2019年9月11日水曜日

『定規織り』第2作 ~織物と緯糸、耳のはなし~

以前の投稿でご紹介した『定規織り』、週末の時間をつかって第2作目を織ってみました。

新しいのは、左のシマシマ模様の方。右側は前回紹介した第1作です。

幅は2㎝弱、長さは50㎝弱あります。


今回のコンセプトは「シマシマ」。

織り方を定期的にさまざまに変えて、単調でない縞模様を作ってみました。

緯糸には、紺色と、薄ベージュ色の2色を使っています。


織物と緯糸、耳のはなし


織物の世界では、緯糸を1丁、2丁、と数えます。

今回は、途中までは紺色だけの1丁、途中から紺色薄ベージュの2丁で織っています。

写真をよく見ると、耳のところに糸がぴょーん、と飛び出して、

また生地の中に戻っているところがあります。

これは、1丁目を織っているときに2丁目の緯糸が、

そして、2丁目を織っているときに1丁目の緯糸が、次の出番を待っている状態です。

図解すると、次のような状態です。


次の出番まで、使われない方の糸は、舞台の袖で待っているようなかたちです。


こうした待機中の緯糸ですが、上の写真では、片側だけでなく、

布の両側に見える場所もあります。

そういう場所では、じつは紺色で2丁、薄ベージュで2丁、

併せて4丁の糸を使っているので、待機中の糸2丁分が左右にあるのです。


同じ色なのに、わざわざ2丁で織るのは、合理的でないような気もしますが、

じつは織物工場ではごく普通のことです。

その目的は、糸の染めや太さのムラが出るのを緩和することです。

同じ色でも2本交互に繰り返すと、バラツキが平均されて目立たなくなるわけです。


このように2丁で織る場合、どのような順序で1丁目と2丁目を織るかで、

出来上がる耳の形が変わります。

面白いのは、上図の下段と中段のように、

同じように1122、1122と織っても、

左右違う耳ができるときと、左右どちらも同じ耳ができるときがあることです。


こうした違いが生まれるのは、緯糸が往復する「シャトル織機」のときで、

レピア織機では原理上、この現象はありません。

シャトル織機、レピア織機の違いは次の図解をご覧ください。

緯糸と経糸の話は、以前の投稿『タテの糸とヨコの糸』に詳しく書いてあるので、

よろしければご覧ください。

また、いろいろな耳の美しさを特集した投稿『耳の世界』もよろしければどうぞ。




『定規織り』の機動力


『定規織り』の特徴は、簡単な材料で作れることと、

なにより場所を取らないことです。

畳んでしまえば、封筒や内ポケットにもしまえるサイズ。

織っているときでも、大きめのスマホくらいの場所しかとりません。


上の写真は、電車の中で、シートに座りながら、

長時間の移動中に織っているところです。

公共交通機関の中で織物を織ったのは、生まれて初めてです。

(もしかしたら世界初?)

長い移動時間でしたが、音楽を聴きながら充実したひと時をすごせました。

充電の心配にも通信料にも無縁。

退屈せずに長時間を過ごすには、スマホ以上の実力があるように感じられました。

何年かすると、新幹線や飛行機のなかで

『定規織り』にいそしむ人々の姿が珍しくなくなる日が来るかもしれません。



そういえば、まだ繊維のセの字も知らなかった高校時代、

遠い未来、年を取った自分が、椅子に座って

糸で何かを作っているビジョンが頭に浮かんだことがありました。

もしかして、これのことだったかも!?




(五十嵐)

2019年9月5日木曜日

『定規織り』、最後まで織ってみました!

前回ご紹介した『定規織り』を、自宅に持ち帰って織ってみました。

前回の図解で、こんな風に書きましたが、



実際にそのようにして織り続け、ほぼ元の生地の長さぶんの織物ができました。


織る前の生地との比較がこちらです。



太い糸を織り込んだせいか、少し短くなりました。

両手のように見えるのは、後でなにかに使うとき結べるように、

長い緯糸を織り込んだものです。

頭のように見えるのは、あまった経糸です。

もともとはシャトルで織った緯糸だったので、耳のところの折り返し部分が

ループになっています。


元の生地は、(有)テンジンさんから特別に分けていただいた

コットン(経糸)×リネン(緯糸)の織物。

このタテヨコを90度回転し、リネン(緯糸)を経糸に使い、

別の織物の経糸に使っていた紺色のリネン糸を緯糸に使って織ったもので、

リネン100%です。

経糸と緯糸の関係が錯綜しており、わかりづらくてすみません。




ご覧いただくとわかるように、いろいろな織物組織を使って織ったので

模様が何種類か見えています。


どんな風に織ったか?


どんな組織で織るとどうなるのか、参考までに拡大写真でお見せしましょう。








まるで地層のように、さまざまなパターンが積み重なっています。

この写真の上から下の方へ向かって織り進めています。

上から下に向かって、だんだん細くなっているのは、

途中で何本か、経糸が外れて抜けてしまったためです。

次回は、次のように抜けないようにする工夫をしたいと思います。

*案1 定規になにかパーツを付けて、左右から糸が落ちないようにする。

*案2 経糸が外れないようクリップをいくつかつけて織る。


なお、この織物の経糸は25~30本程度あります。

上の図解の組織図は、そのうちごく一部だけを示しています。

また左右の耳にあたる両端の経糸だけは、組織図に関係なく、

上、下と交互に織られています。

詳しくは前回の図解をご覧ください。




どのくらい時間がかかった?


織るのにかかった時間は、6~8時間ほどです。

毎晩ごはんのあとに少しずつ織って、作業日数は4日ほど。

機械で織るのに比べたら、そうとう長い時間が掛かります。

でも、手を動かしている時間は、不思議な楽しさがあり、

さあ、今日はどんな織り方をしようかな、と

毎日の作業が楽しみにもなりました。


いつか見たテレビ番組で、フランスの田舎にある手芸屋さんの名前に

”La main qui pense” =考える手

というのがありました。

リビングで織っている間の時間は、頭で考えているのか、手で考えているのか

区別がつかないような感覚がありました。

このフランス語が表しているのはこういうことか!

と納得できたように思います。




簡単な道具でできる『定規織り』、

みなさんも良かったらチャレンジしてみてください!



(五十嵐)