2013年6月28日金曜日

甲斐絹ミュージアムより #3 シャンブレーの極致!玉虫甲斐絹

玉虫甲斐絹というのは、ヤマナシ産地のルーツ「甲斐絹」のうちのひとつ。

ストライプや経糸プリントによる絵柄のない、一見地味な甲斐絹ですが、
実はものすごいシャンブレーの光沢を放つ、究極の絹織物です。




平らにして見ると普通の生地にしか見えませんが、

百聞は一見に如かず、この動画をご覧ください。





「ヤバイ!」 という現代言葉が思わず口をついてしまいます。

このシャンブレーはヤバイです。

この光沢は、無撚の細番手・高密度の絹糸ならでは。

98年前(1915年)の熟練職人がなしとげた、シャンブレーの極致ではないでしょうか。

生地を拡大すると、このようになっています。




経糸と緯糸が、ほぼ正反対の補色になっているので
見る向きによってどちらかの色に激しく偏って見える「シャンブレー」効果が
最大限に発揮されるわけです。

ちなみに、冒頭の動画では、部屋を暗くして横からの自然光だけで撮っています。

この光の当たり方は、きっと明治時代の日本家屋の中に近いのではないかと思われます。

蛍光灯やLEDの強い光の中ではなく、昔の暮らしを照らしていた淡い光の中でこそ、
シルクの輝きはきっと何倍もの美しさになるのかもしれませんね。



(五十嵐)



2013年6月26日水曜日

CMYK+Whiteのたて糸到着


世界遺産登録となった富士山。
 
 
シケンジョ所有、大口ジャカード織機のビームに巻くたて糸が届きました。
 
これから整経工程(記事:2013 6/24テキスタイルのセイケイ業)に入ります。
 
 

色はシアン(蛍光)、マゼンタ、イエロー(蛍光)、ブラックおよびホワイト(蛍光)です。

ビームの仕上がりが楽しみです。

(上垣)

2013年6月24日月曜日

テキスタイルのセイケイ業

シケンジョの大口ジャカード織機。

これまで、

新しいテキスタイル開発

織物組織パターンに関する研究や、

各種研修等で活躍してきました。

前回の200mたて糸が無くなりそうなので、

次のビーム(別名:男巻き、おまき)の準備をしています。

ビーム作製は産地の整経(セイケイ)屋さんに頼みます。

今回のビームは

総本数11880本(たて密度157本/inch)×500mの巨大な巻物です。

巻くのは糸1本が、わずか約5.6gで500m分の長さになるポリエステルの糸たち。

富士山の麓で染色してもらった

蛍光ホワイト、ブラック、シアン、蛍光マゼンタ、蛍光イエローに染めた糸たち*。
*高精細写真織り用画像処理テクのフルカラー織物研究用等を意識してCMYKが含まれています。

これらを以下の図のように、

図↓

ほっそーい糸達のテンションが全て均一になるように、巻物にします。

テキスタイルを作る工程はどれも気を抜けない難しい仕事です。

こちらの整経(セイケイ)もトンデモナイ神業の作業工程です。


ざっと600錘。

シケンジョの作製するビームは白黒やシアン、マゼンタ、イエローの繰り返しの縞があるのでこちらのボビンの並んだ姿もカラフルな感じになるかと思います。

600錘はひとつずつセットします。

カラフルな縞模様(例えば1本ずつシアン、マゼンタ、イエロー、シアン・・・・)であれば

それらを緑色のボビンに巻きなおして、位置の決まった場所にセットし

その通りに順番に束ねたバンド(ある幅をもったエリア)を作ります。

バンドの繰り返しで規定幅迄巻いていきます。

バンド数が増えるほど手間が増大します。

錘から約600本の糸たちを途中ダメージを与えることなく通していきます。

穴のある板はセラミック製。

接触する部分の抵抗を極力減らす工夫がなされています。



 さらに櫛を通して。



奥の錘行列から手前側へセットして行きます。

中央の束が、いわゆる1バンドです。数センチ。

もしもこの黒の隣が違う色だと・・・・。

今までの工程を違う色で、振り出しから???再びセット?

