今回のテーマは、
「単糸/双糸、撚糸、インターレース糸」。
前回の「スパンとフィラメント」と合わせて、
≪糸のカタチ≫ シリーズ、その後編といえる内容です。
それでは、さっそくクエスチョンです。
【今回の課題】
友達のアパートの引っ越しのお手伝いに、次の3人が集まりました。
3人の髪型を基準に、引っ越し作業に適した順番に並べなおしてください。
出典:無料の写真素材サイト Pexels よりダウンロードし、トリミングしたものです。
撮影者・提供者は左から順にKonstantinさん、Tuấn Kiệt Jr.さん、Pixabayさん。
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この3人の、実際の引っ越し能力は未知数ですが、
ハードな作業でも平気そうな髪型ランキングとして解答すると
ハードな作業でも平気そうな髪型ランキングとして解答すると
こんな感じではないでしょうか。
もうお分かりのことと思いますが、
糸のカタチを、髪の毛にたとえたものです。
それぞれの髪型が、どんな糸のカタチに対応しているか、見てみましょう。
【 ストレートロングヘア → 単糸 】
【 三つ編み → 双糸(諸糸) 】
【 ツインテール → インターレース糸 】
上の3つのうち、インターレース糸はその構造上、
「フィラメント糸」のものだけが存在しますが、
単糸と双糸(諸糸)は、フィラメント糸もスパン糸も、どちらにも共通しています。
ただし「無撚」の糸は、スパン糸にはありません。
スパン糸は、短い繊維を撚り合わせて糸にしているので、
糸になっている以上、必ず撚りがかかっています。
次の写真は、顕微鏡でみた単糸、双糸、インターレース糸の様子です。
単糸は、撚りが甘いもの(甘撚り)、ふつう、撚りが強いもの(強撚)を
並べてみました。撚りがかかるにつれて、糸がギュッと細く締まるのがわかります。
それでは今回のまとめです。
アクション映画などでは、よく強さと美しさを兼ね備えたヒロイン達が活躍します。
そんなヒロインが求められ、皆が観たがるのはなぜかというと、
現実の世界では強さと美しさを両立させられる事例があまりないからだといえます。
織物で使われる糸も同じです。
ふつうは強さと美しさは両立できないので、
どちらかに特化した二者択一だったり、
折衷案となるちょうど良いバランスが選ばれます。
しかし、そこをあきらめず、美しいまま強くする方法を
職人や技術者、研究者は探し求めて、様々な手法を開発してきました。
そんな図式のなかに、今回のタイトルで列記した
「単糸/双糸、撚糸、インターレース」が位置づけられています。
今回の裏テーマは「強さと美しさのせめぎ合い」だった、
といっても過言ではありません。
下の写真の、架空の織物設計アプリ画面。
この中の「撚り」と「単糸/双糸」のパラメーターを選択することは、
この中の「撚り」と「単糸/双糸」のパラメーターを選択することは、
このような、外観と風合い、強度などに関わる意味があるわけです。
捲縮糸(けんしゅくし)ともいわれるものです。
インターレース糸とBCF糸は、一見するとそれぞれ
フィラメント糸、スパン糸の単糸に見えます。
どちらも原料はフィラメント繊維で、製糸するときにそれらを絡ませて
作られているのは共通していますが、目的が違います。
インターレース糸は、「フィラメント糸を無撚のまま、より丈夫にしたもの」、
BCF糸は、「スパンの単糸をより丈夫にしたもの」、言い換えると
「フィラメント糸の強靭さを保ちつつ、スパンの風合いを持たせたもの」といえます。
スパン糸のように繊維が飛び出しているので、かさ高性や弾力性がありますが、
ひとつながりの長繊維(Continuous Filament)を絡ませたものなので、
耐久力や耐摩耗性がすぐれています。
【 宿題 】
撚糸については、より詳しいことは、バックナンバー「撚糸のひみつ」をご覧ください。
「諸撚り」「片撚り」の違い、「S撚り」「Z撚り」、「上撚り」「下撚り」など
撚糸の用語やメカニズムを理解するさまざまな実演、実験をまとめてあります。
最後になりましたが、今回の内容を振り返って強調しておきたいのは、
ハタヤさんは、生地に必要とされる強さ、丈夫さの範囲で、
できうるかぎり最高の美しさを実現するために、
最も傷みやすく繊細な糸を使いこなそうと、日々努力している、
ということです。
美しい織物を作るためには、楽な道はありません。
日夜、美しい髪をキープするために苦労されている皆さんなら
きっとよくお分かりのことでしょう!
それでは今回はここまでです。
ありがとうございました!
(五十嵐)