chinese Dictionary)

このような意味になります。


二つ合わせた穿梭」 では、

ひっきりなしに往来する,往来が頻繁である.
Weblio/白水社 中国語辞典

梭のような行き交い
Weblio/日中中日辞典

頻繁に往来する
wiktionary

[動]<喩>織機の梭(ひ)のように行き交う.往来の頻繁なこと.
コトバンク/中日辞典 第3版

(車両・人間が梭のように)ひっきりなしに往来する,往来が頻繁である.
HANZII (Mandarin Chinese Dictionary)

となっています。

これらの結果から、 穿梭」とは中国語の(=日本でいう杼、シャトル)が往復するさまから派生して、何かが何度も行き来する様子を表していることが分ります。

この使われ方は、日本語ではシャトルバスで使われるときの「シャトル」に込められたニュアンスが近いかもしれません。

もちろんこの場合のシャトルは、織物で緯糸を左右に運ぶシャトルの動きからきている用語例です。


以上より、太極拳の 左右穿梭 とは、織物のシャトルのように、左右に繰り返し行き来する動きから名付けられたと考えて良いかと思われます。

ここでもう一度、太極拳の 左右穿梭 ではどんな動きをしているか見てみましょう。


右手に
水色、左手の動きに黄色で補助線を描き、連続画像にして並べてみました。

これを織物の動きになぞらえると、右手の水色経糸が上下に開口するようす、左手の黄色では杼(シャトル)が経糸のあいだを通る緯入れを表していると言えます。

ハタオリの開口、緯入れの様子の図解と、太極拳の 
左右穿梭 並べて、アニメーションで見てみましょう。




太極拳の動きのなかで、右手と左手が交互に経糸の開口シャトルによる緯入れのような動きをよく表しているのが分かります。

これで、太極拳の 左右穿梭 「ハタオリの動き」だと言われるわけが、納得いただけたかと思います!


ちなみに、太極拳の 左右穿梭 は、 左右玉女穿梭 (ズォヨウ ユィニュィ チュアンスォと表記されることもあります。

「玉女」を調べてみると、

 翡翠の女の子 Google翻訳 
 翡翠の貴婦人 DeepL翻訳
 真っ白で美しい女 weblio中国語翻訳(日中中日辞典)
 1 玉のように美しい女。美女。美人。2 仙女。天女。コトバンク 精選版 日本国語大辞典

という意味になります。左右玉女穿梭 という言葉では、とても美しい女性がハタオリをしている姿を表現しているようですね。


この太極拳の中のハタオリについては、2021年春、ファクトリーショップECサイトのポータルサイト「ハタオリマチ商店街」オープンを記念した生配信オンラインイベント「 知れば知るほど好きになる♡ ハタオリマチ商店街はしごトーク!」で、「甲斐絹のがっこう」としてもご紹介しました。

よろしければそちらでもご覧ください。



(五十嵐)

2022年6月23日木曜日

織物の基本を学ぶ14日間/織物基礎研修ダイジェスト

毎年恒例、シケンジョで年度初めに開催している研修「技術者研修『織物基礎及び設計』」が終了しました。

参加したのは、宮下織物(株)、光織物(有)、富士桜工房(山崎織物(株))、OULO、装いの庭、
で働く6人の研修生。

職場だけでは学べない、織物の全体像を理解してもらうためのカリキュラムです。

14日間×2時間、使ったパワーポイントは600ページという、膨大な研修内容をダイジェストでお送りします。

一日分ごとに、より詳しく学べるシケンジョテキの過去のアーカイブへのリンクを貼りますので、内容を詳しく見たい方はぜひそちらもご覧ください。


DAY1
*織物とは/織機の歴史/織機の原理/織物の設計要素/産地の概略
*スパンとフィラメント/糸をほどいてスパンかどうか確認

【オンライン織物基礎研修 ①】機屋さんのテキスタイルデザイン

【オンライン織物基礎研修 ②】スパンとフィラメント

織物とは何か?人類の歴史をひもときながら、最後にはみんなで糸をひもといて、スパンかフィラメントかを調べました。その違いを知らなかった、という研修生が多数。






研修の全体的な目標は、上図の織物のさまざまなパラメータのそれぞれに、どんな選択肢があり、どんな意図でオプション選ばれているかの全体像をつかむこと。上の図の左から右へ、という方向で勉強を進めていきました。


