2012年12月27日木曜日

「ヤマナシ ハタオリ トラベル」産地見学バスツアー2012秋冬 第2弾

今年で2年目、第6回目にあたる産地見学バスツアーが行われました!

産地の工場で作り手と出会い、製造現場を見ることで、ものづくりの魅力を共有できる同士のビジネスマッチングを育む、B to Bのこの企画。今年もいくつもの出会いが生まれ、ビジネスへとつながる事例が生まれました。

参加者の皆さまからは、このような好評の声をいただいております!


「生地が大変な手間や時間をかけて出来上がることを改めて知り、頭の下がる思いです」
(アパレル/デザイナー)

「実際に機械を動かしていらっしゃるのを拝見して、より布地や糸を大切に使わせて頂こうと思いました」
 
(アパレル/デザイナー) 

「大変勇気をいただきました!」 (フリー)

「拝見させていただいた工場はどちらもとても素晴らしかったです」
 (テキスタイルエディター)
 
「機織りの精密さ、複雑さを垣間みることが出来ました」 (ブランド起業サポーター)

「素材がどのように出来上がっているのかがわかったツアーでした」
 (アパレル/デザイナー)

「大変魅力のある産地だと思います」 
(アパレル/デザイナー)

「産地の技術の素晴らしさに感動しました」 
(アパレル/デザイナー)

「現場を観ることで、本当に考えるべきことや生産の凄さを改めて感じました」 
(アパレル/デザイナー)

「山梨で織物が今もまだこんなに盛んだと知って驚きました」 (映像製作)

「大きな可能性を感じました」 (卸売業)

(バスツアー開催後のアンケートより)

それではさっそく、今年度ラストのバスツアー、ヤマナシ ハタオリ トラベルの様子をお送りしましょう。
今回は富士吉田から少し下った場所にある西桂町の織物産地をまわります。

冬の澄んだ空気に凛とした富士山がバスツアー参加者をお出迎えです。
富士吉田に来たら先ず行かなくてはいけないのは「北口本宮冨士浅間神社」!
富士山を鎮めるために建立された神社で、スーパーパワースポットとしても有名な場所です。

境内にはなぜか鹿。

 浅間神社で参拝を終えた一行はシケンジョへと向かいます。
ここでは今は無くなってしまった幻の手織り技術「甲斐絹」の資料と、甲斐絹の技術がどのように今の産地の技術力と結びついているかのレクチャーを受けます。
なんと今回のバスツアーはテレビの取材も入りました!!
「甲斐絹」は平織りといったもっとも単純な織物組織と様々な染め技術を使ってつくられた織物。シケンジョテキでも何度か紹介してきました。
大正時代の生地見本帳。
生地の面白さもさることながら、生地の横に書いてある売り文句を見るのも楽しいです。みなさん、食い入るように見入っていました。
ここでシケンジョからサプライズ!
さっき(1時間前)浅間神社で集合写真をシケンジョにある織機を使い、織りだします!!

撮影から織物になるまでのシケンジョの早業に驚きの声をいただきました。

従来、高精細なデータ作製は多大な時間(数日~半年等)を要するものです。
凄腕の職人技術で時間がかかるからこそ、特に線と線の境界の処理等が非常に綺麗になります。このような技術のすべてをコンピュータで省力化することは不可能ですが、その一部に関して
シケンジョの開発した特許出願中技術を用いると、デジタルカメラで撮影した画像の陰影を反映した高精細な織物用データ作製が数分以内で可能でした。

 

 ところ変わって武藤株式会社にやってきました。
写真に写っている方が社長の武藤さん、と営業部長のオピヨさん。
武藤さんのところではストールを織るのを得意としています。
武藤さんのストールの凄いところは、繊細な糸使いによる薄い生地感!!
よりよいストールを作る為に、糸の開発から始め、他社には簡単にまねできないような織物を生産しています。
こちらは工場の様子。
織物の設計図にあたる紋紙。


出来上がった美しい商品だけでは決して伝わることのない、生産現場の生々しさがあります。
ジャカード織機の(つうじ)

ここからは2班に分かれ、歩いて機屋さんを巡ります。
西桂町は小さい町なのですが、機屋さんが多く、ほとんど歩いて回ることができるのは西桂町の特徴の一つです。


小野田染色
にやってきました!!

小野田染色は西桂町浅間神社の鳥居の真横にある、なんとも御利益がありそうな染色屋さんです。
ここの特徴はなんといっても、きれいな水!!
染色に必要不可欠な水はすぐ横で沸いている富士山の天然水が使われています。つまり、ミネラルウォーターで糸を染めているということです。なんと贅沢な染物でしょうか?
写真の藻は「バイカモ」といって、都道府県別レッドデータブックで絶滅危惧種に指定されている場合も多くあるらしいそうです。水がきれいなところでないと育たない貴重な藻で初夏から初秋にかけて小さな梅の様な花をつけます。









