2020年4月30日木曜日

【オンライン織物基礎研修 ⑤】糸の太さ ~ 繊度と番手 ~

糸の太さがどのくらいか、という度合を、

どのように調べ、どのように表現すれば良いかを勉強するコーナーです。


まず、「太さ」とはなにか?

について考えてみましょう。


単に「太さ」といえば、一般常識では細長い物体の直径のことを指します。

しかし、繊維製品で使われる糸は、細い繊維の集合体ですので

同じ糸でも、状態によって「集合」の様子が変わり、「直径」が変わってしまいます。




糸の太さは、このように変化する「直径」ではなく、

状態によって変わらないものを基準にする必要があります。

では、変わらないものとはは何か? それは糸の「長さ」と「重さ」です。

※厳密には糸の長さは撚り数などの状態変化によって変わりますが微小なためここでは無視します。

そんなわけで、糸の場合は「長さ」「重さ」を使って「太さ」表現します。

このとき、「太さ」という言葉自体、もう糸の場合にはふさわしくないので、

太さに代わる言葉として「繊度」という用語を使います。


恒長式と恒重式


繊度には、「長さ」「重さ」のそれぞれを軸にした、

2つの表記方法のグループがあります。

それが、

「恒長式(こうちょうしき)

恒重式(こうじゅうしき)です。


少しややこしいですが、せっかくなのでどんなものか

イメージできるよう図解してみました。

恒長式は、一定の「長さ」の繊維の量、「重さ」で繊度を表します。

恒重式は、一定の「重さ」の原料から紡いだ時の「長さ」で繊度を表します。

絹などフィラメント糸に使われるのが恒長式

綿などスパン糸に使われるのが恒重式です。


注意ポイント1:数字の大小と繊度の大小


恒長式と恒重式では、数字の大きさと糸の太さが逆転するという

ややこしい仕組みが、いつの時代にも初心者を悩ませる元になっています。


上の図にもあるように、

恒長式のデニールなどは、数字が大きいほど太くなり、

恒重式の綿番手などは、数字が大きいほど細くなります。


逆転の理由は実際のところは分かりませんが、図の中の説明にあるように、

数字の大小が、価値の大小に一致していたのではないか?

というのが、このコーナーでの仮説です。


注意ポイント2:素材によって番手が違う


そしてさらにややこしいのが、

糸の素材ごとに単位が違う、ということです。

(などフィラメント)、綿、という

4大天然繊維の種類ごとに、それぞれ別の単位が使われています。

例えば、毛の100番と、綿の100番では、太さが違います。



これは、スーパーのお肉でいえば

牛肉100gと、豚肉100gで重さが違う(!)ようなものです。

とても分かりづらく、ありえないような前近代的な状況ですね。


しかし、繊維の長い歴史、様々な地域、文化、商慣習の中で

続いてきた伝統があり、そう簡単に変えられないほど

浸透しきっているのが現状です。

現在、単位を統一し、そうした混乱を正そうと、テックス という

SI(国際単位系)に即した単位も使われています。


しかし現状では、少なくとも山梨ハタオリ産地では

それぞれの素材ごとの単位の方が、ずっと多く使われています。



そのような単位は、総称して「番手」と呼ばれています。

では、恒長式、恒重式のそれぞれの番手の定義と、その表記を見てみましょう。



「100/2 S」の「S」のように数字の横につく単位記号は、

D(デニール)S(毛・綿・麻番手)T(テックス)のほぼ3種類ですが、

番手の種類を示す略号としては他に

毛番手 ⇒ MC, NM, Nm

綿番手 ⇒ EC, Ne, NeC

麻番手 ⇒ NeL, Lea

なども使われます。特に海外との取引の際に見ることがありますので

留意しておいてください。



【実習】番手を調べよう


それでは、実際に番手を調べる方法を見てみましょう。

シケンジョ近くの方は、シケンジョの設備を使って調べることができます。

(予約は不要ですが、受付で所定の手続きをしたあとで、繊維技術部の職員をお呼びください)


どんな素材でも、まずデニールを測るのが基本です。

なぜなら、「長さ」を一定にして「重さ」を測る恒長式のデニールのほうが、

「重さ」を一定にして「長さ」を測る恒重式の番手より楽だからです。

図のような理由から、9cmにカットするところからスタートです。


うまく切れたら、精密秤に載せて重量を測ります。

小数点以下5桁まで表示できるなら、最後の桁がそのままデニールになります。

秤は精密機械なので、測定する面に直接触らないように注意しましょう。

載せるときや取るときは、ピンセットでつまんでやさしく取り扱ってください。


デニールがわかったら、番手ごとの換算です。

そんなにむつかしい計算ではありません。



次は、単糸か双糸かを調べます。

その区別については、第3回の「単糸/双糸、撚糸、インターレース糸」をご覧ください。

これで、調べたい糸の番手が分りました。

お疲れさまでした!