考えただけでクラっとします。

3色の繰り返しならば先ほどのボビンを順番にセットします。

次のバンドの色が変わればセットをし直し、これらを繰り返します。

途中で糸が切れたら目立たないように、かつ丈夫に結ぶ技が必要です。

柄のチェンジのため繋ぐ作業や、途中で切れる糸を手で結ぶ作業は、

1日に大きいビームを2本巻くとして、

1000回以上行うこともあるそうです。


超重要!アヤ取り、後で織る時の命綱となるものです。

以上は、主に本生産用(500m等巨大ビーム用)。

以下は、7m~196m等の短めのビーム用の整経(セイケイ)機。

円周が7mです。

大縄跳びのように糸を回転し

例えば整経長が200mだったら

200m÷7m=28.5→29

29回転×7m=203m

で、たて方向1本×203mが完成します。

29回転を、隣にくる糸の種類や色毎に繰り返していきます。






手前にジグザグした櫛。

通常は巻物にする時に手作業で櫛を使って、テンションを整えて完成。

こちらの整経屋さんは、さらに1工程、手間が増えるにもかかわらず増やしています。

ジグザグした櫛を通して、一度巻いたビームを再び巻きなおします。

独自に取り入れているとのこと。

ナゼ?

それは、さらにテンションを均一にして、後の織り工程で織りやすくするため。

「俺たちは、ビームは最終製品だと思ってる。」

「後の機屋さんが織りやすくなることに集中して、最高のビームを仕上げる。」

兄弟で整経職人の桑原さんの言葉でした。

(整経を専門で行っている企業はかなり珍しいです。)


ビームはかなりの重量。

腕っぷしも必要です。

さらに繊細な細い糸達を長時間扱うタフなメンタルも必要です。




最近は特に。

素材もさまざまで、難しい糸(あるいはそれらの組み合わせ)が持ち込まれてきます。

これらのコンビネーションは相当複雑なものになります。

同じ素材でも、湿気の具合によって糸ばダランダランになったりします。

その調整のため、夏場でもヒーターを炊いて汗だくでの作業もあるそうです。

ビームにするためには、繰り返しというボビンに巻きとる工程で、糸の状態が良くないとだめです。

そのため、持ち込まれた糸が使えるかどうか(伸び、強度、キズ等)、その時に目利きできる必要があります。

織りやすい巻物にするには、

巻くための熟練した知識はもちろん、

素材の特性にも相当、詳しくなくてはできないと思います。

さらに、後の織り工程を想像できることも必要です。




シケンジョの作製するビーム(及び整経工程の様子)は、後日公開予定です。

(文:上垣、写真:五十嵐)

2013年6月19日水曜日

ハナモモ抽出液で染色

シケンジョで、染色に利用できないか、と真っ赤な液体を預かってきました。

今回、この液体を使って各種繊維を染めるテストを実施。


この液体は、果樹未利用素材(例:摘果モモ、花弁色素)を食品加工に用いる最新の研究における初期工程で発生します。
食品にはちょっと利用しにくい液体です。

しかしながら、通常の熱水抽出よりもかなり効率良く色素を取り出せています。

⇒染色に利用したら面白いのではないかという話をいただきました。

上の写真は、左が熱水抽出、右がクエン酸(レモンの酸っぱさ成分である)添加抽出。

酢酸、・・クエン酸等、さまざまな有機酸を添加する方法を試し、クエン酸が最も鮮やかな色を出すのに良いことを見つけています。

そういえば、シソジュース作る時もクエン酸を入れていますね。

数年前に植物染料の研究を発表したときも、クエン酸やビタミンC(アスコルビン酸)を添加してみたらいいかも、とアドバイスをいただいたことを思い出しました。

摘花したハナモモで冷凍保存していたもの。 

こちらの花ビラの色素を煮沸して取り出します⇒一次抽出液(1枚目の写真にある抽出液)。

抽出液の色を測定(分光測色計:SD-6000、日本電色工業㈱、設備利用料金¥400/1H)しました。

読み取った波長のデータから疑似色を表示してくれます。

1枚目の写真にある抽出液はケンフェロールと呼ばれる、おなかを下してしまう成分が含まれるため、おかしやジェラート等の食べ物の加工には利用できず、廃棄してしまいます。