小さな染工場には郡内織物産地の特徴の一つでもあるかせ染め(糸をぐるぐるリング状に巻いた状態で染めること)の染機が並んでおり、まるで染めの研究施設のようでした。
山崎織物株式会社の見学が始まりました。
山崎織物はネクタイを得意とするいわゆるテーブル機屋さんです。「テーブル機屋」とは自分で織機を持たないかわりに機屋さんのネットワークを持って生産してもらう形の機屋さんです。自家工場を持たないため、企画に専念する事ができるといったメリットがあります
このバスツアーのために用意してくれたショールームコーナーには、さまざまな素材織りの商品がところせましと並んでいます。






 そしてつぎは織元東邦シルク
ここはネクタイやストールを得意としていますが、なんといっても見学の目玉は紗織りの織機です!
紗織りとは、織る時にタテ糸が上下だけでなく左右にも動かされて、タテ糸同士が8の字に交差するようにしてヨコ糸を挟み込む織り方です。タテ糸、ヨコ糸の交差点がしっかり固定されるので、うんと粗い密度で織っても糸がスリップせず、また独特のハリが生まれます。
この特徴を活かしてうまれた隙間のある
織物が紗織りで、夏物の着物やネクタイに使われています。平安貴族がかぶっていたようなスケスケの烏帽子も紗織です。
天井裏にあるジャカード機構から降りる通糸は、3つのグループに分かれています。
右から、タテ糸を左右に振るためのグループ、柄を出すためのグループ、左右に振るタテを振り幅分ゆるめるためのグループ。


ゆっくり動かしてくれましたが、それでも糸の動きはまるで分かりません!


こちらは普通のドビー織機で織られているストール。極限まで細い糸を使っているので、こちらも紗織ではないけれど、スケスケです。
ヨコ糸として使われる糸のストック。
これが紗織のネクタイ生地。美しい!



こちらもスケスケですが、糸が細いわけでもなく、紗織でありません。擬紗(ぎしゃ)組織のストール。ふつうのドビー織機で紗に近い生地を作るための織り組織が使われています。

 つづいて最後の目的地、洋傘の老舗、(株)槙田商店へ。

槇田商店では、昔からの洋傘に加え服地の事業部も盛んです。服地担当槇田哲也さんに、会社の歴史、概要を伺います。
大口ジャカード織機を活かした、ひとつながりの大きなヒマワリの柄。


織機の上でつながれたタテ糸。ちょうど「撚り付け」の工程が行われていました。



そして傘の裁断と縫製の現場へ。上の写真で傘生地の検反の説明をしてくれている職人の幡野さんは傘づくり歴25年というベテランだそうです。見学者に向けた幡野さんのプレゼンテーションは回を重ねて進歩し、エンターテイメントの域にとどきそうになってきました。いつも見学のハイライトになっています。
貴重な19世紀の手書きの織物資料。まるで作曲家直筆の楽譜!
最後は三つ峠グリーンセンターで交流会。西桂の皆さんと熱い情報交換が行われました。中にはこの場で商談に進まれた方もいて、マッチング事業としても今後が楽しみになってきました。

興味をもってバスツアーに申し込んでくれた参加者の方々、そして工場をオープンにして受け入れてくれたハタヤさんたち、両者の熱いハートがとてもいい形でふれあい、つながることができたのではないかと思います。

いまはネット上にも情報が溢れていますが、やはり人と人が現場で出会うこと以上に濃密な情報のやりとりはあり得ないのではないでしょうか?

今回の2回の秋冬バスツアーでは、
アパレルブランドや雑貨・小物系のブランドなどの若手デザイナーaaAaa、A.Dupre、ASEEDONCLOUD、SEATA、nooy、NEGENTROPY、MINOTAUR、VALENZAなどなど)のほか、都内皮革産地のメーカさん(そのうちのさんには11月2日にヤマナシ産地若手が見学させていただいています)、そしてハイファッションや装苑の編集に携わってこられたベテランファッションエディターの西谷さん映像作家の三梨さん、多くの方々を産地にお招きしました。
いろいろな出会いとその成果を積み重ねながら
2年目を迎えた今年度バスツアーは、一旦シーズンオフを迎えます。来年はさらにパワーアップし、首都圏近郊産地ならではのマッチング事業として精度を高めていきたいと思います。
どうぞご期待ください!

ずっと一緒にバスツアーを主催し客員研究員として同行してくださっている台東デザイナービレッジ村長の鈴木淳さんのブログでも、このバスツアーが産業育成支援の視点から丁寧にまとめられています。こちらもぜひご覧ください。

どうすれば会社とブランドが育つか


(五十嵐・高須賀・上垣)



2012年12月25日火曜日

イギリスのバース スパ大学がヤマナシ織物産地にやってきた!

イギリスの世界遺産都市バースにある、バース スパ大学(Bath Spa University)でファションやテキスタイルを学ぶ学生がヤマナシ産地見学にやってきました!!

