2020年4月14日火曜日

【オンライン織物基礎研修 ②】スパンとフィラメント

第1回では、織物のデザイン/設計をするにあたって、

さまざまなパラメーターや選択肢があることをお話ししました。


今回からは、その一つ一つにフォーカスして、

選択肢があったときに、どのような意図で一つが選ばれるのか?

ということについて説明しようと思います。

今回テーマは、「スパンとフィラメント」です。

この図解では、一番左の「素材」と「短/長繊維」に関係します。

この2つのパラメータからどれかを選ぶだけで、

出来上がる織物の外観、機能、風合いが大きく左右されます。


スパンとフィラメントとは?


まず全ての糸は、大きく分けると

スパン(短繊維)とフィラメント(長繊維)の
2種類に分類される

というところからスタートしましょう。

(上の図の中にあるインターレース糸とBCF糸は、次回以降に触れます)

スパン糸とフィラメント糸、それぞれの写真を撮ってきましたので、ご覧ください。



上の写真を見ると分かるように、スパン糸は毛羽が立っていて、

フィラメントはそれがほとんどありません。


この違いは、

短い繊維を紡いで束ねたもの(=スパン糸)か、
長い繊維を束ねたもの(=フィラメント糸)か、

の違いです。




身の回りにある天然繊維、綿、麻、毛は、みなスパン糸です。

いずれも、もともとの繊維の長さは数センチ程度で、

どんなに長くても数十センチ程度の繊維を束ねたものです。

しかし、天然繊維のなかで絹だけは「センチ」どころか、

その数千倍の長さがあるフィラメントです。

原料がスパンかフィラメントかによって、

糸の作り方や、原材料の繊維の長さが、まったく違うのです。



ちなみに、フィラメントは、短くして撚り合わせれば、

スパン糸にすることができますが、

その逆(スパン→フィラメント)は不可能です。


短い絹糸繊維をより合わせたものは、スパン糸に分類され、

絹紡糸(けんぼうし)」と呼ばれます。

また、あらゆる人造繊維は、すべてフィラメントとして誕生するので、

短くすればスパン糸として用いることもできるわけです。



では、スパンとフィラメントは、

どんな目的で使い分けられるのでしょうか?

繊維が長かったり、短かったりすると、どんな良いことがあるのでしょうか?


スパンとフィラメントの違いとは?


この写真をご覧ください。

寄り添っている男性と女性の髪の毛に注目です。
出典:無料の写真素材サイト Pexels より、Ba Tikによる写真
https://www.pexels.com/ja-jp/photo/3754244/ (PD)

よく見てみると、この二人の髪の毛には、

スパンとフィラメントの秘密が隠されているのです!


スパンとフィラメントの特徴は、この二人の髪の違いにあらわれています。

この二人の髪の毛の外観の違いや、

触ったときの感触の違いを想像してみてください。

その違いは、スパン糸・フィラメント糸を使った

織物の外観や風合いの違いにも通じています。



ふだん髪の毛のケアをされている方はご存じでしょう。

毛先がたくさん出ていると、髪が本来持っている光沢感が損なわれます。

これは、毛先の向きがランダムになるため、光があらゆる方向に散乱してしまい、

光を強く反射するハイライト部分が減少してしまうためです。
一方、この女性の髪のように長い髪が梳られて一方向に揃っていると、

毛先が途中に見られないので、繊維が揃った状態になります。

そうすると、ある角度の光を正反射して「ピカッ」と輝く状態が生まれます。

宮下織物(株)(富士吉田市)のシルクサテン
上の写真は、天然で唯一のフィラメント糸である、

絹の輝きを最大限に生かした織物です。

人造繊維が19世紀に生まれるまでは、

絹糸だけが、ピカッと輝く織物を作ることができたのです。

光織物(有)(富士吉田市)のジャカード織物
上の写真の織物では、ジャカード織りによって、

フィラメント糸の光沢感を、キラキラと輝く文様に応用しています。

この織物では、絹ではなく、化学繊維が使われています。



下の写真は、スパン糸であるリネン(麻)のふわふわ、さらさらした風合いを

生かした織物です。糸の表面から繊維の「毛先」がたくさん出ているので、

光沢がありませんが、そのかわりに、クッション性や適度な手触りが生まれ、

ふんわりとやわらかで心地よい風合いの生地になっています。

(有)テンジン(富士吉田市)のリネンクロス

ここで、前回の課題を思い出してください。

みなさんがイメージした「こんな感じ」の布には、

スパン糸とフィラメント糸の、どちらが合っていますか?


素材やほかのパラメータについて詳しく知らなくても、

スパンかフィラメントか(短/長繊維)という1点だけでも、

イメージした「こんな感じ」に近づけることができる、ということが

お分かりいただけたのではないでしょうか。




最後にもう一度、髪の毛を例にして、

スパンとフィラメントの特性を復習しましょう。


これがスパンの例です。特に刈り上げ部分。触り心地がよさそうですね。

出典:無料の写真素材サイト Pexels より、Min Anによる写真を編集したもの
 https://www.pexels.com/ja-jp/photo/680239/ (PD)

これがフィラメントの例。美しい光沢ですね~。

出典:無料の写真素材サイト Pexels より、Thgusstavo Santanaによる写真を編集したもの
https://www.pexels.com/ja-jp/photo/1813346/ (PD)

それでは、また次回をお楽しみに。

(五十嵐)