2020年4月21日火曜日

【オンライン織物基礎研修 ③】単糸/双糸、撚糸、インターレース糸

今回のテーマは、

単糸/双糸、撚糸、インターレース糸

前回の「スパンとフィラメント」と合わせて、

≪糸のカタチ≫ シリーズ、その後編といえる内容です。

 

それでは、さっそくクエスチョンです。



【今回の課題】


 友達のアパートの引っ越しのお手伝いに、次の3人が集まりました。

 3人の髪型を基準に、引っ越し作業に適した順番に並べなおしてください。

出典:無料の写真素材サイト Pexels よりダウンロードし、トリミングしたものです。
撮影者・提供者は左から順にKonstantinさん、Tuấn Kiệt Jr.さん、Pixabayさん。

この3人の、実際の引っ越し能力は未知数ですが

ハードな作業でも平気そうな髪型ランキングとして
解答すると

こんな感じではないでしょうか。


もうお分かりのことと思いますが、

この課題は、前回の「スパンとフィラメント」に引き続き、

糸のカタチを、髪の毛にたとえたものです。


それぞれの髪型が、どんな糸のカタチに対応しているか、見てみましょう。



【 ストレートロングヘア  単糸 】

 
ツヤツヤさらさらのストレートロングヘアは、綺麗で華やか、手触りもしなやかで柔らかですが、その反面、衝撃に対して弱く、傷つきやすい髪形です。引っ越し作業には最も不向きでしょう。

これは、繊維を束ねただけの「単糸」に相当します。単糸のなかでも、写真の女性のようなストレートヘアというのは糸の撚りが全くかかっていない「無撚」の状態にあたります。

本来は、撚りをかけないほうが、繊維の美しさがそのまま生かされ、柔らかな風合いが生まれます。

しかし、織物を作る工程や用途の必要性から、ある程度の強靭さが求められますので、適度な撚りをかけることで、繊維をぎゅっと束ねて、強度を高めています。


【 三つ編み → 双糸(諸糸) 】

 
三つ編みは、髪を3束に分けて編み込んだ髪型です。
引っ越し作業でも一番実用的なのがこれでしょう。

光沢や風合いは弱まりますが、動き回っても髪が乱れず、衝撃に対する強さもあります。
また、編んだパターンがネックレスの鎖のように粒だった輝きを放ち、ストレートとは違った美しさも備えています。

これは、複数の糸を束ねて撚り合わせた
「諸糸(2本諸撚り、3本諸撚りなど。最も多く使われる2本のときは特に「双糸」と呼ぶ)に相当します。
単糸にくらべて丈夫なので、固くてコシのある風合いが生まれます。下の写真の糸は、2本の単糸を撚り合わせた「双糸」です。


【 ツインテール  インターレース糸 】

ツインテール(またはポニーテール)は、髪の毛を一か所で束ねた髪型。

長い髪が自由になびく美しさは保ったまま、ある程度の丈夫さがあるので、スポーツをするときなどに重宝です。引っ越しの場面でも実用性はあるでしょう。

これは、長い繊維(フィラメント)の束を、無撚のまま、ときどき繊維を絡めさせ束ねてできた「インターレース糸」に相当します。
撚りのかかっていない、ふっくらフワフワな糸を使って織りたいときに使われます。風合いと丈夫さ、一石二鳥の糸です。


上の3つのうち、インターレース糸はその構造上、

「フィラメント糸」のものだけが存在しますが、

単糸と双糸(諸糸)は、フィラメント糸もスパン糸も、どちらにも共通しています。


ただし「無撚」の糸は、スパン糸にはありません。

スパン糸は、短い繊維を撚り合わせて糸にしているので、

糸になっている以上、必ず撚りがかかっています。



次の写真は、顕微鏡でみた単糸、双糸、インターレース糸の様子です。

単糸は、撚りが甘いもの(甘撚り)、ふつう、撚りが強いもの(強撚)を

並べてみました。撚りがかかるにつれて、糸がギュッと細く締まるのがわかります。


それでは今回のまとめです。


アクション映画などでは、よく強さと美しさを兼ね備えたヒロイン達が活躍します。

そんなヒロインが求められ、皆が観たがるのはなぜかというと、

現実の世界では強さと美しさを両立させられる事例があまりないからだといえます。



織物で使われる糸も同じです。

ふつうは強さと美しさは両立できないので、

どちらかに特化した二者択一だったり、

折衷案となるちょうど良いバランスが選ばれます。


しかし、そこをあきらめず、美しいまま強くする方法を

職人や技術者、研究者は探し求めて、様々な手法を開発してきました。


そんな図式のなかに、今回のタイトルで列記した

「単糸/双糸、撚糸、インターレース」が位置づけられています。



今回の裏テーマは「強さと美しさのせめぎ合い」だった、

といっても過言ではありません。

下の写真の、架空の織物設計アプリ画面。

この中の「撚り」と「単糸/双糸」のパラメーターを選択することは、

このような、外観と風合い、強度などに関わる意味があるわけです。


さて最後に、前回の「スパンとフィラメント」で説明しなかった

BCF(Bulked Continuous Filaments)糸について紹介します。

捲縮糸(けんしゅくし)ともいわれるものです。

インターレース糸とBCF糸は、一見するとそれぞれ

フィラメント糸、スパン糸の単糸に見えます。

どちらも原料はフィラメント繊維で、製糸するときにそれらを絡ませて

作られているのは共通していますが、目的が違います。


インターレース糸は、「フィラメント糸を無撚のまま、より丈夫にしたもの」、

BCF糸は、「スパンの単糸をより丈夫にしたもの言い換えると

「フィラメント糸の強靭さを保ちつつ、スパンの風合いを持たせたもの」といえます。


スパン糸のように繊維が飛び出しているので、
かさ高性や弾力性がありますが、

ひとつながりの長繊維(Continuous Filament)を絡ませたものなので、

耐久力や耐摩耗性がすぐれています。




【 宿題 】


撚糸については、より詳しいことは、バックナンバー撚糸のひみつ」をご覧ください。




「諸撚り」「片撚り」の違い、「S撚り」「Z撚り「上撚り」「下撚り」など

撚糸の用語やメカニズムを理解するさまざまな実演、実験をまとめてあります。

累計1万PVを超えるシケンジョテキ屈指の人気コンテンツです。



最後になりましたが、今回の内容を振り返って強調しておきたいのは、

ハタヤさんは、生地に必要とされる強さ、丈夫さの範囲で、

できうるかぎり最高の美しさを実現するために、

最も傷みやすく繊細な糸を使いこなそうと、日々努力している、

ということです。


美しい織物を作るためには、楽な道はありません。

日夜、美しい髪をキープするために苦労されている皆さんなら

きっとよくお分かりのことでしょう!


それでは今回はここまでです。

ありがとうございました!


(五十嵐)