2018年6月12日火曜日

バイアスのリピート柄を、イラレとエクセルで作る

テキスタイルデザインには欠かせない「リピート」という言葉を
聞いたことはありますか?

テキスタイルデザインというと、イラストや絵画のような色や絵柄を
思い浮かべる方も多いと思います。

しかし!
四角い枠で区切られたイラストや絵画と比べて、
テキスタイルデザインには大きな違いがあります。

それは、ほとんどのテキスタイルデザインは枠のなかで完結しておらず、
こんなふうに繰り返し模様になっているということです!



※ 緞帳のように、繰り返し模様になっていないテキスタイルもあります。

上のABそれぞれの図案は、赤い点線で囲まれたエリアの繰り返し模様になっています。
繰り返しの単位が、リピートです。

Aのようにモチーフが水平・垂直に並んでいるデザインが普通ですが、
なかにはBのように、斜めの線(=バイアス)で繰り返す図案があります。

こういうデザインを作るのは、
コンピュータを使ってもちょっと難しいのです。


そこで!
今回のシケンジョテキでは、エクセル(Microsoft Excel)と、
図案を作るテキスタイルデザイナーがよく使う
イラストレータ(Adobe Illustrator)という汎用ソフトを使って、
上の図で紹介したBのような、
バイアスのリピートを作る方法を特集します!


まず、下の図に描かれた、6個の略号(Rw、Rh、θw1、w2、h)を見てください。

最終的に完成するリピートが幅=Rw、高さ=Rhの四角形とします。

w1、w2、hは、モチーフのレイアウト作業に使う長さ(距離)、
θはバイアスの角度(°)です。

それぞれの数値については、あとで説明することにして、
とりあえず、実際には記号に数字が入るという前提で、手順を紹介します。


この上の図と、Bのシケンジョテキというロゴが並んだ図案を重ねると、
このようになっています。
シケンジョ」の「」の字が、赤い四角の四つ角それぞれ同じ場所に
重なっているのが分かるでしょうか。

このようにロゴ(やモチーフ)が、θ度回転させたあと、
赤い四角のサイズのリピートで繰り返すように配置するための寸法が、
w1、w2、hです。

例えばイラストレータで「シケンジョテキ」というロゴを作ったら、
上の図ではそれをロゴ①ロゴ②、の場所にコピーします。
その時の距離は、w1、w2、hの長さです。

正確な位置にコピーするには、
イラストレータの選択ツールで選んでから、エンターキーを押します。

そうすると、数値入力画面が出てきますので、
w1、w2、hの長さに基づいて数値を入れたあと、
OKボタンではなく、コピーボタンを押します。
そうすることで、指定した位置にコピーができます。

同じように、必要な数のロゴを並べてから、
角度θ°で回転させると、次のようになります。


そして、幅=Rw、高さ=Rhの四角形をクリッピングマスクとして
切り抜くと、リピートが完成します。
以上の作業は、イラストレータの操作に慣れた方には
それほど難しくはないと思います。


次に、エクセルを使って、6個の値(Rw、Rh、θw1、w2、h)を
計算する方法を紹介します。

6個の値(Rw、Rh、θw1、w2、h)は、このうち2つの値がきまれば、
しぜんに残りの4つが決定される関係になっています。

まず、リピートのサイズ、Rw、Rhが決まっている場合の方法を紹介します。
エクセルを使って、下のような表を作ってください。

なお、数値の単位はピクセル数、ミリ、どちらでも便利な方をお使いください。



「計算結果」の4つのセルには、数字ではなく、図の右側に書いてあるとおりの
「数式」を入力すればOKです。

この数式は、三角関数(サイン、コサイン、タンジェント等)が使われていますが、
数式を理解する必要はとくにありません。

大切なことは、各セルの位置が上の図の
行番号(1,2,3…)・列番号(A,B,C…)と一致していることです。
そうでないと、数式が正しく働きませんので、注意してください。


もしも、いま紹介したようにRwRhではなく、
Rwθ、あるいは Rhθの組み合わせを
優先させる場合には、下の図を参考に、エクセルの表を完成させてください。

6つの数値のうち2つを優先する3とおりの方法が、表の中に含まれています。

以上、バイアスのリピート柄の作り方でした。

今回は、下のように図案を作ってから角度θ°で回転させ、切り抜く方法を紹介しました。




そうではなく、角度θ°で回転させたロゴなどを最初からリピートのサイズ、
Rw、Rhの数値でコピーし、レイアウトする方法でも、図案を作ることができます。
好みや、図案の種類によって、適した方法を探してみてください。

