2016年5月12日木曜日

トレンドと暮らし、テキスタイル。 (セミナーレポート)

トレンドと暮らし、テキスタイル」という名の勉強会を平成28年4月26日(火)に開催しました。



○日程 4月26日(火) 13:30~15:30 

○テーマ 「トレンドと暮らし、テキスタイル」

「私たちの暮らしやものづくりがどんな風に世界とつながり、変化していこうとしているのか?
表面的な色やカタチではなく、ものづくりを取り巻く広い世界の流れを把握する手段としてトレンドを学ぶことが、これからの産地には求められています。そして、世界の一流ブランドがどんな風にトレンド情報を活用しているかを知ることも、テキスタイル産地にとっては重要です。世界的なトレンド情報会社のひとつトレンドユニオン社では、トレンド情報がどのように作られ、そしてどのような企業・ブランドに伝わり、どのように使われているのか?そんな具体的な事例をとおして、テキスタイル産地に向けたトレンドを考えるための勉強会を開催します。」

○講師 家安 香 客員研究員



ヤマナシ織物産地の機屋さんだけでなく、遠方からの参加者も参加し

充実した内容の勉強会となりました。

今回のシケンジョテキでは、そのエッセンスを少しだけご紹介します。



このセミナーでまず示されたのは、デザインの定義でした。


 design = meaning,  new experience,  exploring possibilities


 デザインとは絵柄ではなく、

  ものや行動に意味を与え、

   新しい経験を生み出し、
 
    これからの可能性を作るもの 



会場に集まったのは、テキスタイルデザイナーだけでなく、

営業、生産管理、職人、経営者など、さまざまな立場の方々。

まさに、今回の参加者の方々は、

このデザインの定義からすると、「デザイナー」です。





では、デザイナーに求められる資質とは、なんでしょうか?

そこで登場したのが、次の3つでした。




1; personal & original perspective


   個人的で自分のオリジンに根ざした視点

    私は誰なのか?

    どういう生き方をしてきて、何を美しいと感じ、何を大切だと感じ、

    何をよくないものだと嫌い、何を叶えたいと願い、

    何を伝えたいと思い、

    どんな未来にどのように関わりたいか?


まず一つ目。「個人的」、「自分のオリジン」、という言葉は、

意外に思えてしまうものかもしれません。

というのも、一般的な「トレンド」をテーマにした勉強会の中で耳にする

「世界のトレンド」 、「マーケットのニーズ」というのは


自分の外にあるもの、というイメージが一般的であるように思えるからです。

そうではなく、

「自分」、あるいは「わが社」が、いったい何者で、何を目指す存在なのか

ということが、トレンド情報や、ものづくり以前に

まず考えなければならない、ということでした。



2; hunting skill of new movement and tendency


   新しい変化や動向を見つけて考える力

    世界は刻々と変化しています。


    自分の視点で何を、どんな変化をキャッチしていますか?


