2020年4月10日金曜日

【オンライン織物基礎研修 ①】機屋さんのテキスタイルデザイン

例年、年度初めに実施している研修内容を

オンラインでご紹介するシリーズを開始いたします。

対象は、織物会社で働き始めたけど、織物についてまだ勉強したことがない方です。

よろしければどうぞお付き合いください!




第1回目は、題して「機屋さんのテキスタイルデザイン」。

「デザイン」というと、色や形やレイアウトのことだ、

と思う方も多いことと思いますが、テキスタイルデザインには

色や柄が全くないデザイン というものがあります。

それは一体何か?そのデザインを実現するために機屋さんは何をしているのか?

というのが今回のテーマです。

それではまず最初に、この課題に取り組んでみてください。

[課題1] 所要時間=1分間

あなたが好きな感じの「白い布」がどんなものなのか、

他の人に伝わるように、イメージ語や擬音などで言語化する作業です。

できたら次に進みましょう。


[課題1の解答例]

きっと、こんな言葉が出てきたのではないでしょうか。

このように、テキスタイルデザインは、色や柄をまったく抜きにしても、

質感や触感のデザインだけで、無限の可能性があります。


広い意味でのテキスタイルデザインは、

まだ存在していない「こんな感じ」という布を、
できるだけ具体的に想像すること、
そしてそれを人に伝えられるように言語化すること

からスタートするのではないか、と思います。


次に必要なのは、

言語化された「こんな感じ」を、
どのように現実の布として具現化するか?

です。

布を作る工程には、とてもたくさんの要素があります。

糸の素材は何か?それはどんな繊維か?太さは?撚りは? ...

「こんな感じ」を表す言葉を、

このような具体的な織物製造のスペックに翻訳しなければ、

現実の布を作ることはできません。


織物産地の機屋さんたちは、きれいな色や柄を描けるひとは

少ないかもしれませんが、「こんな感じ」のイメージを、

製造スペックに翻訳することは日常的に行っています。

また、機屋さん自らが「こんな布を作りたい」とイメージを膨らませ、

それを織るにはどうしたら良いか?

と考え実践することも、当たり前に行われています。


これこそが、今回のタイトル「機屋さんのテキスタイルデザイン」です。



「こんな感じ」を表す言葉と、製造スペックを結ぶ線は、

1本だけではありません。

例えば「ふわふわ」の布を作る方法は無数にあり、

複数の製造スペックを組み合わせて、最高の「ふわふわ」を目指すことが

機屋さんの醍醐味だといえるでしょう。


このプロセスは、料理にも通じるものだと思います。

「こってりして体が温まるスープ」というイメージを具現化するためには、

具材や出汁に何を選ぶか?スパイスや塩加減はどうするか?など、

だれもがイメージを調理方法に翻訳しているはずです。


織物の場合も、料理と同じように、

最高のレシピ、最高の調理方法を求めて、プロフェッショナルは

研鑽を積んでいるのだと例えることができるでしょう。


では、織物の製造スペックについて、簡単に紹介しましょう。

下の図は、織物の製造スペックを、

スマホアプリの設定画面をイメージして、レイアウトしてみたものです。




素材、繊度、撚りなど、各項目それぞれについて、たくさんの選択肢の中から

どれか一つを選び出し、具体的な数値を決めていかないと、

布一枚も生まれることはありません。

こんなアプリの設定画面を適切に埋めるという大変な作業には、

たくさんの知識や経験が必要なことがわかると思います。

一流のテキスタイルデザイナーでさえ、この全てを設計することは

ほとんどないでしょう。

それを行うのは、織物工場の職人のみなさんです。




「こんな感じの布が欲しい!」というデザイナーの情報をきいて、

上の図のようにビシッと製造スペックを決定し、

織ってみたらバッチリ「こんな感じ」のイメージどおりに仕上がったとしたら、

さぞ機屋さん冥利に尽きることでしょう。


このオンライン織物基礎研修では、

その道へ進むための第一歩となる基礎知識を

紹介していけたらと思います。

第1回目、お付き合いいただきありがとうございました。

(五十嵐)