2020年5月19日火曜日

【オンライン織物基礎研修 ⑦】糸の密度

今回は、糸の密度が変化すると、

どんな違いが生まれるのか、に着目しましょう。

密度は、糸の太さ(繊度)と密接な関係があります。


下の図は、山梨ハタオリ産地で作られたいくつかの生地について、

糸の「太さ」「密度」を軸にして、それらの生地をマッピングしたものです。

タテ糸を赤丸●、ヨコ糸を青丸●で示してあります。

たまたま手元にあった生地のデータです。「座布団」「ネクタイ」など
それぞれの品目の代表的な値を示しているとは限りませんのでご了承ください。



「タテとヨコの違い」の回でも、一般的な織物では、

タテ糸が [細・で、ヨコ糸が [・疎] であることを説明しました。


この図のうち下のように点線で囲んだ部分には、図の中のほとんどの織物が含まれていて、

おおよそ青丸●のヨコ糸が左上赤丸●、のタテ糸が右下にあることから、

タテ糸=[細・]ヨコ糸=[・疎]の原則が成り立っていることがわかります。

もちろん、例外もあります。

下の図の点線で囲んだ、
ネルのシャツ地とシルクのオーガンジーでは、

タテ糸とヨコ糸にほぼ違いがないので、「がくっついています。

タテヨコがほぼ同じ理由はそれぞれです。

ネルのシャツ地は、チェック柄のタテ縞とヨコ縞の質感や見え方に

違いが出ないよう配慮した可能性があります。

オーガンジーは、これ以上粗くしたら糸がスリップして動いてしまう限界なので、

タテヨコともに同程度の太さ・密度に保つ必要があったと考えられます。



次の図の点線で囲んだのは、ネクタイです。

タテ糸=[細・]ヨコ糸=[・疎]の原則にのっとっていますが、

他の織物に比べてみると、ヨコ糸も[細・]のエリアにあるので、

ネクタイは、全体的に細い糸で、密に織られている織物だといえるでしょう。

では、ネクタイはなぜそうなのか、想像してみましょう。


ネクタイは、密度が非常に高いので、しっかりした生地になり、

しかも細い糸なので、優美なしなやかさや、繊細な外観を備えています。

ネクタイを結ぶときの手ごたえや重量感、形の整えやすさなどにも、

細い繊度と高い密度が大きく影響していると思われます。


次の図で示したのは、ネクタイとは真逆の、

太い糸を粗く織ったネルのシャツ地です。

(「太い」といっても、この図のなかで相対的に太めですが、一般的には十分細い糸ではあります)

ネクタイと違ったカジュアル感は、太めのスパン糸を使っていることや、

ある程度の丈夫さや厚さ(←糸の太さ)を持ちつつ、

適度な軽さ(←密度の粗さ)実現したところから生まれていると思われます。

※スパン糸…バックナンバー「スパンとフィラメント」参照


次の図では、この中では例外的に、ヨコの密度がかなり高い2つの例を示しています。

これらについては、のちに織物組織の特集で説明するので簡単に書きますが、

目に見える側の緯糸と、裏側に配置されて見えない緯糸がある織物です。

こうした場合、裏側の緯糸の密度が加算されるので、上の図のように

緯糸密度が例外的に高く見えるような結果になります。


このように複数の緯糸があるとき、緯糸は1丁、2丁と数えます。

1丁目(地で見せる用)、2丁目(ポイント用)、3丁目(ロゴ用)のように

違う役割を持った複数の糸が使われる織物を、

ここでは「多丁織物」と表現しています。



ここまで、繊度と密度の組み合わせで、

いろいろな効果があることを見てきました。

ここで、第1回でお見せした「織物設計アプリ」風のビジュアルを

振り返ってみましょう。


「繊度」「タテ糸密度」「ヨコ糸密度」を変化させると、

何が得られるか?を示しています。
ピンク色のグラフ状のスライドを上げていくと、

出来上がる布は、ふわふわした軽いものから、ずっしりと厚いものに変化していきます。

そしてその途中には、無限ともいえるバリエーションが広がっているのです。


第1回の課題で考えてもらった、

「あなたが好きな感じの「白い布」ってどんなもの?」

という布のイメージは、繊度と密度だけでも、

かなり実現できそうだ、ということが分かっていただけたのではないでしょうか。




鯨寸とは?


最後に、鯨寸(約3.78㎝)について解説します。


シケンジョにある物差し。センチ(上)と鯨寸(下)の両用になっている。







かつて、日本で最もメジャーだった長さの単位「尺、寸」は、

厳密にいうと
曲尺(かねじゃく)、曲寸(かねすん)でした。

しかし呉服などの分野では独自の長さの単位があり

それは鯨のヒゲを材料にした物差しを使っていたことから

鯨尺(くじらじゃく)、鯨寸(くじらすん)と称するようになったといわれます。


曲尺と、鯨尺、鯨寸の関係は、次のとおりです。

 曲尺=10/33m(≒0.3030303m)(※1891年度量衡法に基づく)
 鯨尺=曲尺の1尺2部5分に相当(≒0.3787878m)
 鯨寸=鯨尺の1/10≒3.787878cm)

現在、国際的にはメートル法に基づく単位が正統ですが、

国によってはヤード・インチを使うこともあり、

国内でも産地によって鯨寸だけでなく、曲寸を用いるところもあります。

山梨ハタオリ産地は、いまでもほとんど鯨寸が使われています。



インチと鯨寸


鯨寸は、インチのほぼ1.5倍(1.4913...倍)です。

シケンジョでも、新しいジャカード織機の制御はインチですが、

織機についたパーツ「筬」は鯨寸で寸法が刻まれているので、

鯨寸で150の密度は、インチなら100、というように、よく1.5倍の計算をしています。



鯨のヒゲ


物差しに使われたという鯨のヒゲは、

ヒゲといってもプラスチックの塊のような素材で、昔から

釣り竿、コルセット、からくり人形のゼンマイばね、バイオリンの弓など、

様々な工業製品に使われていたそうです。(現在も使われているものも)

ちなみによく間違えられる事例ですが、

バイオリンの弓の、弦にあたる部分は鯨のヒゲではなく、馬のしっぽの毛

鯨のヒゲは持ち手のパーツに使われていたそうです。



(五十嵐)