2012年4月13日金曜日

甲斐絹ミュージアムより #1「竹虎図」

「甲斐絹(かいき)」という言葉をきいたことがありますか?

甲斐絹は、山梨県織物産地で江戸時代~戦前にかけて織られていた、幻の織物です。
主に
羽織の裏地に使われた極薄の絹織物なのですが、戦後には衣服の洋装化や、織機の機械化が進む中で姿を消してしまいました。

しかし、この甲斐絹には産地のルーツといえる技術がつまっています。
この幻の織物、甲斐絹を知ってもらうことで、
この山梨産地をより理解してもらうことができるのではないかと思います。

じつは、シケンジョに眠る400点あまりの甲斐絹の生地サンプルは、甲斐絹ミュージアムで絶賛公開中です。
ここでは、このシケンジョテキでしか見られない甲斐絹の高解像度の秘蔵画像をピックアップしていこうと思います。


その第1回は、こちら!





この大迫力!
今にも飛びかからんばかりのこのトラ柄の生地は、「絵甲斐絹(えかいき)」という絹織物。
大正2年というから、今からちょうど100年前(!)にシケンジョで購入したものです。

羽織の裏に、まさかこんな派手な柄がかくれているとは!日本人のおしゃれ感覚はスゴイですよね。
こんなデザインのテキスタイルは、世界中さがしても見つけることは難しいでしょう。



そしてこの薄さ、ハリ、光沢が伝わりますでしょうか?
無撚りの絹糸を先練りで、シャトル織機で手織りしたものです。芸術的な職人技のなせる技です。
この整然とした端正な耳!


実はこのトラ柄、生地にプリントしたものではありません。なんと、経糸だけに絵柄をつけているのです。

「それなら「ほぐし織」だってそうじゃないか!」とおっしゃる方がいるかもしれませんね。

しかし!ほぐし織りは絣風のぼかしが魅力のハズ。ほぐし織りでは、ここまで精密な絵柄は再現できません。(トラのひげに注目)

じつは絵甲斐絹は、ほぐし織りとは違って、織機の上で絵柄をつけているのです。
織機の上で、経糸は緯糸と交わり、生地になります。

その直前、筬の手前で経糸だけに型染めをして、糸が乾いてから織り進む。
織ったらまた染める、その繰り返しで作られています。

型染めしてすぐに織ってしまうので、糸がズレない、精密な柄を表現することができるというわけです。

こんな織り方(柄のつけ方)をしている例は、もしかしたら世界でも甲斐絹だけかも知れません。
(「ほかにも知っている」という方がいたら、ぜひご連絡ください。)

虎の目の部分をクローズアップしてみましょう。

経糸だけに色がついて柄になっているのが分かりますでしょうか?




白い緯糸と、絵柄のついた経糸。この両方をつかった平織りによって、絵柄が前に出すぎることなく、うす絹を透かしてみているような落ち着きと奥行きをもたらしています。

では、このシリーズの次回もぜひお楽しみに。 (五十嵐)