これは、繊維の鑑定をするための手段のひとつです。
素材ごとに特徴のある断面形状を持つので、見るだけで素材を特定できるものもあります。
実習では、せっかくなので、いろいろな素材をいっぺんに比べてみよう!
…ということで、髪の毛(自毛です)、羊毛、絹、綿、キュプラをまとめて
断面サンプルを作り、顕微鏡で観察してみました。
その結果がこちら!
この中には、髪の毛、羊毛、絹、綿、キュプラの、5種類の繊維が含まれています。
どれがどれか、分かりますか?
繊維の断面の画像はインターネットで探すとけっこう見つかりますが、
ワンショットで複数の素材が見られるのはなかなかありません。
素材別に色をつけてみたのがこちら↓です。
H = 髪の毛
W = ウール
S = 絹
C = 綿
Cu = キュプラ (キュプラだけは、もともと青く染色されています)
それぞれの太さを見てみましょう。
太さは、画像から計測した実測値です。
ものすごく細いことの表現として、「髪の毛よりも細い…」ということが良くありますが、
じっさいには繊維の世界では、断トツに髪の毛が太いのが分かります。
しかし、初めて自分の頭髪の断面を見ましたが、楕円形だったとは知りませんでした。
すこしクセッ毛な理由がこれで分かりました。
羊毛にはかなりのばらつきがあるのがわかります。
人間とおなじで、個体差や品種差がありそうです。
じつは、この試みの前には、ある機屋さんから
「お客さんに”絹の細さ”をどう説明したら伝わりやすいか?」
という相談が寄せられていました。
その時にはイラストレータで描いた図解資料をお渡ししたのですが、
あるとき「そうか、断面をいっぺんに比べてみればいいんだ!」とハタと気が付き、
今回の画像が生まれたというわけです。
その結果、
「絹は、髪の毛と比べると、直径では5~9分の1、断面積では数%しかない(自毛との比較)」
ということが今回、分かりました。
それでは次に、この画像をどうやって撮影したかをご説明しましょう。
[ 繊維の断面の観察方法 ]
①穴のあいた銅版に釣り糸の輪を通す。
②その輪に、調べたい繊維を通す。
③釣り糸を裏から引っ張って、繊維を銅版の穴に通す。
このとき、繊維の量が穴のサイズにフィットしていることが重要です。
繊維が穴をギリギリ抜けられる量で、キツキツになっていないと、
カットするときに簡単に抜けてしまうからです。
④カミソリで、繊維をカットする(両面)。
カミソリはよく切れるものを使用します。
そして切るときは、一気に強く、一度で決めなければなりません。
ここで失敗したら最初からやり直し。
これを両面で決めなければいけないプレッシャーは相当なものです。
この作業をするときの心境は、居合抜きをする武道家に近いものがあります。
なぜ両面とも切らなければいけないのか?
下から光を当てて透過させたいからです。
反射光だけで見るなら、片側だけでもOK。
そして、カットした結果がこちら。
穴の直径は0.55ミリほど。
これを顕微鏡で見たのが、冒頭の画像です。
撮影した方法は、じつはかなりアナログな方法です。
顕微鏡の接眼レンズを、カメラに覗かせました!
(レンズを接続するような専用アダプターは使っていません)
じつはこの方法は、「コリメート式撮影法」として、
ひと昔まえの天文マニアの間ではよく知られた方法です。
子供の頃、カメラに望遠鏡を覗かせて月面写真を撮ったりした経験が役にたちました。
ちなみに今回、カメラ側ではマクロレンズを使用しています。
繊維の断面を調べてみたい方、
シケンジョまでご連絡ください。
実技を伝授いたします。
(五十嵐)