織物基礎研修「糸の太さ」シリーズの後編です。
素材ごとに様々な番手があることをお伝えしました。
もうすでに十分ややこしい内容でしたが…、
後編では、さらにシルクの番手だけにみられる用語、
「中(なか)」と「片(かた)」について解説します!
「21中6本片」(にじゅういち なか ろっぽん かた)、
機屋さんの間では短く「にー いち ろっかた」などと呼ばれますが、
これは、ネクタイのヨコ糸として使われる代表的な番手です。
ここで使われている「中」「片」とは、いったい何のことでしょうか?
「中(なか)」とは?
たとえば、21中は、21デニールの生糸のことを指します。
ならば、なぜデニールを使わないのかというと、次の2つ理由があります。
① 平均値という意味 絹繊維はバラつきがあるのでデニールの平均値を表記する
②「精練」する前の番手という意味 精練前後で太さが変わるので、精練前を表記する
端的にいうとそれだけですが、もっと分かりやすいように説明してみましょう。
まずは平均する意味について。
絹の繊維、シルクフィラメントは、お蚕さんの個体差や
環境の違いによって、太さのばらつきがあります。
またそれだけでなく、一匹のお蚕さんが吐く繭糸の太さも、一定ではありません。
日本の製糸技術, 嶋崎昭典, 繊維学会ファイバー(繊維と工業)Vol.63, No.8(2007)の図1を参考に作成したイメージ図。
この文献での標本データの値が、「へ」の字型のグレーゾーンにほぼ収まっていることを表しています。 |
始めは細く、2~300mくらいで太さがMAXになり、あとはだんだん細くなります。
長繊維(フィラメント)の糸は、
絹以外はすべて人造繊維なので繊維の太さは一定ですが、
絹の場合だけは太さにバラつきがあるので、
絹だけ、「中」という言葉が「デニールの平均値」という意味で使われるのです。
次に精練についてです。
絹糸は、まずお蚕さんの繭から繭糸(けんし)を取り出し、
下図のように、何本かをまとめて1本の糸にします。
図では、代表的な繭7つによる7粒(りゅう)付けの様子を示しています。
「糸」という漢字のもとになった甲骨文字(フキダシ内)は、古代中国の書物『説文解字』『孫氏算経』によれば、「生糸を繰る絵姿」であると記されているそうです。(出典:日本の製糸技術, 嶋崎昭典, 繊維学会ファイバー(繊維と工業)Vol.63, No.8(2007)) |
繭からとった繭糸をまとめて束ね、糸を作る作業を繰糸(そうし)といい、
できたものを生糸(きいと)と呼びます。「なまいと」と読むこともあります。
*「なま」というときは、まだ精練(せいれん)をしていない、というニュアンスが込められています。
下の図のように、繭糸には、フィブロインという2本で1セットの絹繊維が、
セリシンという糊のような物質に閉じ込められています。
このセリシンを除去して、フィブロインだけにする作業が精練(せいれん)です。
絹の光沢は、セリシンを落としてはじめて現れます。
*精練には、セリシンをわざと残す「半練り」などのバリエーションがあります。 *精練の「練」は糸偏です。製鉄では金編の「精錬」が使われます。 |
このとき、生糸の重量が25%ほど失われます。
デニール値は、約0.75倍に軽くなり、約21D → 約16Dとなります。
そうすると、21と16、どちらのデニールを選ぶかで混乱が生じかねません。
そこで、デニールの数値は精練前の値に統一していることを明記する方法として、
「中」という単位が使われているわけです。
「片」とはなにか?
「21中6本片」などと使われる「片」は、
番手というよりも、撚り方の分野の言葉です。
撚りについてはバックナンバーをご覧ください。
・「単糸/双糸、撚糸、インターレース糸」
絹の場合は、最初の工程である「繰糸(そうし)」のとき、
太い糸を作りたい場合であっても、いきなりたくさんの繭から糸を作ることは困難です。
そこで、最初は21中などの細い生糸を作り、
それを何本も合わせて太くするという、2段階の工程が用いられます。
それが、下の図の「片撚り」の部分です。出来上がった糸は、
「単糸」と見分けがつきません。
「単糸と見分けがつかない」と書きましたが、むしろ片撚りというのは、
絹の単糸のことを指している、と思ってもらって良いでしょう。
*「単糸」についてはこちら→「単糸/双糸、撚糸、インターレース糸」
例えば126デニールの単糸は、「126中の単糸」として作られるのではなく
21中の単糸を6本合わせて作られるから「21中6本片」のように表記するのだ、
という風に理解していただければと思います。
同じ意味合いなので、特に説明は不要かと思います。
インターネットで絹糸の販売サイトでの商品ラインナップを見てみると、
次のような様々な番手・種類が見つかります。
太いものでは「21中120片」というものもあるようです。
「中」と「片」の解説はこれで終わりです。
この原稿の趣旨は、糸の太さ(番手)の補足説明ですので、絹糸の中でも
最も基本的な長繊維のフィラメントシルクについてだけ書きました。
絹糸の種類には、ほかに「絹紡糸」「絹紬糸」「玉糸」などがあり、
撚りについても、「駒撚り」「壁撚り」などの種類が他にあります。
さらに勉強したい方は、そのようなキーワードで検索してみてください。
(五十嵐)