次の①、②、③は、補足の注意点です。


①平均を出す

糸の太さはバラつきがあり、また測定誤差もあるので、

何本も測って平均を出すのが良いでしょう。

スパンフィラメントでは、スパン糸の方がバラつきがずっと大きいので、

複数本の平均を出すことをお勧めします。



②糸は重くなっていることが多い

織り縮みや、後加工での付着物などのため、糸の重さは

販売されているときの表示よりも、重くなっているのが普通です。

調べた結果よりも若干軽い値が、もともとの番手と考えてよいでしょう。



③シルクの番手は精練を考慮する

シルクのフィラメント糸(絹紡糸以外)で使われる番手はデニールですが、

シルクの場合は、精練工程を経るため、多くの場合、

販売時と使用時で繊度が変わります

説明が長くなりますので、これについては回を改め、

次回、「糸の太さ」の後編「シルクの番手」でご説明します。

それではまた!


(五十嵐)

2020年4月24日金曜日

【オンライン織物基礎研修 ④】タテとヨコの違い

織物の基本となる考え方を学ぶシリーズ、第4回。

今回のテーマは、経糸緯糸の違いです。

タテとヨコには、どんな違いがあるのでしょうか?

ではさっそく問題です!


【課題1】


下のA・Bの方法で、どちらも全く同一の布が織れる場合、

あなたは経営者として、A・Bどちらの方法を採用しますか?

では、経糸と緯糸の太さ・密度が完全に逆転しています。

出来上がった布を、90度回転すれば、まったく見分けがつかなくなるという前提です。

「経営者として」という言葉は、「生産性」がポイントですよ、というヒントです。



【答】

お分かりいただけたでしょうか?

そう、生産性に敏感な経営者のあなたが選ぶべきなのは、だんぜんです。
仮に120本/分の速度の織機でこの図の本数を織った場合、

所要時間は〔30本/15秒〕 vs 〔8本/4秒〕でBが圧倒的勝利!


織機というのは、あらかじめ用意しておいた経糸に、緯糸を1本ずつ織り込む機械です。

どのくらい早くたくさん緯糸を織り込めるかが、生産性を左右します。

だから、同じものが織れるのなら、緯糸が少なくてすむ方が良いわけです。


それでは、次の問題です。


【課題2】


A「タテとヨコが同じ」と、B「タテ=細・密、ヨコ=太・疎という

異なる条件で織られた2種類の布があります。

結果的に同じような品質・外観・風合いが得られるので、

どちらの方法で作ってもOK、とお客さんからもお墨付きです。

作るとしたら、あなたは、どちらの布を選びますか?


【答】




この場合も、もし問題なく同じようなものが織れるなら、

早くできる分、の方が経営者にとって魅力的です。


ということは、問題がなければ、織物はなるべくなら

「タテ=細・密、ヨコ=太・疎」

という設計にしたくなるような、

経済的な原理が働いている、ということができます。

(もちろん、これに従わない例外もあります)



それでは実際の生地(たまたま手元にあった6種類の生地)の写真で、

[タテ=細・密、ヨコ=太・疎]の事例を見てみましょう。

数字のあいだの不等号の色は、[タテ=細・密、ヨコ=太・疎]

従っているものを朱色、従わないものを水色で示しました。

この原則に従っているケースが、大多数であることがわかると思います。


[ タテは双糸、ヨコは単糸が多いワケ? ]


ここで、上の写真のA、B、Cの繊度を見てください。

注目してもらいたいのは、下の写真でピンク色で示した部分です。


「20/2」のような書き方は、その糸が「双糸」であることを示しています。

こうしてみると、たまたま手元にあった6種類の布では、

双糸経糸だけ使われ緯糸すべて単糸でできています。

それは、なぜでしょうか?

みなさんも、考えてみてください。

【課題3】


双糸が経糸に多く、緯糸は単糸が多いのはなぜ?