食品の研究ではこれらを取り除いた次の抽出工程でできる液を使って、素敵な試作品が完成しています。



それでは、抽出液で染色テストした様子を以下に示します。


100℃で1時間。

*今回の分散染料はポリエステル用ではなく、アセテート向けのものを使用しています。
また、各染料の濃度は異なります。

結果
素材別の染まり具合として
酸性染料に近いことがわかりました。

シルク、ウール、ナイロンが染まります。

pHを酸性ではなく中性(写真右端)にすると、先の3素材に加えてアクリル素材(ふつう、基性染料が用いられる)がピンクに染まる現象が珍しくて面白いと思いました。

ただ全体的に、抽出液の濃さのわりに・・・
・・・・淡色なのがいまのところ残念な感じです。

しかし、産地の花ビラ染め製品を開発している企業からの情報によりますと、

現在では染まりにくい花の色素を、マイクロカプセル化して化学的にくっつける技術もあるとのこと。

これらの技術も期待です(バナジウムを含めて各種の媒染効果はあまり見られませんでした⇒発色補助の役割を果たす「媒染」を必要としないメカニズム?!)。





桃狩りシーズンに利用できる、果樹未利用素材(例:摘果モモ、花弁色素)を活用した食品加工体験に加えて、ハナモモによる染色体験や、そこで用いるピンクのエプロン等が提案できる、かもしれません。

(上垣)




2013年6月18日火曜日

シケンジョテキスタイル研修(高精細写真織り用の画像処理テク)、実施中

今年度、研修担当のUです。

「高精細ジャカード織り技術」のテーマで現在実施しています。
テーマは分解設計、染色、JIS依頼試験、製織(画像処理含む)等
から受講希望者に合った部分で適宜、案を作ります。

技術者研修は、随時受付中です。
(原則:県内企業の従業員さん等、無料、1or2時間×5日等)

今回は、photoshop画像処理がメイン。

シケンジョで特許出願中(発明者 I主任研究員の、

紋作製(織機を動かすためのデータ)技術に関するものです。


インクジェットではありません!
糸が上下交錯している織物です。
たて密度は157本/inch(シケンジョ:カーテン向け密度の織機)
 
こちらの織機は
自由に上下できるたて糸は最大で5940本(画像だと幅5940ピクセル)です。
14.7cm(=5.787inch)の写真やハガキを、スキャナで1050dpiで取り込むと6076ピクセル。
これを5940ピクセルに調整して織ると、織り幅は5940/157≒37.8inch≒96.0cmになります。
今回のはこの半分の幅になります。
 
密度がもっと高い
・傘地向け織機
・ネクタイ向け織機(但し10cmリピートのものが多い)
を用いればさらに高解像度な仕上がりが望めます。
 

犬の鼻(拡大)。

ディザという処理方法を応用した技術を使っています。 


レベル補正、解像度、どのパターンを当てはめるか等がカギを握っています。
 
今回研修にいらしている織物企業の方は、
 
日々、生地を織りそして写真(フィルムの)を撮り続けている方です。
 
先日開催された、シケンジョのセミナー講師の近藤ニットさんのブランド、evam eva 2010spring/summerカタログ撮影もされたことのある写真家の方です。
 
織物用のデータもご自身で撮影された写真からピックアップしていただきました。
 
そのひとつはコチラ、ビーナス。
*これは織物ではなく、写真です。HPより
 
 

 
エッフェル塔からのパリの街並写真を織る。






今回はヨコ糸1色の研修でした。

来週からはヨコ糸3色を使ってカラー高精細技術を実施予定です。

・TVやPCの画面を拡大したときのRGBのドット、印刷物のCMYKのドット
・あるいは、カラー印刷のハーフトーン処理(網点処理)

これらに、+織物組織を構成するようなカスタム処理技術を伝授いたします。

ご興味のある方はシケンジョまで!

