織物はタテの糸とヨコの糸でできています。
今回のシケンジョテキは、タテとヨコのバランスについて
取り上げてみたいと思います。
タテ・ヨコ の漢字は 縦・横 or 経・緯 ?
まず漢字の表記ですが、織物のコミュニティでは
縦糸・横糸 ではなく、 経糸・緯糸 と書くのが一般的です。
「経緯」(けいい)という単語を、いろいろな辞書で調べてみると、
織物のたて糸、よこ糸のことである、と記載されています。
地図の経度・緯度も、織物の経糸・緯糸の方が元になっているそうです。
シケンジョテキでも、漢字で書くときは経糸・緯糸で統一しています。
タテ・ヨコ のバランス
それぞれどのくらい含まれているか?というバランスです。
この意味での経糸と緯糸のバランスは、
それぞれの糸の太さと密度で決められます。
例えば、下の図の a では、経糸と緯糸は
それぞれ太さと密度が同じなので、バランスは1:1です。
一方、b、c では、太さと密度の組み合わせは違いますが、
最終的に生地に占める両者のバランスは1:1になっています。
織物では、例外もたくさんありますが、
太い糸は密度を低く、細い糸は密度を高くすることで、
経糸と緯糸のバランスが保たれているといわれます。
向き以外同じ生地。あなたが工場長だったらどっちで織る?
向き以外は全く同じです。
あなたが織物工場の責任者だったら、太い黄色(本数少ない)と細い青(本数多い)、
どっちを経糸にして織りますか?
工場の生産性を考えると、 b 細い青(本数多い)を経糸にするのが正解です。
ではなぜ a 太い黄色ではななく b 細い青を経糸にした方が良いのか?
それは、織るというのは、緯糸を1本ずつ織りこむ作業なので、
織機の回転数=工場の生産性であり、すなわち
「同じ生地なら緯糸本数が少ない方が早くたくさん織れる」からです。
同じ織機で織れば、b は a の倍の速度で織り上がります。
単純計算で月々の売り上げも倍になるので、
工場の経営者の立場で考えれば、どうしても b を選びたいところです。
そういうわけで、織物は一般に
経糸=細くて密度が高い 緯糸が=太くて密度が低い
という原則があります。
逆に言うと、あえて緯糸の密度が高い生地を作っている工場があるとしたら、
それは何か訳があって、生産性を犠牲にしてまで、
よっぽど良い生地を作りたいんだな、
と思ってもらえれば良いかと思います。
ビッグデータでみる経糸と緯糸のバランス
それでは今回のメインメニューです。
実際の織物の経糸と緯糸のバランスは、どうなっているのでしょうか?
ビッグデータというのは言い過ぎかもしれませんが、
シケンジョで過去に調べたことのある織物のデータをもとに、
経糸と緯糸のバランスをグラフにしてみました。
上のグラフは、糸の太さだけの比較です。
ほとんどの点が、1:1を示す45度の線よりも上にあります。
これは多くの織物で、糸の太さが 経糸 < 緯糸 であることを示しています。
下のグラフは、経糸と緯糸が、それぞれ生地1㎡に何グラム含まれているか、
のバランスを表しています。
このグラフでは逆に、1:1を示す45度の線よりも下に
点の密集したところがあることが分かります。
ばらつきも広いので一概には言えませんが、
生地に含まれる糸の重量は、経糸 > 緯糸 が好まれる傾向が
あることがわかります。
ちなみにプロットされたA~Mは、代表的な品目別のスペックの例を示しています。
必ずしもそれぞれの平均値ではありませんので、ご参考まで。
このグラフには、ヤマナシ産地で作っている織物の集合としての
特徴が表されているのだと思います。
様々な種類の織物を作る産地でそれぞれのグラフを作ったとしたら、
どのような点の分布になるのか?
こんな観点で織物を考えてみるのも面白いのではないでしょうか?
(五十嵐)