糸の太さがどのくらいか、という度合を、
どのように調べ、どのように表現すれば良いかを勉強するコーナーです。
まず、「太さ」とはなにか?
について考えてみましょう。
単に「太さ」といえば、一般常識では細長い物体の直径のことを指します。
しかし、繊維製品で使われる糸は、細い繊維の集合体ですので
同じ糸でも、状態によって「集合」の様子が変わり、「直径」が変わってしまいます。
糸の太さは、このように変化する「直径」ではなく、
状態によって変わらないものを基準にする必要があります。
では、変わらないものとはは何か? それは糸の「長さ」と「重さ」です。
※厳密には糸の長さは撚り数などの状態変化によって変わりますが微小なためここでは無視します。
そんなわけで、糸の場合は「長さ」と「重さ」を使って「太さ」を表現します。
このとき、「太さ」という言葉自体、もう糸の場合にはふさわしくないので、
太さに代わる言葉として「繊度」という用語を使います。
恒長式と恒重式
繊度には、「長さ」と「重さ」のそれぞれを軸にした、
2つの表記方法のグループがあります。
それが、
「恒長式(こうちょうしき)」と
「恒重式(こうじゅうしき)」です。
少しややこしいですが、せっかくなのでどんなものか
イメージできるよう図解してみました。
恒長式は、一定の「長さ」の繊維の量、「重さ」で繊度を表します。
恒重式は、一定の「重さ」の原料から紡いだ時の「長さ」で繊度を表します。
絹などフィラメント糸に使われるのが恒長式、
綿などスパン糸に使われるのが恒重式です。
注意ポイント1:数字の大小と繊度の大小
恒長式と恒重式では、数字の大きさと糸の太さが逆転するという
ややこしい仕組みが、いつの時代にも初心者を悩ませる元になっています。
上の図にもあるように、
恒長式のデニールなどは、数字が大きいほど太くなり、
恒重式の綿番手などは、数字が大きいほど細くなります。
逆転の理由は実際のところは分かりませんが、図の中の説明にあるように、
数字の大小が、価値の大小に一致していたのではないか?、
というのが、このコーナーでの仮説です。
注意ポイント2:素材によって番手が違う
そしてさらにややこしいのが、
糸の素材ごとに単位が違う、ということです。
絹(などフィラメント)、毛、綿、麻、という
4大天然繊維の種類ごとに、それぞれ別の単位が使われています。
例えば、毛の100番と、綿の100番では、太さが違います。
これは、スーパーのお肉でいえば
牛肉100gと、豚肉100gで重さが違う(!)ようなものです。
とても分かりづらく、ありえないような前近代的な状況ですね。
しかし、繊維の長い歴史、様々な地域、文化、商慣習の中で
続いてきた伝統があり、そう簡単に変えられないほど
浸透しきっているのが現状です。
現在、単位を統一し、そうした混乱を正そうと、テックス という
SI(国際単位系)に即した単位も使われています。
しかし現状では、少なくとも山梨ハタオリ産地では
それぞれの素材ごとの単位の方が、ずっと多く使われています。
そのような単位は、総称して「番手」と呼ばれています。
では、恒長式、恒重式のそれぞれの番手の定義と、その表記を見てみましょう。
「100/2 S」の「S」のように数字の横につく単位記号は、
D(デニール)、S(毛・綿・麻番手)、T(テックス)のほぼ3種類ですが、
番手の種類を示す略号としては他に
毛番手 ⇒ MC, NM, Nm
綿番手 ⇒ EC, Ne, NeC
麻番手 ⇒ NeL, Lea
綿番手 ⇒ EC, Ne, NeC
麻番手 ⇒ NeL, Lea
なども使われます。特に海外との取引の際に見ることがありますので
留意しておいてください。
【実習】番手を調べよう
シケンジョ近くの方は、シケンジョの設備を使って調べることができます。
(予約は不要ですが、受付で所定の手続きをしたあとで、繊維技術部の職員をお呼びください)
どんな素材でも、まずデニールを測るのが基本です。
なぜなら、「長さ」を一定にして「重さ」を測る恒長式のデニールのほうが、
「重さ」を一定にして「長さ」を測る恒重式の番手より楽だからです。
図のような理由から、9cmにカットするところからスタートです。
うまく切れたら、精密秤に載せて重量を測ります。
小数点以下5桁まで表示できるなら、最後の桁がそのままデニールになります。
秤は精密機械なので、測定する面に直接触らないように注意しましょう。
載せるときや取るときは、ピンセットでつまんでやさしく取り扱ってください。
デニールがわかったら、番手ごとの換算です。
そんなにむつかしい計算ではありません。
次は、単糸か双糸かを調べます。
その区別については、第3回の「単糸/双糸、撚糸、インターレース糸」をご覧ください。
その区別については、第3回の「単糸/双糸、撚糸、インターレース糸」をご覧ください。
これで、調べたい糸の番手が分りました。
お疲れさまでした!
次の①、②、③は、補足の注意点です。
①平均を出す
糸の太さはバラつきがあり、また測定誤差もあるので、
何本も測って平均を出すのが良いでしょう。
スパンとフィラメントでは、スパン糸の方がバラつきがずっと大きいので、
複数本の平均を出すことをお勧めします。
②糸は重くなっていることが多い
織り縮みや、後加工での付着物などのため、糸の重さは
販売されているときの表示よりも、重くなっているのが普通です。
調べた結果よりも若干軽い値が、もともとの番手と考えてよいでしょう。
③シルクの番手は精練を考慮する
シルクのフィラメント糸(絹紡糸以外)で使われる番手はデニールですが、
シルクの場合は、精練工程を経るため、多くの場合、
販売時と使用時で繊度が変わります。
説明が長くなりますので、これについては回を改め、
次回、「糸の太さ」の後編「シルクの番手」でご説明します。
それではまた!
(五十嵐)