(上垣)




2013年6月10日月曜日

耳の世界

今回のテーマは耳。
音を聞くための生体器官という意味の耳ではなく、
もうひとつの耳についてです。

ひとの頭の両側に耳があるように、
食パンのまわりに耳があるように、
紙幣に「耳をそろえて返す」という表現があるように、

織物の両側にも耳があります。

織物の耳は、パンの耳とは違って左右両側だけにあります。(当たり前ですが…)

そして織物の耳を見ると、その生地がどんな織機で織られたかが分かります。




シャットル織機による生地では、糸の往復運動の折り返し地点が連なって端正な糸の峰をなし、

レピア織機では切りそろえられた糸房の列がうまれ、あたかも一直線のビロードのようになります。

耳は、織物では生地の端っこの脇役ではありますが、その生地がどうやって作られたのかを
語りかけてくれる存在です。


たとえば、この傘の耳を見てみましょう。

(そういえば、傘にも「耳」がありますね)



どこにも縫製のあとがありません


これは、シャットル織機で織った生地の「耳」が、

傘の「耳」として使われている状況を示しています。


多くの傘では、傘の耳の部分は、生地の耳ではありません。

生地を裁断した断面を折り返して、三つ巻縫製されています。


しかし、写真にあるような、シャットル織機で織られた生地では、
生地の耳を縁に使うことで、縁(傘の耳)に縫製のない傘を作ることができるのです。



いまシャットル織機で織られた傘生地は貴重品です。
皆さんの傘の耳がシャットルの耳だったら、ぜひその傘をぜひ大事に使ってあげてください。






さて、今回のシケンジョテキでは、さまざまな条件のもとで生まれる

味わいのある耳の世界をご紹介します。

いろいろなところへお邪魔したときに撮影させてもらった反物の、「耳」の画像です。


これはシャットル織機で織られた生地です。
光織物さんの倉庫で撮影させていただきました。
まるで鎖でできた渦巻きのように見えますが、これはシャットルならではの
糸の折り返し部分が連なった耳の映像です。

生地を巻くときに芯がないため、耳で模様ができています。

この状態を、「耳の花が咲いている」と命名したいと思います。



これもシャットル織機の耳たちです。右の生地は耳の花が咲いています。


これはテンジンさんのリネンの生地の耳。
かなり自由度の高い造形が生まれています。

これもリネン。美しい耳の花が咲いています。



このタイトに巻かれた端正な耳は、宮下織物さんの濡れ巻き整経によるシルクサテン。
緊張感のある美しさです。


細かい同心円状の耳の花が咲いています。



こちらは綿のシャツ地。たしか播州で撮影させていただいたもの。
レピア系の織機で織られたものらしく、耳は切り落とされた糸の集合体になっています。
シャットル織機の耳との違いがよくわかります。
中心部はオバQのような耳の花です。

こちらも同様。コットンのふわふわした感触が伝わります。造形は海中の軟体動物のようです。



こちらはラメ糸を使った耳。さすがのゴージャス感です。


これもラメ糸の耳です。花火のような艶やかさ。



中心部に咲いた耳の花がかわいらしい風情です。


この耳はモヘアのような毛足の長い繊維で覆われています。


たまには斜めから見てみましょう。

レピアの耳は生地の両端から糸がほつれないように、
「もじり織り(レノ)」という織り方で止めてあります。
そのレノ糸(一番端にある経糸)で緯糸が固定してあるのが分かります。

また、いろいろな色の緯糸が使われている「多丁織物」であることが分かります。
何色もの緯糸を、柄によって部分部分に使い分けています。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 

今回ご覧いただいた耳の世界、いかがだったでしょうか。
耳を見ると、どんな織機で織られているか、どんな糸でできているのか、
そして色とりどりの緯糸たちがどうやって柄の色を生み出しているのが見えてくるわけです。

これらの耳は、「反物」の状態でなければお目にかかることは難しいでしょう。

産地見学の機会があったら、ぜひ耳の世界に触れ、

生地の生まれた背景に思いをはせてみてはいかがでしょうか!




 

[番外編]

これは、富士吉田市が発行する「ゴミの分け方・出し方」です。


一番下の部分に、こんな一文があるのを、最近市内に引っ越してきたA研究員が発見しました。



「たて糸・レピアの捨て耳は2m以内に切ってください」


さすが織物産地!!
全市民への情報のなかにも、織物業界用語がハッキリと使われています!


レピア織機で織られた織物の耳は、冒頭の図解のようにハサミで切られた部分は

まとめて捨てられます。
捨て耳はたて糸と同じ長さ、数百mにもなってしまうので、

切って捨てなくてはいけないそうです。

おそらくこんな状況↓を避けるためかと思われます。

(五十嵐)