2020年12月18日金曜日

繊維産地を音楽業界に例えてみる:メジャーとインディーズ

繊維産地の織物工場が、どんな枠組みの中で仕事をしているか、

これからどうしていけばいいかを考えるヒントになればと思い、今回は

音楽業界へのたとえ話 でお話ししてみたいと思います。


ではまず、大規模な メジャー音楽産業 と、インディーズ系 の活動を

比べてみた図をご覧ください。



メジャー音楽産業 の方は、誰もが知っている有名シンガーを中心とした

昔ながらの音楽ビジネスを想定しています。

有名シンガーは、いわゆるメジャーと言われるレコード会社に所属しいる

アーチストですが、楽曲制作や演奏、プロデュース、マネジメント、

プロモーションなど、沢山の専門家たちと集団での活動をしています。



インディーズ系 というのは、一般にメジャーレコード会社に所属していない

ミュージシャンを指しますが、ひとくちにインディーズ系といっても、

趣味レベルからメジャーと同等なレベルまで、さまざまな活動レベルの違いがあります。

ここでは、ほぼ自分たちだけで運営しているバンドを想定しています。


どちらにも共通しているのは、

ファンから直接・間接的に、音源 の対価、演奏 の対価、グッズ の対価を

得ることでビジネスを展開していることです。


違うのは、それらを どのような体制で供給しているか です。

その体制の違いにより、それぞれに メリット・デメリット があります。




メジャー音楽産業 では、大規模なビジネス展開が可能なので、

沢山のファンにアクセスする手段を持っています。

良い音楽を作ったら、すぐにたくさんのファンからその対価を得ることができます。

一方、たくさんの労働者が関わっているため、安定した利益分配ができるよう

大量生産を前提としており、リスクを減らすことが求められるので、

あまり冒険的で自由な創作ができない恐れもあります。


インディーズ系 では、予算規模が少ないので、

沢山のファンに知ってもらうことが非常に困難です。

また関わる人数が少ないので、創作活動にかけられる時間は限られます。

一方で、人数が少ない分、売り上げが比較的少なくても成り立つため、

少数のコアなファンだけを満足させるニッチな音楽を提供し続けることも可能です。

いざとなれば別の仕事(バイトや副業、本業)と並行することで、

利益は少なくとも本当に満足できる音楽だけを追求するバンドもいることでしょう。



それでは、メジャーとインディーズの音楽産業と、

繊維産地の織物工場 を見比べてみましょう。


繊維産地のふつうの織物工場が行う OEM生産 は、音楽産業でいうと

メジャー な大物スターの音楽活動を支える職人的な演奏家に例えられます。

高い技術や安定した品質が求められる厳しい世界ですが、

沢山のファンが求める楽曲にふさわしい、上質で的確な演奏を提供できれば、

仕事は次々にやってくるでしょう


繊維産地が最も繁栄した「ガチャマン」時代は、このたとえ話では

レコードが次から次へと飛ぶように売れ続け、

演奏家がひっぱりだこだった時代だったといえると思います。

(ただし、レコードを買う人が演奏家の名前を知ることはほとんどなかったでしょう)



インディーズ系 のバンドの音楽活動は、繊維産地のたとえ話では、

自社ブランド を展開する活動に相当しているといえるでしょう。

小規模ではあっても、自由な創作活動をし、ファンと直接交流して商品を届けます。

自分たちの世界観に基づき、自分たちの力だけで作った商品で

ファンが喜んでくれたら、きっと最高に幸せなことです。

しかし、自社ブランドを沢山のファンに知ってもらうことは
非常に困難です。

こだわりが明確であればあるだけ、少数の隠れた潜在的なファンを見つける必要があります。

そのための情報発信を含めて、なにもかもを自分たちでこなさなくてはならないので、

音楽活動だけに専念できないというジレンマがあります。

売れればOEM生産よりも取り分(利益率)は多いけれど、それなりの出費が必要です。



さて、ここまでメジャーとインディーズを対比して書いてきましたが、

これらは両極端の例です。実際にはその中間や、両方を併せ持つ立場、

またどちらにも該当しない場合もありうることに留意したいと思います。


これらのたとえ話は、まったく違う業界のことを並べているので、

必ずしも全部は共通しませんが、音楽の世界ではどんな業態があり、

どんな工夫をして危機に対応しているかを観察することで、

参考になるヒントが見つけられるのではないでしょうか?



たとえば、大物バンドが大集合した都市近郊の ロックフェス と、

有名ブランドが揃った都会の 大手百貨店 は、何が同じで、何が違うだろうか...?

昔ながらの百貨店は、ロックフェスというより、紅白歌合戦 だろうか...

上質なインディーズ音源を集めて売っている知る人ぞ知るCDショップは...

インディーズの良質なバンドがたくさん出演する森の中のロックフェスは...

それらは、織物産業でいうと何に相当するだろうか?

B to Cとか、D2Cというのは、音楽業界では何に相当するだろうか?




現在の繊維産地は、CDが売れなくて、ライブもできない状況に似ていると思います。

メジャー音楽産業の仕事が激減しているので、従来の演奏家としての仕事だけでなく

いちミュージシャンとしてライブハウスで演奏活動をしはじめた、

というのに近い工場も多いかもしれません。


そもそも実際にインディーズ活動をしている工場の多くは、

従来から「演奏家」としてOEM生産の仕事を平行しているところがほとんどでしょう。


このようにして、皆さんの身近な織物工場の

今後の「音楽活動」を考えたとき、どんなことが見えてくるでしょうか?



人生に音楽がなくてはならないように、

人の暮らしになくてはならない織物を

誰よりも巧みに作り出せる「ミュージシャン」たち。

こうしたアナロジーの思考実験が

その未来を描くための参考になれば幸いです。


(五十嵐)