この産地見学は、バース スパ大学の日本研修での目的地のひとつにヤマナシ産地が選ばれての訪問です。今回は産地組合傘下の企業さんたちと共に、これまで実施した「バスツアー」のノウハウをもとにしたスケジュールプランなどでお手伝いをさせてもらいました。

Mt.Fujiさんもイギリスからのお客さんを迎える準備は万端の様子です。
最初に向かうは渡縫織物㈱!
渡縫織物でデザインをされている渡辺貴子さんがバース スパ大学の前身であるデザイン学校の卒業生だという情報を入手工場見学の打診をしたところ、快く見せていただけることになりました。一行は意外なつながりに驚きながら、渡縫織物に向かいます。
渡縫織物では、まず古いフランスの生地の見本帳や渡縫織物で今まで作ってきた生地のストックなどを見せてもらいました。
バース スパ大学のティム先生(右側の男性)が織機の解説をしています。
実際、織物の生産現場は専門用語もとても多く、うまく通訳が出来るのかと心配していたのですが、始まってみるとそんな不安は一気に吹き飛びました。もともと、ティム先生は日本へ織物を勉強する為に留学し、その後は群馬県の桐生の織物産地で織物のデザインなどに携わっていた為、日本語も織りの技術に関しても完璧な方でした。
特に織物の知識に関しては今までシケンジョで産地を案内した方々の中でも一、二を争うほど詳しかったと思います。
工場の様子。

イギリスの繊維産業はほとんど残っておらず、このような織物工場を見る機会は滅多に無いようで、みんな真剣に見入っていました。


渡縫織物の見学を終え、学校の先輩である貴子さんを囲み、記念写真を一枚。
富士吉田に来たからには、お昼御飯は吉田のうどんです。
JAPANESE FAST FOOD!!
腹ごしらえした後はシケンジョで、世界でも唯一無二の手織り技術「甲斐絹」のお勉強です。
「甲斐絹」は平織りという織物の中では一番シンプルな織構造と複雑な染め技術を使い、薄いのに奥行き感のある複雑な柄を作り出すという、なんとも日本的な織物です。
甲斐絹の次はMt.Fujiを祀る北口本宮冨士浅間神社へ!!
手水場での作法もしっかりと。

冨士浅間神社の次は織物産地見学に戻ります。一行はリネン織物を得意とする㈲テンジンに向かいます。

こちらは驚きの長さのパンチカード(ドビ―織機用)
見上げる長さです。
こちらは通常の長さのパンチカード(ドビ―織機用)
なんと、テンジンのショールームでは冷えた体を温める、白玉ぜんざいを振舞ってくださいました。日本のOMOTENASHIの心、きっと届いたことでしょう

織物の生産現場の次は織物の後加工工場山梨県織物整理(株)へ!


ひととおり工場見学を終えると、社長から粋な計らいが!
なんと、工場にあるニードルパンチの機械を使い、一人一枚のストールを作るワークショップを用意してくれていました!!
ニードルパンチは10000本近くある針で織物を刺すことで繊維を絡ませ、生地に異素材をくっつけたり、二枚の生地を一枚にしたりする、特殊な後加工です。
仕上がり待ちは、ドキドキです。
完成!!!
出来立てホヤホヤのストールを巻いて記念写真。
次に向かったのは洋傘を作り続けて140年の老舗槙田商店株式会社。




傘の組み立て現場も見学。
傘生地をカットした後もキズが無いか確認します。

織工場で織られていた生地が、傘になっていました!
傘生地を織るところから組み立てるところまでの生産を一貫して出来るのは「槙田商店」ならではの強みです。
シャンブレー&蛙張りの傘はバース スパ大学の皆さまにも大人気でした。

シャンブレー:タテ糸とヨコ糸を別の色糸で織ることにより、見る角度で色が変わって見える生地。
蛙張り:中の骨が見えないように内側にも生地を張ってある二重構造の傘。


180cm幅の超大口のジャカード織機で織られた生地。
以上が0泊1日、ヤマナシ織物産地でのインターナショナルな産地見学の模様でした。
このように写真で振り返ってみても、かなり充実した産地訪問であったな、と思います。

産地企業の皆さんの受け入れ態勢もとても手厚く、終始笑顔で日程を終えることができました。(最後はヘトヘトになっていましたが。。)


ローカルを突き詰めるとグローバルになっていくという話を聞いたことがありますが、ホントにその通りだと思います。今回イギリスの方々が感動している場面は、やはり山梨独自のものであったり、各々の
織物工場が積み立ててきた独自の技術であったり、すべてローカルなものであったような気がします。
ものづくりは常に流行の中にありますが、それとは逆に、自分たちの歴史や技術を掘って掘って掘りきれなくなるまでローカルを突き詰めることも大事なのではないかと感じました。そのとき初めて世界に通用するようなものになっていくのではないでしょうか?

とにもかくにも、訪問した側、された側の双方にとって刺激になり、とてもよい機会になったと思います。
ハタヤさんたちにとっては、「ヨーロッパ市場」という魅力的な響きをもつ土地からやってきた若い学生さんたちの目をとおして、日本のテキスタイル産地も充分に魅力的だということが感じられた一日だったことと思います。

ご協力いただいた産地の皆さま本当におつかれさまでした!



(高須賀・五十嵐)