ヒントは、前回の「単糸/双糸、撚糸、インターレース糸」で紹介した

ストレートロングさん、三つ編みさんの違いです。


前回の「単糸/双糸、撚糸、インターレース糸」を理解してくれた方は、

織機の仕組みをまだ知らなかったとしても、

単糸と双糸を使い分ける理由はわかると思います。


【答】

双糸が経糸に多く使われるその理由は、経糸には丈夫さが求められるからです。

それはなぜか?下の図をご覧ください。

経糸は、織機の上にセットされてから織られるまで、

いくつもの試練を耐え抜く必要があります。

緯糸は、織られるときの一瞬、力がかかるだけです。


こうした製造時の制約から、一般的に

経糸には、緯糸よりも丈夫な糸が用いられます。


そして、その違いが、織物の上の役割分担にも反映されることが多いのです。

下の写真のようなネクタイ生地では、経糸と緯糸のどちらもシルク糸ですが、

かなりハッキリと役割が分かれています。

ネクタイにシルクの光沢を与え、鮮やかな色を演出しているのは、

もっぱら緯糸の役割です。経糸は、ほとんど脇役に徹しています。


中島みゆきさんの「糸」という歌では、

経糸が、比較的頑丈な男性の役割として歌われているのは、

ある意味、現実に即しているといえるでしょう。


今回の内容を覚えておけば、布の切れ端を調べたとき、

どちらが経糸か?というのも、ほとんどの場合に分かります。

シケンジョの顕微鏡を使えば一目瞭然ですので、

お近くの方はぜひご活用ください。

(予約は不要ですが、受付で所定の手続きをしたあとで、繊維技術部の職員をお呼びください)



今回は、2018年のバックナンバー「タテの糸とヨコの糸」との

姉妹編のような内容です。

今回の内容よりも、少し難解なところもありますが、

よろしければご覧ください。

それでは、また!


(五十嵐)


2020年4月21日火曜日

【オンライン織物基礎研修 ③】単糸/双糸、撚糸、インターレース糸

今回のテーマは、

単糸/双糸、撚糸、インターレース糸

前回の「スパンとフィラメント」と合わせて、

≪糸のカタチ≫ シリーズ、その後編といえる内容です。

 

それでは、さっそくクエスチョンです。



【今回の課題】


 友達のアパートの引っ越しのお手伝いに、次の3人が集まりました。

 3人の髪型を基準に、引っ越し作業に適した順番に並べなおしてください。

出典:無料の写真素材サイト Pexels よりダウンロードし、トリミングしたものです。
撮影者・提供者は左から順にKonstantinさん、Tuấn Kiệt Jr.さん、Pixabayさん。

この3人の、実際の引っ越し能力は未知数ですが

ハードな作業でも平気そうな髪型ランキングとして
解答すると

こんな感じではないでしょうか。


もうお分かりのことと思いますが、

この課題は、前回の「スパンとフィラメント」に引き続き、

糸のカタチを、髪の毛にたとえたものです。


それぞれの髪型が、どんな糸のカタチに対応しているか、見てみましょう。



【 ストレートロングヘア  単糸 】

 
ツヤツヤさらさらのストレートロングヘアは、綺麗で華やか、手触りもしなやかで柔らかですが、その反面、衝撃に対して弱く、傷つきやすい髪形です。引っ越し作業には最も不向きでしょう。

これは、繊維を束ねただけの「単糸」に相当します。単糸のなかでも、写真の女性のようなストレートヘアというのは糸の撚りが全くかかっていない「無撚」の状態にあたります。

本来は、撚りをかけないほうが、繊維の美しさがそのまま生かされ、柔らかな風合いが生まれます。

しかし、織物を作る工程や用途の必要性から、ある程度の強靭さが求められますので、適度な撚りをかけることで、繊維をぎゅっと束ねて、強度を高めています。


【 三つ編み → 双糸(諸糸) 】

 
三つ編みは、髪を3束に分けて編み込んだ髪型です。
引っ越し作業でも一番実用的なのがこれでしょう。

光沢や風合いは弱まりますが、動き回っても髪が乱れず、衝撃に対する強さもあります。
また、編んだパターンがネックレスの鎖のように粒だった輝きを放ち、ストレートとは違った美しさも備えています。

これは、複数の糸を束ねて撚り合わせた
「諸糸(2本諸撚り、3本諸撚りなど。最も多く使われる2本のときは特に「双糸」と呼ぶ)に相当します。
単糸にくらべて丈夫なので、固くてコシのある風合いが生まれます。下の写真の糸は、2本の単糸を撚り合わせた「双糸」です。


【 ツインテール  インターレース糸 】

ツインテール(またはポニーテール)は、髪の毛を一か所で束ねた髪型。

長い髪が自由になびく美しさは保ったまま、ある程度の丈夫さがあるので、スポーツをするときなどに重宝です。引っ越しの場面でも実用性はあるでしょう。

これは、長い繊維(フィラメント)の束を、無撚のまま、ときどき繊維を絡めさせ束ねてできた「インターレース糸」に相当します。
撚りのかかっていない、ふっくらフワフワな糸を使って織りたいときに使われます。風合いと丈夫さ、一石二鳥の糸です。


