このシリーズでの織物組織の勉強も4回目になりました。
いよいよ織物組織の基本、三原組織(さんげんそしき)についてご説明します。
織物組織には 平織、綾織(斜文織)、繻子織(朱子織)という
3つの基本的なパターンがあり、これらを発展させてあらゆる織物組織が作られています。
できあがる布の風合いや役割は、三原組織のどれを用いるかでも変わります。
どういうときに、どれを使えば、意図する布が作れるのでしょうか?
イメージイラストと言葉で表現してみました。
それぞれのキャラクターが、なんとなくつかめたでしょうか?
図中の注釈にも書きましたが、イラストの手はあくまでイメージです。
三原組織がなぜ3つしかないのか?
なぜこのような性質の違いがあるのか?
それは、組織点の配置の違いに答があります。
下の図の「組織点の隣接」という図をご覧ください。
平織、綾織、繻子織のパターンの違いは、
「■」で示した組織点同士がどのように隣接しているか?
の違いで定義されると言ってよいでしょう。
「■」で示した組織点同士がどのように隣接しているか?
の違いで定義されると言ってよいでしょう。
この隣接パターンは、基本的には、この3つにしか分類できません。
※厳密にいうと「完全組織の各列・各行に組織点が必ず一つだけあり、またある組織点から次の組織点への距離と方向が一定」という規則性を持った組織ではこの3つだけになります。「破れ斜紋」と呼ばれる組織のように、不規則な配置を持つ組織では、その限りではありません。
※「破れ斜紋」については、こちらに解説があります。
※「破れ斜紋」については、こちらに解説があります。
組織点が四方向↖↗↙↘で密に隣接しているのが、平織、
組織点が二方向↗↙あるいは↖↘で隣接しているのが、綾織、
組織点がまったく隣接していないのが、繻子織です。
組織点がまったく隣接していないのが、繻子織です。
なお、この「隣接」する方向は、組織の基本形である、
「完全組織の各列・各行に組織点が必ず一つだけある」という状態のときのことです。
応用して作られるバリエーション(後述)では、この定義から外れるものがあります。
大きな字で示した2、3、5という数字は、それぞれのパターンで作られる
最小の繰り返し単位、つまり「完全組織」の大きさを示します。
完全組織については以前にも触れましたが、復習には下記をご覧ください。
三原組織には、2、3、5という最小の大きさを基本として、
次のように様々なバリエーションがあります。
繻子織は、5より小さな完全組織がありません。
ですから織物組織の「白黒大小」でいうと、あまり小さな組織にならず、
大きなゆったり目の組織になります。また、組織点が隣接していないため、
一番最初の図に書いたように「密度を高くできる」という特徴が生まれます。
三原組織は、それぞれの構造の違いによって生まれる性質の違いから、
おおよそ次のような用途に使い分けられています。
この二人は、出来上がる布の風合いや外観のイメージを表すと同時に、
「丈夫さ」-「美しさ」という対立する性質の象徴でもあります。
特に繻子織は、下の写真にあるシルクサテンのウェディングドレス生地のように、
美しい光沢感が特徴です。
繻子織では、組織点が、互いに隣接していないという特徴から、
密度を高めていくと、タテ糸あるいはヨコ糸のどちらか一方しか見えなくなる、
という効果から生まれます。
そうすると、ストレートロングのサラサラヘアと同じように、
そうすると、ストレートロングのサラサラヘアと同じように、
繊維が一方向に並んだ外観となり、光沢感が得られるのです。
ストレートロングヘアに光沢があるのも、繻子織に光沢があるのも、
どちらも繊維が一方向にそろって並んでいることから生まれます。
衝撃に弱く、傷つきやすいのも共通しています。
繻子織について、より詳しく知りたい方はバックナンバー
「サテンのひみつ①」をご覧ください
これまでの研修で見てきた、組織以外の項目でも、
この「丈夫さ」-「美しさ」の選択肢がいくつも出てきました。
現実のテキスタイルデザイン、織物の設計でも、
工程、品質、コストの制約の中で、
「丈夫さ」-「美しさ」のどちらを選ぶか?
という決断を、何回もする必要があります。
下の図は、そうした選択を重ねていったら、どんな布が生まれるかという
思考実験を表しています。それぞれどんな布ができるでしょうか?
(注)上の図の斜線はイメージを伝えるために描いたもので、実際の相関関係は考慮していません。
お見せしたものです。
【オンライン織物基礎研修】シリーズでは、
【オンライン織物基礎研修】シリーズでは、
「こんな感じの布がほしい!」というイメージを現実化するために必要な
基本的な要素について、これまで12回にわたって解説してきました。
ここで当初予定していた内容は一区切りとなります。
ここで当初予定していた内容は一区切りとなります。
このシリーズでお伝えできた内容は、
織物設計に必要な知識の基本中の基本の部分にしかすぎませんが、
私のほしい布を作るための道筋が少しでも見えてきた、と思っていただけたら幸いです。
また、こうした様々な要素をコントロールして、なんとか良いものを作ろうとしている
機屋さんやテキスタイルデザイナーの、日々の苦労やノウハウ、
プロセスの複雑さ、大変さが、少しでも伝わったらうれしいです。
ひとまずここまで受講いただき、ありがとうございました。
(五十嵐)