ページ

2020年10月13日火曜日

【オンライン織物研修 ⑫】三原組織のキャラクター

このシリーズでの織物組織の勉強も4回目になりました。

いよいよ織物組織の基本、三原組織(さんげんそしき)についてご説明します。


織物組織には 平織、綾織(斜文織)、繻子織(朱子織という

3つの基本的なパターンがあり、これらを発展させてあらゆる織物組織が作られています。


できあがる布の風合いや役割は、三原組織のどれを用いるかでも変わります。

どういうときに、どれを使えば、意図する布が作れるのでしょうか?


イメージイラストと言葉で表現してみました。




それぞれのキャラクターが、なんとなくつかめたでしょうか?

図中の注釈にも書きましたが、イラストの手はあくまでイメージです。


三原組織がなぜ3つしかないのか?

なぜこのような性質の違いがあるのか?


それは、組織点の配置の違いに答があります。

下の図の「組織点の隣接」という図をご覧ください。

平織、綾織、繻子織のパターンの違いは、

「■」で示した組織点同士が
どのように隣接しているか?

の違いで定義されると言ってよいでしょう。

この隣接パターンは、基本的には、この3つにしか分類できません。

※厳密にいうと「完全組織の各列・各行に組織点が必ず一つだけあり、またある組織点から次の組織点への距離と方向が一定」という規則性を持った組織ではこの3つだけになります。「破れ斜紋」と呼ばれる組織のように、不規則な配置を持つ組織では、その限りではありません。

※「破れ斜紋」については、こちらに解説があります。


組織点が四方向↖↗↙↘で密に隣接しているのが、平織、

組織点が二方向↗↙あるいは↖↘隣接しているのが、綾織、

組織点がまったく隣接していないのが、繻子織です。

なお、この「隣接」する方向は、組織の基本形である、

「完全組織の各列・各行に組織点が必ず一つだけある」という状態のときのことです。

応用して作られるバリエーション(後述)では、この定義から外れるものがあります。


大きな字で示したという数字は、それぞれのパターンで作られる

最小の繰り返し単位、つまり「完全組織」の大きさを示します。


完全組織については以前にも触れましたが、復習には下記をご覧ください。



三原組織には、という最小の大きさを基本として、

次のように様々なバリエーションがあります。


繻子織は、より小さな完全組織がありません。

ですから織物組織の「白黒大小」でいうと、あまり小さな組織にならず、

大きなゆったり目の組織になります。また、組織点が隣接していないため、

一番最初の図に書いたように「密度を高くできる」という特徴が生まれます。



三原組織は、それぞれの構造の違いによって生まれる性質の違いから、

おおよそ次のような用途に使い分けられています。


さて、また三つ編みさんストレートロングさんが出てきました。

初めて見た、という方はこちらのバックナンバーをご覧ください。


この二人は、出来上がる布の風合いや外観のイメージを表すと同時に、

「丈夫さ」-「美しさ」という対立する性質の象徴でもあります。


特に繻子織は、下の写真にあるシルクサテンのウェディングドレス生地のように、

美しい光沢感が特徴です。




繻子織では、組織点が、互いに隣接していないという特徴から、

密度を高めていくと、タテ糸あるいはヨコ糸のどちらか一方しか見えなくなる、

という効果から生まれます。

そうすると、ストレートロングのサラサラヘアと同じように、

繊維が一方向に並んだ外観となり、光沢感が得られるのです。




ストレートロングヘアに光沢があるのも、繻子織に光沢があるのも、

どちらも繊維が一方向にそろって並んでいることから生まれます。

衝撃に弱く、傷つきやすいのも共通しています。

繻子織について、より詳しく知りたい方はバックナンバー

「サテンのひみつ①」をご覧ください



これまでの研修で見てきた、組織以外の項目でも、

この「丈夫さ」-「美しさ」の選択肢がいくつも出てきました。


現実のテキスタイルデザイン、織物の設計でも、

工程、品質、コストの制約の中で、

「丈夫さ」-「美しさ」どちらを選ぶか?

という決断を、何回もする必要があります。


下の図は、そうした選択を重ねていったら、どんな布が生まれるかという

思考実験を表しています。それぞれどんな布ができるでしょうか?

もちろん、実際のテキスタイルデザイン、織物の設計では、

こうした選択肢はもっとたくさんあり、複雑に絡み合っています。


(注)上の図の斜線はイメージを伝えるために描いたもので、実際の相関関係は考慮していません。



お見せしたものです。

【オンライン織物基礎研修】シリーズでは、

「こんな感じの布がほしい!」というイメージを現実化するために必要な

基本的な要素について、これまで12回にわたって解説してきました。

ここで当初予定していた内容は一区切りとなります。


このシリーズでお伝えできた内容は、

織物設計に必要な知識の基本中の基本の部分にしかすぎませんが、

私のほしい布を作るための道筋が少しでも見えてきた、と思っていただけたら幸いです。


また、こうした様々な要素をコントロールして、なんとか良いものを作ろうとしている

機屋さんやテキスタイルデザイナーの、日々の苦労やノウハウ、

プロセスの複雑さ、大変さが、少しでも伝わったらうれしいです。

ひとまずここまで受講いただき、ありがとうございました。



(五十嵐)