上の3つのうち、インターレース糸はその構造上、

「フィラメント糸」のものだけが存在しますが、

単糸と双糸(諸糸)は、フィラメント糸もスパン糸も、どちらにも共通しています。


ただし「無撚」の糸は、スパン糸にはありません。

スパン糸は、短い繊維を撚り合わせて糸にしているので、

糸になっている以上、必ず撚りがかかっています。



次の写真は、顕微鏡でみた単糸、双糸、インターレース糸の様子です。

単糸は、撚りが甘いもの(甘撚り)、ふつう、撚りが強いもの(強撚)を

並べてみました。撚りがかかるにつれて、糸がギュッと細く締まるのがわかります。


それでは今回のまとめです。


アクション映画などでは、よく強さと美しさを兼ね備えたヒロイン達が活躍します。

そんなヒロインが求められ、皆が観たがるのはなぜかというと、

現実の世界では強さと美しさを両立させられる事例があまりないからだといえます。



織物で使われる糸も同じです。

ふつうは強さと美しさは両立できないので、

どちらかに特化した二者択一だったり、

折衷案となるちょうど良いバランスが選ばれます。


しかし、そこをあきらめず、美しいまま強くする方法を

職人や技術者、研究者は探し求めて、様々な手法を開発してきました。


そんな図式のなかに、今回のタイトルで列記した

「単糸/双糸、撚糸、インターレース」が位置づけられています。



今回の裏テーマは「強さと美しさのせめぎ合い」だった、

といっても過言ではありません。

下の写真の、架空の織物設計アプリ画面。

この中の「撚り」と「単糸/双糸」のパラメーターを選択することは、

このような、外観と風合い、強度などに関わる意味があるわけです。


さて最後に、前回の「スパンとフィラメント」で説明しなかった

BCF(Bulked Continuous Filaments)糸について紹介します。

捲縮糸(けんしゅくし)ともいわれるものです。

インターレース糸とBCF糸は、一見するとそれぞれ

フィラメント糸、スパン糸の単糸に見えます。

どちらも原料はフィラメント繊維で、製糸するときにそれらを絡ませて

作られているのは共通していますが、目的が違います。


インターレース糸は、「フィラメント糸を無撚のまま、より丈夫にしたもの」、

BCF糸は、「スパンの単糸をより丈夫にしたもの言い換えると

「フィラメント糸の強靭さを保ちつつ、スパンの風合いを持たせたもの」といえます。


スパン糸のように繊維が飛び出しているので、
かさ高性や弾力性がありますが、

ひとつながりの長繊維(Continuous Filament)を絡ませたものなので、

耐久力や耐摩耗性がすぐれています。




【 宿題 】


撚糸については、より詳しいことは、バックナンバー撚糸のひみつ」をご覧ください。




「諸撚り」「片撚り」の違い、「S撚り」「Z撚り「上撚り」「下撚り」など

撚糸の用語やメカニズムを理解するさまざまな実演、実験をまとめてあります。

累計1万PVを超えるシケンジョテキ屈指の人気コンテンツです。



最後になりましたが、今回の内容を振り返って強調しておきたいのは、

ハタヤさんは、生地に必要とされる強さ、丈夫さの範囲で、

できうるかぎり最高の美しさを実現するために、

最も傷みやすく繊細な糸を使いこなそうと、日々努力している、

ということです。


美しい織物を作るためには、楽な道はありません。

日夜、美しい髪をキープするために苦労されている皆さんなら

きっとよくお分かりのことでしょう!


それでは今回はここまでです。

ありがとうございました!


(五十嵐)

2020年4月14日火曜日

【オンライン織物基礎研修 ②】スパンとフィラメント

第1回では、織物のデザイン/設計をするにあたって、

さまざまなパラメーターや選択肢があることをお話ししました。


今回からは、その一つ一つにフォーカスして、

選択肢があったときに、どのような意図で一つが選ばれるのか?

ということについて説明しようと思います。

今回テーマは、「スパンとフィラメント」です。

この図解では、一番左の「素材」と「短/長繊維」に関係します。

この2つのパラメータからどれかを選ぶだけで、

出来上がる織物の外観、機能、風合いが大きく左右されます。


スパンとフィラメントとは?


