2026年3月17日火曜日

ハタオリトラベル in タイ王国:タイの織物探訪編

タイで山梨のハタオリを伝え、タイのハタオリ産地をめぐる、ハタオリトラベル in タイ王国シリーズ第2回は、タイの織物探訪編です!

前回は山梨の織物をタイの皆さんに伝えるセミナーを紹介しましたが、今回はこの旅で出会ったタイの織物をお伝えします。


今回訪問したのは、チェンマイ(タイ北部)と、ウドンタニー周辺(東北部/イサーン地方)と、バンコクの三カ所です。



チェンマイのあるタイ北部は、綿織物が主体で、また国境に近い山岳地帯では少数民族による伝統的な絹織物がよく知られています。

ウドンタニーのある東北部/イサーン地方は、絹織物(タイシルク)の中心的な産地として知られています。

THTI(タイ繊維産業開発機構)の皆さんに案内していただいたチェンマイ、ウドンタニー、そしてバンコクの、タイの織物と織物スポットを一挙にご案内します。

今回はかなり分量があるので、ページ内をジャンプできる目次を作成しました。

《目次》
◆チェンマイ編
 ランナー郷土史博物館/Lanna Folklife Center
 チェンマイ文化芸術館/Chiang Mai Cultural Center
 ワット パー ターン(寺院、手工芸コミュニティスペース、博物館)
 PAKAPAN’S(アパレルブランド)

◆バンコク編
 THTI(タイ繊維産業開発機構)
 クイーンシリキットテキスタイル美術館


チェンマイ編


チェンマイを案内してくれたTHTIのチェンマイ支部のMaggieさん。チェンマイにたくさんあるカフェの中でもモダンなデザインの「The Baristro Asian Style」にて。

チェンマイでの講演のあと、タイ語での研修が続いて行われている会場をあとにして、チェンマイの街を案内していただきました。

ランナー郷土史博物館/Lanna Folklife Center

ランナー郷土史博物館の「ランナー」はかつて存在した王国の名前で、この博物館はチェンマイを中心としたランナー王国の文化的資料が収められています。

タイの皆さんは写真を撮ったり撮られたりする文化がナチュラルに
行きわたっています。自分の写真もたくさん撮ってくれました。

入館すると、受付には近隣の高校の女子生徒たちがボランティアとして待機しており、そのうち一人が館内を一緒に案内してくれました。チェンマイでは、地元の若者がこうした形で文化の継承に関わるような取り組みが行われているようです。

博物館の建物はかつてチェンマイ統治者の所有物で、1935年より司法裁判所として使用されていたもの。

伝統的な技法で織られた生地は、伝統的な女性の腰巻き「パー・シン」。腰に巻くためのものであるため、手織りといえども日本の和装生地のような小幅ではなく、1メートル以上の広幅が基本です。





生地のほかに、様々な地域文化を紹介する展示がありました。






チェンマイ文化芸術館/Chiang Mai Cultural Center

チェンマイ文化芸術館は上のランナー郷土史博物館の隣にあり、有史以前から現代までのチェンマイの社会、都市、文化の移り変わりを紹介する博物館。

チェンマイはタイ北部地方にあり、周辺の山岳地帯でミャンマー、ラオスに接しているので、歴史的に周辺国家との交流の影響が大きく、また山岳地域に少数民族が多数いることもあって、独自の文化圏を色濃く残しています。

特に13世紀に成立したランナー王朝の名から、チェンマイの文化は「ランナースタイル」と呼ばれ、現代でも脚光を浴びています。

建物の正面は広場になっており、ランナー王国の創建に貢献した3人の王を称える象徴的なモニュメント、三王記念碑が立っています。




近隣には、チェンマイの伝統的な衣服を着た
学生たちが沢山あるいていました
普段の制服は西洋式のワイシャツスタイルですが、毎週金曜には、こうした伝統服を着るという決まりになっているそうです。こうした取り組みは官公庁でも行われているということでした。






ワット パー ターン(寺院、手工芸コミュニティスペース、博物館)


チェンマイ市街を少し離れた場所にある仏教寺院ですが、その一角でタイ伝統的な手織機による織物体験などができ、工芸技術を伝承するためのコミュニティとしての場になっていました。

またほかにも古い学校や家屋などの歴史的建造物の展示や、古い経文を布で包んだものなど、歴史的な所蔵品の展示が行われていました。

タイでは寺院が観光地としてだけでなく、地元伝統文化のコミュニティを支える場としても機能していることが伺えます。




古い学校の様子が保存展示されています

古いお経を布で包んだもの

チェンマイの古い家屋の展示

PAKAPAN’S

チェンマイ近郊のアパレルブランド、PAKAPAN’Sのアトリエを訪問しました。

PAKAPAN’Sは伝統衣装をモチーフにしつつ、現代的なファッションを、オリジナルのデザイン、マーブリング技法、大柄の手刺繍で制作するアパレルブランド。








住宅の一棟を使った社屋で、10人ほどの社員により手描きで手刺繍の下絵を描く作業が行われていていました。下絵のトレースなど、膨大な手作業を担っている職人たちを含めて、みな若い人たちだったのが印象的でした。


