山梨ハタオリ産地は、江戸時代の郡内縞や明治~昭和初期の甲斐絹から受け継いだ、細いフィラメント糸を主体にした産地です。
日頃あまり目にすることはありませんが、細いフィラメント糸の中には、さらに極細のフィラメントたちが潜んでいます。
そうした極細フィラメントの美しさを鑑賞するチャンスが、糸の撚りをほどいて調べる検撚(けんねん)試験。
今回のシケンジョテキでご紹介するのは、ふだん糸の中に隠されている、フィラメントたちが姿を現す、美しい検撚の風景です。
まず下の写真をご覧ください。
細いフィラメント糸ですが、撚りを戻していって、たくさんの束ねられていた細いフィラメントたちが、ほどかれて姿を現したところです。
このように撚りをほどくことを、解撚(かいねん)といいます。
このように撚りをほどくことを、解撚(かいねん)といいます。
この極細フィラメントたちの、緊張感に満ちた繊細な姿。
まるで糸の結晶。まさに検撚の美です(名曲『天然の美』にちなんで...)。
このように複数のフィラメント繊維でできた糸は「マルチフィラメント」と呼ばれます。
逆に、たった1本だけの繊維でできている糸は「モノフィラメント」といいます。
細い釣り糸や、網戸の素材に使われている糸などがモノフィラメントです。
検撚に使用する装置は、糸の撚りを調べるための検撚機です。
何回の撚りが入っているかを調べる装置です。
撚りの単位は、T/m。1mあたりのねじり(Twist)の回数です。
糸が2本の糸を合わせた双糸の場合、完全にほどくとこのようになります。
人間の元カップル同士の二人は、ヨリをもどすとくっつきますが、
糸の場合は、撚りをもどすと逆に二本に分かれてしまうのが面白いポイントです。
完全に分かれた時の回転数を調べると、撚り数が分かります。
この時は25㎝で131回くらいなので、524T/mという撚り数になります。
今回の主役は、このような双糸ではなく、単糸のマルチフィラメントです。
右の糸の端まで完全に開口したら、それで検撚のための解撚作業は終了です。
この写真の糸は、3デニールくらいのフィラメントが36本束ねられた糸でした。
フィラメント1本1本は、普通で約50デニール程度といわれる髪の毛よりもはるかに細く、すぐに切れてしまう繊細なものです。
途中で切れると、フィラメントが絡んで開口しなくなり、そうなったら検撚は失敗です。
しかし、気を許すと簡単に切れてしまうほどの繊細な糸だからこそ、細いフィラメントたちが作る瞬間的な造形美に、ときどき目を奪われることがあります。
今回は、そうした検撚の美をいくつかの写真でご紹介しましょう。どうぞご覧ください。
以上、フィラメント糸の美しい検撚の風景でした。
検撚機は、シケンジョ職員に声をかけてもらえれば織物関係者なら無料で使うことができます。
使い方もサポートしますので、事前にご連絡のうえ、ぜひご利用ください。
(五十嵐)