まず全ての糸は、大きく分けると

スパン(短繊維)とフィラメント(長繊維)の
2種類に分類される

というところからスタートしましょう。

(上の図の中にあるインターレース糸とBCF糸は、次回以降に触れます)

スパン糸とフィラメント糸、それぞれの写真を撮ってきましたので、ご覧ください。



上の写真を見ると分かるように、スパン糸は毛羽が立っていて、

フィラメントはそれがほとんどありません。


この違いは、

短い繊維を紡いで束ねたもの(=スパン糸)か、
長い繊維を束ねたもの(=フィラメント糸)か、

の違いです。




身の回りにある天然繊維、綿、麻、毛は、みなスパン糸です。

いずれも、もともとの繊維の長さは数センチ程度で、

どんなに長くても数十センチ程度の繊維を束ねたものです。

しかし、天然繊維のなかで絹だけは「センチ」どころか、

その数千倍の長さがあるフィラメントです。

原料がスパンかフィラメントかによって、

糸の作り方や、原材料の繊維の長さが、まったく違うのです。



ちなみに、フィラメントは、短くして撚り合わせれば、

スパン糸にすることができますが、

その逆(スパン→フィラメント)は不可能です。


短い絹糸繊維をより合わせたものは、スパン糸に分類され、

絹紡糸(けんぼうし)」と呼ばれます。

また、あらゆる人造繊維は、すべてフィラメントとして誕生するので、

短くすればスパン糸として用いることもできるわけです。



では、スパンとフィラメントは、

どんな目的で使い分けられるのでしょうか?

繊維が長かったり、短かったりすると、どんな良いことがあるのでしょうか?


スパンとフィラメントの違いとは?


この写真をご覧ください。

寄り添っている男性と女性の髪の毛に注目です。
出典:無料の写真素材サイト Pexels より、Ba Tikによる写真
https://www.pexels.com/ja-jp/photo/3754244/ (PD)

よく見てみると、この二人の髪の毛には、

スパンとフィラメントの秘密が隠されているのです!


スパンとフィラメントの特徴は、この二人の髪の違いにあらわれています。

この二人の髪の毛の外観の違いや、

触ったときの感触の違いを想像してみてください。

その違いは、スパン糸・フィラメント糸を使った

織物の外観や風合いの違いにも通じています。



ふだん髪の毛のケアをされている方はご存じでしょう。

毛先がたくさん出ていると、髪が本来持っている光沢感が損なわれます。

これは、毛先の向きがランダムになるため、光があらゆる方向に散乱してしまい、

光を強く反射するハイライト部分が減少してしまうためです。
一方、この女性の髪のように長い髪が梳られて一方向に揃っていると、

毛先が途中に見られないので、繊維が揃った状態になります。

そうすると、ある角度の光を正反射して「ピカッ」と輝く状態が生まれます。

宮下織物(株)(富士吉田市)のシルクサテン
上の写真は、天然で唯一のフィラメント糸である、

絹の輝きを最大限に生かした織物です。

人造繊維が19世紀に生まれるまでは、

絹糸だけが、ピカッと輝く織物を作ることができたのです。

光織物(有)(富士吉田市)のジャカード織物
上の写真の織物では、ジャカード織りによって、

フィラメント糸の光沢感を、キラキラと輝く文様に応用しています。

この織物では、絹ではなく、化学繊維が使われています。



下の写真は、スパン糸であるリネン(麻)のふわふわ、さらさらした風合いを

生かした織物です。糸の表面から繊維の「毛先」がたくさん出ているので、

光沢がありませんが、そのかわりに、クッション性や適度な手触りが生まれ、

ふんわりとやわらかで心地よい風合いの生地になっています。

(有)テンジン(富士吉田市)のリネンクロス

ここで、前回の課題を思い出してください。

みなさんがイメージした「こんな感じ」の布には、

スパン糸とフィラメント糸の、どちらが合っていますか?


素材やほかのパラメータについて詳しく知らなくても、

スパンかフィラメントか(短/長繊維)という1点だけでも、

イメージした「こんな感じ」に近づけることができる、ということが

お分かりいただけたのではないでしょうか。




最後にもう一度、髪の毛を例にして、

スパンとフィラメントの特性を復習しましょう。


これがスパンの例です。特に刈り上げ部分。触り心地がよさそうですね。

出典:無料の写真素材サイト Pexels より、Min Anによる写真を編集したもの
 https://www.pexels.com/ja-jp/photo/680239/ (PD)

これがフィラメントの例。美しい光沢ですね~。

出典:無料の写真素材サイト Pexels より、Thgusstavo Santanaによる写真を編集したもの
https://www.pexels.com/ja-jp/photo/1813346/ (PD)

それでは、また次回をお楽しみに。

(五十嵐)