DAY2
*手機(腰機)体験
*単糸と双糸/インターレース
*顕微鏡で生地を観察

【オンライン織物基礎研修 ③】単糸/双糸、撚糸、インターレース糸

研修は基本的に座学の勉強ですが、なるべく体を使って体験できるように試みました。

原始的な織機、腰機(こしばた)体験では、織機に張られた経糸の張力を整えることがとても重要であることや、手織りの大変さを実感してもらうことが狙いです。

スパン/フィラメントに加えて、単糸と双糸についても学び、糸についての解像度がだんだん高くなっていきました。










DAY3
*撚り / S撚・Z撚 / 上撚・下撚 / 強撚・甘撚
*模型で撚りを体験する/検撚器実習
経と緯/密度/鯨寸と曲寸/筬羽/〇羽〇本入れ

「撚糸」のひみつ

【オンライン織物基礎研修 ④】タテとヨコの違い

スパン/フィラメント、単糸/双糸の次は、撚りのS・Z、上・下、強・甘の違い。

三日目ですが、まだまだ糸の勉強が続きます。

ちなみに研修で体験した実験を収録したバックナンバー「撚糸」のひみつは、シケンジョテキで最高の閲覧回数を誇る人気コンテンツです。










DAY4
*繊度/番手/恒重式と恒長式/デニールの測り方
*密度と番手を調べる実習


【オンライン織物基礎研修 ⑤】糸の太さ ~ 繊度と番手 ~

【オンライン織物基礎研修 ⑦】糸の密度

【オンライン織物基礎研修 ⑧】糸の密度~筬羽と打ち込み

4日目は糸の番手。まだ糸の勉強は長く続きます。

そして密度と番手の測り方を学び、だんだん織物に近づいてきました。


四大天然繊維、麻、綿、絹、毛、を見分けようと糸を観察。


A~Cチームごとに、生地を分解して密度と繊度を計る実習をしました。



DAY5
*染色/素材と染料/染色実習
*品質検査/各種測定機器の見学

5日目は講師陣が変わり、染色と品質検査について学びました。

各自の染色体験を染色機にかける時間を活用して各種測定機器を見学し、濃厚な一日に。





ビーカー試験(少量の染色試験)のための装置で、各研修生が染色を体験しました。



一枚の生地に複数の素材が織り込まれた試験布を染めた結果。酸性染料と直接染料を使ったもので、サンプルによって染まり方に違いがあること、染まる糸、染まらない糸がはっきりとちがうことが分ります。


上は対光堅牢度試験機と、その結果の判定の様子。

下は摩擦堅牢度試験機。


撥水試験装置


DAY6
*産地概論/産地の特徴/歴史/甲斐絹/戦後の産地/近年の取り組み
*甲斐絹の生地見本見学

映画『千と千尋の神隠し』にみる「名前」と主体性の問題

甲斐絹ミュージアムより #1

六日目は産地の歴史から現在を学び、100年前のルーツ甲斐絹を見学する日。

富士吉田市役所の富士山課からもゲスト聴講に来てくれました。
























日頃は一般公開していない甲斐絹サンプルをじっくり観察し、産地のルーツを感じてもらいました。

DAY7
*絹の繊度/中と片
*素材/天然繊維/植物性・動物性/再生繊維/合成繊維
*染色/かせ染色とチーズ染色
*整経/部分整経と見本整経

【オンライン織物基礎研修 ⑥】糸の太さ ~ 絹の「中と片」~

糸の勉強のラストは、絹糸の番手に使われる「中」と「片」。山梨が養蚕王国だった時代のことも勉強しました。

整経、染色の職人を紹介するビデオ映像も鑑賞。部分整経と見本整経の違い、かせ染色とチーズ染色の違いを学びました。










DAY8
*織物組織/三原組織/組織図の描き方
*組織を顕微鏡で観察する実習

【オンライン織物基礎研修 ⑨】織物組織の「白黒大小」

【オンライン織物基礎研修 ⑫】三原組織のキャラクター

ついに織物組織に入りました。

あらかじめ渡してあった生地サンプルセットを使い、生地に触ったり顕微鏡をみたりしながら、組織の違いとその役割を学びました。



























DAY9
*織物組織/繻子織の組織図の描き方/飛び数
*色糸と組織による表現の実習/ピンドット、ピンストライプ、千鳥格子
*組織を顕微鏡で観察する実習

サテンのひみつ① 光沢のひみつ

三原組織のラスボス、繻子織について学び、そのあとは簡単な組織で複雑な柄を出す工夫として、色糸と組織の組み合わせによる表現について、方眼紙で塗りつぶしながら実習しました。