二つ目。

「トレンド情報」は、世界のどこかから届くものではなく、

まず自分自身で、自分の視点で見つけ、考えようとすることが

大切だということでした。

しかもそれは狭義の「デザイナー」にとってだけでなく、

ものづくりに関わる誰にとってもですね。



3; love toward better tomorrow


   より良い明日への惜しみない愛

    そしてデザイナーには自分が作り出すものがより良い未来のかけらとなり、


    人と人がよりよくつながり、ものと人の幸せなストーリーが生まれ、

    自然と人間が発展的につながるという美しい明日を作るのだという思いと

    それに愛を持って従事する心が必要です。


いちばん意外で、新鮮なのがこの三つ目だったかも知れません。

でも、考えてみるとデザイナーや、ものづくりに関わる人には

最も大事なことかもしれないと、しみじみと感じられました。

喜んでくれる人の顔を思い浮かべてものづくりをすることは、

言い換えれば、明日への愛なのかもしれません。




上に挙げた3つは、どれもが自分のことを知り、自分を掘り下げなければ

得られないことだと思います。



このあとで家安客員研究員が語ってくれたのは、

オランダ留学時代、アイントホーフェンというデザイン学校の授業での経験談でした。


「水」をテーマにしてデザインする、

という課題を行う中で、教官が何度も生徒に問いかけ続けたのは、

「お前にとって水とは何だ?」 

ということだったそうです。


自分の経験や、自分にとっての意味を考えずに

「水」という客観的なイメージをキーワードにしても、教官は認めてくれません。

そこで家安客員研究員は、教官に問われるままに自らの記憶をひもといていって、

幼少時の水遊びの楽しさや、神淡路大震災で体験した水が得られないことへの恐怖など、

自分と水との関わりを掘り下げていき、最終的に

水というのは「心から好きで、でも同時に怖いもの」だった、

という自分の奥深くにあった相反する水へのイメージを見つけることができたそうです。

それを教官に告げると、「それが、お前がデザインすべき水なんだ」、

と言われ、それに形を与えるよう指導されたということでした。



会場の参加者の方々も、「自分」の視点を持つことの大切さを

理解できたのではないでしょうか。




参加者の方々は、その他さまざまな観点からデザインすること、

トレンドの意味やその活用方法を学んだあとで、

トレンドユニオン社が発行するトレンドブックを手に取りながら、

それぞれが手掛けるデザインやものづくりに思いを馳せていました。





好評だった勉強会は、「ものづくり人材育成研修」という名称で年2回開催されています。

第2回目は夏に開催予定で、「企画する」をテーマにした実習も計画しています。

ぜひお越しください!






(五十嵐)

2016年5月10日火曜日

『ハタオリのうたがきこえる』 ~LOOM発行記念イベントレポート~

今年3月10日、『ハタオリのうたがきこえる」と題したイベントを

甲府市にあるコミュニティスペース、「文化のるつぼ へちま」で開催しました。



このイベントは、シケンジョ発行のフリーペーパー『 LOOM 』の発刊を記念して企画したものです。

イベントの内容は、LOOMで紹介したハタヤさんや織物の道具を紹介する展示と、

織物をテーマにした
音楽会です。


織物と音楽というと、意外に思われるかもしれませんが、

織機の動く音の心地よいリズムは、音楽的といって差し支えないでしょう。

またその昔、ハタオリをする娘さんたちは「ハタオリ唄」を歌いながら機を織ったといわれていて
織物と音楽のあいだには、じつは深い縁があるのです。


とはいうものの、きっと織物と音楽というテーマで音楽会が開かれたのは、

甲府では初めてのことではないでしょうか?


演奏の始まる少し前、会場「へちま」には大勢の観客の方々が集まりました。

中には、LOOMに登場するハタヤさんの姿もちらほら。



3階の「へちまSTUDIO」で演奏が始まる前には、

LOOMの企画・編集・デザインを手掛けたBEEK DESIGNの土屋 誠さんと

シケンジョの五十嵐とでLOOMの生まれた背景などを語るトークショーを開催しました。



土屋さんのブログにも、このイベントのことがレポートされています。

ぜひご覧ください。 (この投稿での写真のうちいくつかは、そこからお借りしています)


LOOMで取材したハタヤさんの代表として、(有)渡小織物の渡辺太郎さんのトークも。













そして、いよいよ音楽会。

演奏してくれたのは、

田辺 玄さん(ギター&ボーカル)森ゆにさん(オルガン&ボーカル)のお二人です。


Photo by BEEK DESIGN
お二人は甲府在住ですが、全国規模で活躍される実力派ミュージシャン。

演奏がはじまると、会場の空気が入れ替わったように雰囲気が一変。

客席のだれもが二人の演奏に吸い込まれていきます。



アコースティックギターの音、足踏みオルガンの音。

そして森ゆにさんの透きとおるような歌声が、会場をしずかに満たしていきました。

Photo by BEEK DESIGN

田辺 玄 / Gen Tanabe(WATER WATER CAMEL)   (ギター)