Facebook、インスタグラムは2万人以上のフォロワーを持ち、インドネシア、フィリピン、台湾などに商品が流通しているそうです。SNSなどに使われる商品撮影用の照明と撮影コーナーも作られていました。

日本にも販路開拓のために展示会出展している記事が、帰国後に繊維ニュースにも掲載されていました。

pakapan'sの会社の前でチェンマイ最後の記念撮影

ウドンタニー編

チェンマイから飛行機で東へ一時間、イサーン地方と呼ばれるタイ東北部に移動し、そのなかのウドンタニー県の中心へ。ウドンタニーでは、THTIのJeabさん、Nokさん(上の写真の二人)が案内してくれました。

hattra

ウドンタニーの市街に着いて最初に訪問したのが、高級アパレルブランド hattra(ハトラ)のショップ。

ウドンタニ―の中心市街地にあり、手織りの絣織り(マットミー)、紋織り(ミーキット)などを使ったオリジナルのアパレル製品を製造販売する高級店。

伝統技術と共に新しい技法やアーティスティックなアイデアが盛り込まれ、伝統衣装ではなく、現代の新しいファッションに用いられています。












hattraの製品は、タイの認証制度で五つ星(OTOP Premium)を受賞しているほか、OTOPの認証シールが貼られた生地が多く並んでいました。

下の写真にある金色のシールは「ロイヤルピーコックブランド(ゴールド)」で、その要件である「経糸、緯糸ともタイ産シルク糸を使用」、「天然染料または環境に優しい化学染料を使用」、「伝統的な手織機を使用」という条件を満たしていることを証明するものだそうです。





なおOTOPは2001年から始まったタイの一村一品運動(One Tambon One Product ※tambonは郡と村の間に相当する行政組織)であり、織物だけでなく食品、飲料なども対象で、認証制度のほか、商品開発やマーケティング支援を行う地場産業振興事業の総称ともなっているそうです。

Khwanta

タイシルクの高級ブランドを展開するアパレルブランド「クワンタ」を訪問しました。
地元の200人ほどの手織り職人とのネットワークで生地づくりから縫製までを地元で行い、国内外に販路を持っています。





本社のある拠点は、ウドンタニー県の西隣にあるノーンブアランプー県の中心街から数キロ離れた、のんびりと広がる田園風景のなかにあります。

豊かな自然に囲まれた敷地には、ショップのほかにカフェ、ミーティングスペースが整備されていて、クワンタの商品が美しくプレゼンテーションされた空間が広がっていました。






さらにここは生産拠点であり、また織物生産について学ぶ体験・研修施設でもあります。
織物工房、染色工房、糸繰り工房、整経工房など生産に関わる機能が集約しており、さらに200人収容可能な研修施設、食堂、子供たちのための体験工房なども用意されていました。



















社員は30名ほどだそうですが、工房には近隣の職人が通ってきて、必要な時にはスタッフとして手伝ってくれる協力関係が成り立っているそうです。

次世代を担う近隣の児童への織物文化の継承にも意欲的で、訪問した時にも200名ほどの学生が研修に訪れていました。



現在の代表のター氏は三代目で、二代目の母親と同様にファッションの学校で学び、ファッションデザインまで手掛けています。





クワンタはイギリスでのファッションショーも行うなど高いクリエイティブを実現し、さらに地元への価値還元や持続可能性を高めるような足元への配慮も充実しています。

こうしたラグジュアリー提案と地元への還元を強く意識したブランドにイタリアのブルネロクチネリが知られていますが、ター氏に尋ねたところ、知らなかった、とのこと。「僕たちのようなことをしているブランドがあるんだね」とナチュラルに口にする姿は、とても格好良かったです。




ナカー衣料品市場/Na Kha Clothes Market

ナカー衣料品市場は、東西300m、南北100mほどのアーケード内に数十のショップが軒を連ねる衣料品専門の市場です。





グーグルマップでは「バーンナーカー(ตลาดผ้าบ้านนาข่า)」として表示されています。
(北緯,東経 17.551434,102.801140

手織りのマットミー(絣織り)、ミーキット(紋織り)のシルクを中心とした生地、アパレルが、溢れんばかりの規模感で販売されています。

主な客層はタイ国内の観光客だそうで、官公庁を中心にオフィスなどによって伝統服を着る日が設定されていて、そうした機会に着る服として需要があるとのこと。

基本的に手間のかかった伝統的な生地の洋服が並んでいるはずですが、あまりに多く並んでいるため一見するだけでは高級そうに見えず、普段着が並んでいるように見えるというのが第一印象。