方眼紙に向き合ったあとは、顕微鏡で実際の繻子織を観察。



白と黒の糸を繰り返し並べ、簡単な綾織りを織るだけで、千鳥格子(ハウンズトゥース)の柄が生まれる仕組みを実習で学びました。


DAY10
*織物組織/白黒大小/軽重浮沈
*模型で組織を作る実習


織物組織の役割を考えると、三原組織の違いよりも、むしろ重いか軽いか、大きいか小さいかが重要と思えることが多いです。

そうした観点から組織をとらえるための考案した「白黒大小」の図をつかって学び、紙で組織を作る実習をしました。










DAY11
*織物組織/二重組織/風通組織
*模型で組織を作る実習2

組織の軽い・重いを応用すると、どんなことができるか?

タテ二重、ヨコ二重から、風通組織への発展を学び、紙で風通組織を作る体験をしました。







風通(タテヨコ二重)組織を紙テープで再現する実験。










この段ボールの織機は、10年近く前からこの研修で受け継がれてきたもの。代々数センチずつ織り進めてきました。


DAY12
*色々な織り方/紗・絽・羅/擬紗/ワッフル/ヘリンボーン
*紋栓図と引込図
*ジャカードとは

さまざまな組織の実例をとおして、ドビー織機でいかに複雑な表現をするか、という先人の工夫を学びました。














DAY13
*ジャカードとは/紋紙の仕組み
*多丁杼のジャカード
*ジャカード織物の設計実習

【オンライン織物基礎研修 ⑪】ジャカードという名の劇場

これまで学んだ組織の知識を生かして、最後の仕上げはジャカード織物の仕組みとその目的について学びました。

ジャカード織物は、部分ごと(場面ごと)に主役・脇役になる糸(役者)や、その見え方(演じ方)が変わり、それを設計することは、芝居の脚本を書くことに似ている、という観点から、「ジャカード織物とは、糸が織りなす劇場である」という自作の格言を披露しました。

仕上げに研修生には各自シェイクスピアになってもらい、ジャカードの組織を自由に決める課題に取り組みました。


研修生それぞれが指定した組織を使って同じ柄を織る実習。同じデザイン画でも使う組織によって全く印象が変わります。






同じデザイン画で、緯糸3丁(3色交互に織り込む方法)で織ったサンプル。

経糸が黒(左側)か白(右側)かで全く印象が異なるものが出来上がりました。



DAY14
*相互見学/富士桜工房・宮下織物(株)・光織物(有)

研修の最後の日は、恒例の相互会社見学。

ふだんの仕事ではなかなか足を踏み入れられない同業他社を見学できる、貴重な機会です。


1か所目は河口湖畔の商業施設ハナテラスの一角にある富士桜工房。
織物企業が自社で直営し、他社のファクトリーブランドも含めて販売するという、産地と消費者の貴重な出会いの場になっています。





さまざま犬種をジャカード織物にするプロジェクト「Iruyo(いるよ)」。”取扱犬種”がすごい数になっていました。



2か所目は、ウェディング衣装や舞台衣装の生地を製造する宮下織物(株)。

青い花柄の生地は、忌野清志郎さんが最後のステージで身にまとった伝説的なテキスタイル。もともとは真っ白なウェディングドレス用の生地だったということを初めて伺いました。


ジャカード織物の設計の中枢。
図案と組織の境界レベルの微細なところまで、手作業できれいにしていく現場を拝見しました。



3か所目は、金襴緞子や掛け軸の額装生地を作っている光織物(有)の工場。

沢山の織機が動いていますが、もちろん機械だけでなく職人さんたちの細やかな手仕事があちこちに入っていることを感じました。



14日間の研修の最後に記念写真。終わってみるとあっというまに思えます。

小さな産地とはいえ、なかなか同じ境遇で働く他社の人とは出会う機会がありません。この研修がそれを補う場になってくれれば良いと思っています。

また、若手職人がそういう社外ネットワークを構築するための支援として、「糸へんの会」という定期的な集まりが実施されています。真ん中の青いマスクの方は、糸へんの会のメンバーで丸幸産業(株)の堀内洋平さん。回の見学に参加してくれました。

研修参加企業の皆様、ご協力ありがとうございました。
研修生の皆さん、これからも頑張ってください!

(五十嵐)