Guitar . Sound design . Rec&Mix 
好きな音は遠くで聴こえる生活音。WATER WATER CAMELのひとり。
国立音楽大学音楽デザイン学科で音との色々な向き合い方を知る。2006年、自主レーベル"Gondwana label"を立ち上げる。全国各地を飛び回りながら、カフェやギャラリー、お寺や廃校、植物園やプラネタリウムなど、多様なスペースで音を響かせている。またギタリストやレコーディングエンジニアとしての活動や、CM、WEB、展示空間のサウンドデザイン等、音を媒体にさまざまな人や場とのコラボレーションを展開している。 (公式ブログ http://genwwc.blogspot.jp/ より)

Photo by BEEK DESIGN
森 ゆに / Mori, Yuni   (ボーカル、ピアノ)

山梨県在住。神奈川県出身。シンガーソングライター、ピアニスト。

クラシックや賛美歌をルーツにした弾き語りによるアルバム「夏は来る」「夜をくぐる」に続き、新作「祝いのうた」を2015年6月に発表。
(公式サイト http://moriyuni.blog94.fc2.com/ より)

Photo by BEEK DESIGN
「ハタオリのうたがきこえる」というタイトルどおり

ハタオリと音楽が出会った音楽会。

この会場で初めて演奏された、ハタオリをテーマに選ばれた曲もいくつかありました。



そのひとつは、かつてヤマナシ産地で女工さんたちが唄いながら機を織ったという

「都留のはたおり唄」をアレンジした曲。

民謡としてしられた原曲が、童謡のようにやさしい印象に生まれ変わっていました。



そして織物工場で録音されたという

シャットル織機のリズムをバックに響かせながら始まったのは、

「LOOM」と名付けられたオリジナル曲。

織機の音が、作り手の様々な想いを乗せ、長い時をこえて

人々の暮らしとともにハタオリの街に変わらず響き続けている......



胸に迫る美しい曲でした。


この曲のための録音につかわれたシャットル織機でふだん生地を織っている機屋さんも会場に。

どんな気持ちでこの曲を聴いていたのでしょうか。

Photo by BEEK DESIGN



さらに土屋 誠さん、写真家の砺波周平さんの写した

織物工場や富士吉田、西桂の街並みの映像をバックに

二人の音が即興で重ねられていきます。

即興の音楽は次第にオリジナル曲「LOOM」に戻ります。


二人の歌と演奏がふたたびメロディーを奏でてから、ハタオリのリズムでエンディングへ

シャットル織機のカッシャン、カッシャン、という音とともに
音楽会は幕をとじるのでした。




Photo by BEEK DESIGN
生演奏を聴く機会は、少なくないのですが、

胸が一杯になり、言葉が出てこない経験を、久しぶりに味わいました。



来場者の方からも、
「素晴らしいイベントだった」、「特別な夜だった」とたくさんの感動の声が寄せられました


でも、この日の歌がいちばん胸に響いていたのは、

会場のハタヤさんたちだったのではないでしょうか。





Photo by BEEK DESIGN

イベント「ハタオリのうたがきこえる」では、3月10日の音楽会の前後、

「文化のるつぼ へちま」の1FでLOOMをテーマにした織物展示も開催しました。


Photo by BEEK DESIGN



Photo by BEEK DESIGN
カセットテープには、織機の音が録音されています。

音楽会でリズムを響かせていたのと同じ織機の音を聴いてもらえるコーナーです。



Photo by BEEK DESIGN
 写真パネルは、LOOMで取材した若いハタヤさんたち。


Photo by BEEK DESIGN

Photo by BEEK DESIGN



Photo by BEEK DESIGN
Photo by BEEK DESIGN

 会場の天井には、シルクのオーガンジーと、ジャカード織機に使われる紋紙のアーチ。



 「ハタオリのうたがきこえる」。

 甲府の街に、織機の音が響いた一週間でした。




(五十嵐)