織物の基本となる考え方を学ぶシリーズ、第4回。
今回のテーマは、経糸と緯糸の違いです。
タテとヨコには、どんな違いがあるのでしょうか?
ではさっそく問題です!
【課題1】
下のA・Bの方法で、どちらも全く同一の布が織れる場合、
あなたは経営者として、A・Bどちらの方法を採用しますか?
AとBでは、経糸と緯糸の太さ・密度が完全に逆転しています。
出来上がった布を、90度回転すれば、まったく見分けがつかなくなるという前提です。
「経営者として」という言葉は、「生産性」がポイントですよ、というヒントです。
【答】
お分かりいただけたでしょうか?
そう、生産性に敏感な経営者のあなたが選ぶべきなのは、だんぜんBです。
仮に120本/分の速度の織機でこの図の本数を織った場合、
所要時間は〔30本/15秒〕 vs 〔8本/4秒〕で、Bが圧倒的勝利!
織機というのは、あらかじめ用意しておいた経糸に、緯糸を1本ずつ織り込む機械です。
どのくらい早くたくさん緯糸を織り込めるかが、生産性を左右します。
だから、同じものが織れるのなら、緯糸が少なくてすむ方が良いわけです。
それでは、次の問題です。
【課題2】
異なる条件で織られた2種類の布があります。
結果的に同じような品質・外観・風合いが得られるので、
どちらの方法で作ってもOK、とお客さんからもお墨付きです。
作るとしたら、あなたはAとB、どちらの布を選びますか?
【答】
この場合も、もし問題なく同じようなものが織れるなら、
早くできる分、Bの方が経営者にとって魅力的です。
ということは、問題がなければ、織物はなるべくなら
「タテ=細・密、ヨコ=太・疎」
という設計にしたくなるような、
経済的な原理が働いている、ということができます。
(もちろん、これに従わない例外もあります)
それでは実際の生地(たまたま手元にあった6種類の生地)の写真で、
[タテ=細・密、ヨコ=太・疎]の事例を見てみましょう。
数字のあいだの不等号の色は、[タテ=細・密、ヨコ=太・疎]に
従っているものを朱色、従わないものを水色で示しました。
この原則に従っているケースが、大多数であることがわかると思います。
この原則に従っているケースが、大多数であることがわかると思います。
[ タテは双糸、ヨコは単糸が多いワケ? ]
ここで、上の写真のA、B、Cの繊度を見てください。
注目してもらいたいのは、下の写真でピンク色で示した部分です。
「20/2」のような書き方は、その糸が「双糸」であることを示しています。
こうしてみると、たまたま手元にあった6種類の布では、
双糸は経糸だけに使われ、緯糸はすべて単糸でできています。
それは、なぜでしょうか?
みなさんも、考えてみてください。
【課題3】
ヒントは、前回の「単糸/双糸、撚糸、インターレース糸」で紹介した
ストレートロングさん、三つ編みさんの違いです。
織機の仕組みをまだ知らなかったとしても、
単糸と双糸を使い分ける理由はわかると思います。
【答】
双糸が経糸に多く使われるその理由は、経糸には丈夫さが求められるからです。
それはなぜか?下の図をご覧ください。
経糸は、織機の上にセットされてから織られるまで、
いくつもの試練を耐え抜く必要があります。
緯糸は、織られるときの一瞬、力がかかるだけです。
こうした製造時の制約から、一般的に
経糸には、緯糸よりも丈夫な糸が用いられます。
そして、その違いが、織物の上の役割分担にも反映されることが多いのです。
下の写真のようなネクタイ生地では、経糸と緯糸のどちらもシルク糸ですが、
かなりハッキリと役割が分かれています。
ネクタイにシルクの光沢を与え、鮮やかな色を演出しているのは、
もっぱら緯糸の役割です。経糸は、ほとんど脇役に徹しています。
中島みゆきさんの「糸」という歌では、
経糸が、比較的頑丈な男性の役割として歌われているのは、
ある意味、現実に即しているといえるでしょう。
今回の内容を覚えておけば、布の切れ端を調べたとき、
どちらが経糸か?というのも、ほとんどの場合に分かります。
シケンジョの顕微鏡を使えば一目瞭然ですので、
お近くの方はぜひご活用ください。
(予約は不要ですが、受付で所定の手続きをしたあとで、繊維技術部の職員をお呼びください)
(予約は不要ですが、受付で所定の手続きをしたあとで、繊維技術部の職員をお呼びください)
今回は、2018年のバックナンバー「タテの糸とヨコの糸」との
姉妹編のような内容です。
今回の内容よりも、少し難解なところもありますが、
よろしければご覧ください。
それでは、また!
(五十嵐)