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2020年6月4日木曜日

【オンライン織物基礎研修 ⑨】織物組織の「白黒大小」

織物組織とは、タテ糸とヨコ糸が、どのように交差しているかの状態です。

一般に織物組織の勉強は、「三原組織(さんげんそしき)といわれる

(ひら)・(あや)・繻子(しゅす)の説明から始まりますが、

ここでは、よりシンプルかつ本質的な、織物組織の「白黒大小」からスタートします。


「白黒大小」とは、いったい何か?

じつはこの言葉はシケンジョのオリジナル。ネットで検索しても出てきません。

しかし、織物組織の違いや特徴を理解し、作りたい布の風合いや見た目に

近づけていくうえで、最も重要な概念だと思います。

それでは織物組織の「白黒大小」の勉強を始めましょう!


まず組織図とは?


織物組織の第一歩は、「組織図」という世界共通の表記方法です。

タテ糸とヨコ糸が交差している交差点をマス目ひとつで表し、

タテ糸が上を通る交差点は黒■

ヨコ糸が上を通る交差点は

というルールで、マス目を黒■で塗り分けたものが組織図です。

黒■を×、白□を○で描くこともよくあります。

織物組織は、並んだタイルのような規則的な繰り返しパターンで出来ています。

その繰り返しパターンの原型となる最小の単位を「完全組織」といいます。

「完全組織」の鉄則は、どの行、どの列にも、黒■の両方が最低一つはある

ということです。それがないと、まったく交差のない糸が生じてしまうためです。




「白黒比」「サイクル長」は一般的な織物用語ではなく、説明のために作った言葉です。


「白黒比」は、組織図の中の黒■の比率です。

「サイクル長は、タテ糸とヨコ糸が、何本に一度、互いに交差しているか

という、ひとサイクルの本数です。

※この図では完全組織の大きさに一致しますが、組織の種類によってはそうでない場合もあります。



「白黒比」サイクル長(=大小)を合わせた、組織図の「白黒大小」は、

織物組織の予備知識なしに、見ただけで判断できる簡単なものであるにも関わらず、

織物組織の本質を見極める鍵になっている!

ということが今回のポイントです。


その本質とは何か?


それは、織物組織が、布の「外観」「構造」を同時に定義するものだということです。


例えば紙に絵の具で描いた絵は、絵の具が「外観」、紙が「構造」を担当していますが、

布では、タテ糸とヨコ糸が「外観」「構造」の両方を担っています。

そして、布の「外観」「構造」は、組織図の

「白黒比」「(大小)サイクル長」によって、おおよそ決まります。



「白黒」と外観


組織図が白っぽいか、黒っぽいかは、布の何を決めるのでしょうか?

はい、上の図にあるとおり、組織図が白ければ白いほど「ヨコ糸」が布の外観を占め、

黒ければ黒いほど「タテ糸」が表に現れてきます。

つまり、組織図の色を見ただけで、その布を作る人が「タテ糸」を見せたいのか、

「ヨコ糸」がを見せたいのかが、初心者でも簡単にわかるのです。


「大小」と構造


糸の交差のサイクル長が大きいか小さいかで、布の「構造」が変わります。


サイクル長が短ければ(組織のサイズが小さければ)、緊密な構造の固めの布になり、

サイクル長が長ければ(組織のサイズが大きければ)、構造のゆったりした布になります。

二人の女性の写真とその髪型に見覚えがありますか?

「単糸/双糸」のところで登場した「三つ編みさん」「ストレートロングさん」です。

二人は引っ越しのお手伝いの例え話の中で、

丈夫さ>美しさ の「双糸」=三つ編みさん(引っ越し作業にもバッチリな髪型)と、

美しさ>丈夫さ の「単糸」=ストレートロングさん(手伝う気があるのか?)として、

単糸と双糸の違いを象徴するのが役割でした。


今回は、そのときと同じように、組織の大小によっても「丈夫さ/美しさ」

バランスをコントロールできることを説明するために、再登場してもらいました。


単糸双糸のどちらを選ぶか、のときと同じように、

小さい組織は、構造が密なので丈夫さが実現でき、

大きい組織は、糸がのびのびしているので、糸の美しさや風合いが生かせるのです。


もしその両方を組み合わせて、

小さい組織×双糸、あるいは、大きい組織×単糸、によって、

んな布が織り上がるか、想像してみて下さい。


(注意)
「大きい組織」といっても、下図のように、黒■の入れ替わりが何回もある場合は、

全体のサイズ(=12)より糸の交差のサイクル長(=3,4,5)が短いので、

「白黒大小」の図では小さい組織に該当します。

ここでいう「大小」は、「サイクル長」であることを覚えておいてください。




「白黒大小」の組み合わせ


次に、「白黒」「大小」を、縦軸と横軸にしたマトリクスにした図を見てみましょう。


図の薄いグレーのエリアにある、どの組織を選ぶと、どうなるのか?

ここまで読んでくれた方には、きっともうお分かりですね。


ヨコ糸をしっかり見せて、柔らかい布にしたければ、右上方向「↗」にある、

白っぽくて、大きい組織を選べばOK。

もっと固めに仕上げたければ、「←」方向に移動して、もう少し小さな組織にしましょう。

ヨコ糸とタテ糸を同じくらい見せたければ、「↓」方向に移動して、黒っぽくしましょう。


このように、平織、綾織、繻子織、などの種類の知識がなくても、

作りたい布のイメージさえあれば、「白黒大小」の観点だけで、

この図の中を移動しながら、どの組織を選ぶべきかが判断できてしまうのです。


応用編


下の図は、「白黒大小」の図を、より詳しく書いたものです。




組織の大小の上に「疎」「密」という言葉があることにご注目ください。

組織の大きさと、ヨコ糸の密度の間には関係があります。

小さい組織は、ただでさえキツキツなので、

大きい組織ほどに密度を上げることはできません。

大きい組織は逆にゆるゆるなので、密度を下げると糸がスリップしてしまうため、

小さい組織ほど密度を低くすることができません。



縦軸に書かれている「重」「軽」という言葉は、

今回説明した「白黒」の違いに関連しています。


「黒」はタテ糸が上になるという意味なので、組織図に「黒」が多いとき、

織機はタテ糸をたくさん持ちあげる必要がある=重い!

ということから、黒っぽいものは「重口」の組織、白っぽいのは「軽口」の組織、

という表現を用います。


上の図を見ると、小さい組織では、

ヨコ糸/タテ糸の比率をあまり高められないことが分かります。

それでは、ヨコ糸だけをたくさん見せたいけれど、固い布にしたければどうすれば良いでしょうか?


そのときは、小さい組織を使って固くすることはできないので、

糸の種類や素材や番手あるいは加工で固くする、

密度を高くしてぎゅうぎゅうに織る、

見えない側で固さを担当する別のヨコ糸を織る、


などの方法が考えられます。


この図は、バックナンバーの「サテンのひみつ(3)」に登場したものです。

よろしければそちらもぜひご覧ください。

それでは次回もお楽しみに!


(五十嵐)