2020年5月13日水曜日

【オンライン織物基礎研修 ⑥】糸の太さ ~ 絹の「中と片」~

織物基礎研修「糸の太さ」シリーズの後編です。


素材ごとに様々な番手があることをお伝えしました。

もうすでに十分ややこしい内容でしたが…、

後編では、さらにシルクの番手だけにみられる用語、

「中(なか)「片(かた)について解説します!


「21中6本片」(にじゅういち なか ろっぽん かた)、

機屋さんの間では短く「にー いち ろっかた」などと呼ばれますが、

これは、ネクタイのヨコ糸として使われる代表的な番手です。


ここで使われている「中」「片」とは、いったい何のことでしょうか?


「中(なか)」とは?


「中」というのは、ざっくり言うとデニールと同じです。

たとえば、21中は、21デニールの生糸のことを指します。

ならば、なぜデニールを使わないのかというと、次の2つ理由があります。


① 平均値という意味 絹繊維はバラつきがあるのでデニールの平均値を表記する

②「精練」する前の番手という意味 精練前後で太さが変わるので、精練前を表記する


端的にいうとそれだけですが、もっと分かりやすいように説明してみましょう。



まずは平均する意味について。

絹の繊維、シルクフィラメントは、お蚕さんの個体差や

環境の違いによって、太さのばらつきがあります。

またそれだけでなく、一匹のお蚕さんが吐く繭糸の太さも、一定ではありません。

日本の製糸技術, 嶋崎昭典, 繊維学会ファイバー(繊維と工業)Vol.63, No.8(2007)の図1を参考に作成したイメージ図。
この文献での標本データの値が、「へ」の字型のグレーゾーンにほぼ収まっていることを表しています。

始めは細く、2~300mくらいで太さがMAXになり、あとはだんだん細くなります。


長繊維(フィラメント)の糸は、

絹以外はすべて人造繊維なので繊維の太さは一定ですが、

絹の場合だけは太さにバラつきがあるので、

絹だけ、「中」という言葉が「デニールの平均値」という意味で使われるのです。



次に精練についてです。

絹糸は、まずお蚕さんの繭から繭糸(けんし)取り出し、

下図のように、何本かをまとめて1本の糸にします。

図では、代表的な繭7つによる7粒(りゅう)付けの様子を示しています。


「糸」という漢字のもとになった甲骨文字(フキダシ内)は、古代中国の書物『説文解字』『孫氏算経』によれば、「生糸を繰る絵姿」であると記されているそうです。(出典:日本の製糸技術, 嶋崎昭典, 繊維学会ファイバー(繊維と工業)Vol.63, No.8(2007))

繭からとった繭糸をまとめて束ね、糸を作る作業を繰糸(そうし)といい、

できたものを生糸(きいと)と呼びます。「なまいと」と読むこともあります。

*「なま」というときは、まだ精練(せいれん)をしていない、というニュアンスが込められています。


下の図のように、繭糸には、フィブロインという2本で1セットの絹繊維が、

セリシンという糊のような物質に閉じ込められています。


このセリシンを除去して、フィブロインだけにする作業が精練(せいれん)です。

絹の光沢は、セリシンを落としてはじめて現れます。

*精練には、セリシンをわざと残す「半練り」などのバリエーションがあります。
*精練の「練」は糸偏です。製鉄では金編の「精錬」が使われます。



このとき、生糸の重量が25%ほど失われます

デニール値は、0.75倍に軽くなり、21D → 約16Dとなります。

そうすると、2116、どちらのデニールを選ぶかで混乱が生じかねません。

そこで、デニールの数値は精練前の値に統一していることを明記する方法として、

「中」
という単位が使われているわけです。





「片」とはなにか?


「21中6本片」などと使われる「片」は、

番手というよりも、撚り方の分野の言葉です。

撚りについてはバックナンバーをご覧ください。

「撚糸のひみつ」

「単糸/双糸、撚糸、インターレース糸」


絹の場合は、最初の工程である繰糸(そうし)」のとき、

太い糸を作りたい場合であっても、いきなりたくさんの繭から糸を作ることは困難です。


そこで、最初は21中などの細い生糸を作り、

それを何本も合わせて太くするという、2段階の工程が用いられます。


それが、下の図の「片撚り」の部分です。出来上がった糸は、

「単糸」と見分けがつきません。


「単糸と見分けがつかない」と書きましたが、むしろ片撚りというのは、

絹の単糸のことを指している、と思ってもらって良いでしょう。

*「単糸」についてはこちら→「単糸/双糸、撚糸、インターレース糸」


例えば126デニールの単糸は、「126中の単糸」として作られるのではなく

21中の単糸を6本合わせて作られるから「21中6本片」のように表記するのだ、

という風に理解していただければと思います。


「諸撚り」の方は、「撚糸のひみつ」などでこれまでに説明したものと

同じ意味合いなので、特に説明は不要かと思います。


インターネットで絹糸の販売サイトでの商品ラインナップを見てみると、

次のような様々な番手・種類が見つかります。

太いものでは「21中120片」というものもあるようです。




「中」と「片」の解説はこれで終わりです。

この原稿の趣旨は、糸の太さ(番手)の補足説明ですので、絹糸の中でも

最も基本的な長繊維フィラメントシルクについてだけ書きました。


絹糸の種類には、ほかに絹紡糸」「絹紬糸」「玉糸」などがあり、

撚りについても、「駒撚り」「壁撚り」などの種類が他にあります。

さらに勉強したい方は、そのようなキーワードで検索してみてください。



(五十嵐)