織物組織とは、タテ糸とヨコ糸が、どのように交差しているかの状態です。
一般に織物組織の勉強は、「三原組織(さんげんそしき)」といわれる
平(ひら)・綾(あや)・繻子(しゅす)の説明から始まりますが、
ここでは、よりシンプルかつ本質的な、織物組織の「白黒大小」からスタートします。
「白黒大小」とは、いったい何か?
じつはこの言葉はシケンジョのオリジナル。ネットで検索しても出てきません。
しかし、織物組織の違いや特徴を理解し、作りたい布の風合いや見た目に
近づけていくうえで、最も重要な概念だと思います。
それでは織物組織の「白黒大小」の勉強を始めましょう!
まず組織図とは?
織物組織の第一歩は、「組織図」という世界共通の表記方法です。
タテ糸とヨコ糸が交差している交差点をマス目ひとつで表し、
タテ糸が上を通る交差点は黒■、
ヨコ糸が上を通る交差点は白□、
というルールで、マス目を白□と黒■で塗り分けたものが組織図です。
黒■を×、白□を○で描くこともよくあります。 |
織物組織は、並んだタイルのような規則的な繰り返しパターンで出来ています。
その繰り返しパターンの原型となる最小の単位を「完全組織」といいます。
「完全組織」の鉄則は、どの行、どの列にも、白□と黒■の両方が最低一つはある、
ということです。それがないと、まったく交差のない糸が生じてしまうためです。
「白黒比」「サイクル長」は一般的な織物用語ではなく、説明のために作った言葉です。
「白黒比」は、組織図の中の白□と黒■の比率です。
「サイクル長」は、タテ糸とヨコ糸が、何本に一度、互いに交差しているか
という、ひとサイクルの本数です。
※この図では完全組織の大きさに一致しますが、組織の種類によってはそうでない場合もあります。
「白黒比」と「サイクル長(=大小)」を合わせた、組織図の「白黒大小」は、
織物組織の予備知識なしに、見ただけで判断できる簡単なものであるにも関わらず、
織物組織の本質を見極める鍵になっている!
ということが今回のポイントです。
その本質とは何か?
それは、織物組織が、布の「外観」と「構造」を同時に定義するものだということです。
例えば紙に絵の具で描いた絵は、絵の具が「外観」、紙が「構造」を担当していますが、
布では、タテ糸とヨコ糸が「外観」と「構造」の両方を担っています。
そして、布の「外観」と「構造」は、組織図の
「白黒比」と「(大小)サイクル長」によって、おおよそ決まります。
「白黒」と外観
組織図が白っぽいか、黒っぽいかは、布の何を決めるのでしょうか?
はい、上の図にあるとおり、組織図が白ければ白いほど「ヨコ糸」が布の外観を占め、
黒ければ黒いほど「タテ糸」が表に現れてきます。
つまり、組織図の色を見ただけで、その布を作る人が「タテ糸」を見せたいのか、
「ヨコ糸」がを見せたいのかが、初心者でも簡単にわかるのです。
「大小」と構造
糸の交差のサイクル長が大きいか小さいかで、布の「構造」が変わります。
サイクル長が短ければ(組織のサイズが小さければ)、緊密な構造の固めの布になり、
サイクル長が長ければ(組織のサイズが大きければ)、構造のゆったりした布になります。
二人の女性の写真とその髪型に見覚えがありますか?
「単糸/双糸」のところで登場した「三つ編みさん」と「ストレートロングさん」です。
二人は引っ越しのお手伝いの例え話の中で、
丈夫さ>美しさ の「双糸」=三つ編みさん(引っ越し作業にもバッチリな髪型)と、
美しさ>丈夫さ の「単糸」=ストレートロングさん(手伝う気があるのか?)として、
単糸と双糸の違いを象徴するのが役割でした。
今回は、そのときと同じように、組織の大小によっても「丈夫さ/美しさ」の
バランスをコントロールできることを説明するために、再登場してもらいました。
単糸と双糸のどちらを選ぶか、のときと同じように、
小さい組織は、構造が密なので丈夫さが実現でき、
大きい組織は、糸がのびのびしているので、糸の美しさや風合いが生かせるのです。
もしその両方を組み合わせて、
小さい組織×双糸、あるいは、大きい組織×単糸、によって、
どんな布が織り上がるか、想像してみて下さい。
(注意)
「大きい組織」といっても、下図のように、白□と黒■の入れ替わりが何回もある場合は、
全体のサイズ(=12)より糸の交差のサイクル長(=3,4,5)が短いので、
「白黒大小」の図では小さい組織に該当します。
ここでいう「大小」は、「サイクル長」であることを覚えておいてください。
「白黒大小」の組み合わせ
次に、「白黒」「大小」を、縦軸と横軸にしたマトリクスにした図を見てみましょう。
図の薄いグレーのエリアにある、どの組織を選ぶと、どうなるのか?
ここまで読んでくれた方には、きっともうお分かりですね。
ヨコ糸をしっかり見せて、柔らかい布にしたければ、右上方向「↗」にある、
白っぽくて、大きい組織を選べばOK。
もっと固めに仕上げたければ、「←」方向に移動して、もう少し小さな組織にしましょう。
ヨコ糸とタテ糸を同じくらい見せたければ、「↓」方向に移動して、黒っぽくしましょう。
このように、平織、綾織、繻子織、などの種類の知識がなくても、
作りたい布のイメージさえあれば、「白黒大小」の観点だけで、
この図の中を移動しながら、どの組織を選ぶべきかが判断できてしまうのです。
応用編
下の図は、「白黒大小」の図を、より詳しく書いたものです。
組織の大小の上に「疎」「密」という言葉があることにご注目ください。
組織の大きさと、ヨコ糸の密度の間には関係があります。
小さい組織は、ただでさえキツキツなので、
大きい組織ほどに密度を上げることはできません。
大きい組織は逆にゆるゆるなので、密度を下げると糸がスリップしてしまうため、
小さい組織ほど密度を低くすることができません。
縦軸に書かれている「重」「軽」という言葉は、
今回説明した「白黒」の違いに関連しています。
「黒」はタテ糸が上になるという意味なので、組織図に「黒」が多いとき、
織機はタテ糸をたくさん持ちあげる必要がある=重い!
ということから、黒っぽいものは「重口」の組織、白っぽいのは「軽口」の組織、
という表現を用います。
上の図を見ると、小さい組織では、
ヨコ糸/タテ糸の比率をあまり高められないことが分かります。
それでは、ヨコ糸だけをたくさん見せたいけれど、固い布にしたければどうすれば良いでしょうか?
↓
そのときは、小さい組織を使って固くすることはできないので、
糸の種類や素材や番手あるいは加工で固くする、
密度を高くしてぎゅうぎゅうに織る、
見えない側で固さを担当する別のヨコ糸を織る、
などの方法が考えられます。
よろしければそちらもぜひご覧ください。
それでは次回もお楽しみに!
(五十嵐)