しかしその中に埋もれるように、ひと目見てただものではない、と分かるような手の込んだ逸品を扱う店がありました。








このショップのオーナーさん。奥の看板には、タイ語で「この店はロイヤルピーコックブランドのシルクを販売しています」と書かれているようです。

ロイヤルピーコックブランドとは、先ほど紹介した同じウドンタニーのショップ「hattra」でも紹介したゴールドの認証シールのことで、「経糸、緯糸ともタイ産シルク糸を使用」、「天然染料または環境に優しい化学染料を使用」、「伝統的な手織機を使用」という条件を満たしていることを示しています。

イサーン・テキスタイル・ミュージアム/Isan Textile Museum

イサーン・テキスタイル・ミュージアムは、ウドンタニー・ラーチャバッド大学FTCDC(ファブリック・テキスタイル・クリエイティブ・デザイン・センター)内にある、イサーン地方の伝統織物やその素材である様々なシルク、そして織物で作られた衣類などが収集、保管されている博物館です。











なかでも圧巻だったのは、まずこの
世界最高の1775本の「綜絖」を備えた織機の展示でした。



この超複雑な紋織りを、手織り織機で実現するための仕掛けです。


この織機の謎については、次回以降の投稿でたっぷりご紹介したいと思いますので、ご期待ください。

そして次は、世界一の長さ1199mの紋織シルク(ミー・キット/Mee Khit)の反物。




この1199mもの長さのひとつながりの織物は、6か月を費やして
1991年に作られたものだそうです。おそらく何十人もの職人たちが関わるビッグプロジェクトだったことでしょう。

その他、このミュージアムでは地域の織物、衣類を購入・寄附されたものを収蔵する可動式ロッカーなどを備えています。



FTCDC全体としては、この博物館のほかに、当センター同様に品質検査をする設備、研修所を備え、ファッション開発、デザインの支援を行う機能も担っているとのことでした。



ウドンタニーを案内してくれた二人のうちNokさんがウドンタニー空港まで送ってくれました。このあとバンコクへ向かいます。

バンコク編



バンコクに到着。写真は空港に見えますが、じつは
空港ビルにいるような雰囲気を味わえることで知られた巨大ショッピングモール「ターミナル21」
エスカレータの下にあるサインも飛行機のピクトグラムとともに「Arrival(到着便)」と書いてあるのが見えます。



バンコクを案内してくれたのはこちらの三人。左がTHTIのPUNNRATさん、右はPPさん、真ん中は通訳の大学生、プレープロイさん。

THTI

今回、舟久保織物さんの舟久保勝さんとシケンジョの五十嵐を招いてくれた、研修事業の主催者、THTI(Thai Textile Institute)/タイ繊維産業開発機構を訪問しました。

THTIは、今回のデザイナー教育プログラムのような人材育成のほか、国際的なISO規格に基づく品質検査や、シルクの高品質化や新技術の研究開発なども行う、公設試験研究機関としての側面を持っており、いわばタイの国立シケンジョです。

引張試験、ピリング試験、摩擦堅ろう度試験など、当センターでもなじみのある試験機も多く見られました。

規模的には当センターをはるかに上回っており、ビルディングの1~5階フロアまでを占め、およそ30名の職員が各種試験業務を行っていました。











THTI所長のチャンチャイ・シリカセムレット博士にも面会することができました。




クイーン・シリキット・テキスタイル博物館

タイシルクを愛し、支援してきたシリキット王太后をたたえる博物館。歴史的なタイシルクやその製造技術のほか、シリキット王太后の衣装も展示されていました。

訪問から数か月後、シリキット王太妃は10月24日にご逝去されました。
心よりご冥福をお祈りいたします。

展示物もさることながら、伝統的な錦織り(Pha yok dok)の織機による実演映像など、制作風景の動画が素晴らしく見ごたえがありました。写真撮影できなかったのでご紹介できないのが残念です。

ミュージアムショップでは絣織り(マットミー)生地などの反物をカット売りするコーナーがあり、ショップの担当の方が見事なハサミさばきで生地をカットしてくれました。



そしてバンコクのスワンナプーム国際空港で、タイ王国でのハタオリトラベルも終了です。
空港の守り神である鬼神(ヤック)の前で記念撮影。

今回紹介させていただいたのは織物に関連するスポットのみですが、それ以外にも地域の歴史にまつわる様々な場所、伝統的なローカルフードなど、様々なタイの魅力を紹介していただき、タイの文化の豊かさに驚かされ続けた数日間でした。

お会いした人々はみんなタイの歴史文化や産業に誇りを持ち、タイでの暮らしを心から愛していることが感じられました。そんな方々に山梨のことを紹介させていただき、ものづくりの素晴らしさを共有できたことは、とても嬉しい経験でした。

THTIの皆さん、ありがとうございました。


次回は、帰国後にTHTIのJeabさんとやり取りして教わった、タイの織物のメカニズムをご紹介します!

(五十嵐)