参考までに、下に応用例を紹介します。

このリピートの例では、ピンクのロゴ、黄色のロゴは、
角度θ°で回転させる前に、
幅 w1 の1/3ずつ動かしてコピーして追加したものです。

また、水色の帯、緑の帯は、同様に
高さ の1/3ずつ動かしてコピーして追加しています。

イラストレータで数値入力するときには、
単純に数値を入れるだけでなく、数値の後ろに「/3」を入れると、
自動的に3で割った値を計算してくれますので、
こういう操作のときには便利です。


バイアスのリピートについての特集、いかがでしたでしょうか?

今回の方法で、テキスタイルデザインの作業が少しでも楽になり、
そのぶん良いデザインを生み出す時間が増えると良いなと思います。



(五十嵐)

2018年5月24日木曜日

第10回の「フジヤマテキスタイルプロジェクト」がスタートしました

「フジヤマテキスタイルプロジェクト」は、東京造形大学テキスタイルデザイン専攻の学生さんと
ヤマナシ産地のハタヤさんとのコラボレーションプロジェクトです。

学生さんの新しい発想をハタヤさんの力でカタチにするというこの取り組みは、
今年で10年目になります!

今年のキックオフミーティングが2018年5月17日に、東京造形大学で行われました。




この日は、プロジェクト監修の鈴木マサルさん(東京造形大学 教授/テキスタイルデザイナー)から
参加する学生さんとハタヤさんの組み合わせが発表されます。



監修の鈴木マサルさん(左)と、アドバイザーの高須賀さん(右)



まずは、参加する学生さんから
自身が制作したテキスタイルなどの作品を見せながらの自己紹介。

その後、鈴木さんからパートナーとなるハタヤさんが発表されました。

 

 
 
 
 
 
 
 
 


続いて、ハタヤさんからは
自社で製造している製品の特徴などとあわせて自己紹介です。

 

 

 




今回は9社との組み合わせでプロジェクトが行われます。


・ 鈴木龍之介さん × (有)田辺織物さん

・ 八代真帆さん × 武藤(株)さん

・ 工藤麻衣さん × WATANABE TEXTILEさん

・ 片岡美央さん × 光織物(有)さん

・ 西沙那子さん × 宮下織物(株)さん

・ 松本夏海さん × 渡辺明彦織物さん

・ 一松岳さん × (株)オヤマダさん

・ 平沢健太さん × 舟久保織物さん

・ 藤川稔也さん × (株)槙田商店さん


ミーティング後半では、
学生さんとハタヤさんとで個別に打ち合わせが行われました。


 

 
 
 
 
 

これから10月のハタオリマチフェスティバルでの作品発表を目指して、
テキスタイルや製品の開発が進められます。

今回はプロジェクトが記念となる10年目ということで、
特別な企画も動く様子。

ここからどのような作品が生み出されるでしょうか。


(鈴木)

こもれび誕生!

シケンジョ(山梨県産業技術センター富士技術支援センター)と山梨大学茅・豊浦研究室
共同研究で生まれた特許技術を用いた、(株)槙田商店による新商品、
晴雨兼用傘「こもれび」が誕生し、発売が開始されました!


今回のシケンジョテキでは、
「こもれび」につかわれたデザイン&技術の秘密について
解説したいと思います!


上の写真では、「こもれび」にジャカード織で描かれた木漏れ日(傘:左側)と、
地面に落ちるホンモノの木漏れ日(地面:右側)を比べてみました。

ご覧のように、「こもれび」のデザインは、木の葉そのものではなく、
木の葉の影がモチーフになっています。


デザイン&技術上の第1のポイントは、これがプリントではなく、
2色の色糸を使って、ジャカード織で織られた柄だということです。

このことがよくわかる例をご紹介しましょう。
下の写真をご覧ください。


見ていただきたいのは、と の違いです。
では、暗い背景のなかに、明るいグリーンが浮かび、
では、背景のグレーよりも、グリーンのほうが暗く見えています

この「こもれび」傘のデザインは、たて糸(グレー)と よこ糸(グリーン)
色の違いと、織り方の違いで表現されています。
しかしそれぞれの色の見え方は一定ではなく、
と のように変化がもたらされます。

このように見る角度の違いによって、明るさや色調が変化する性質は、
光学異方性と呼ばれます。

ジャカード織の傘では、プリントとちがって、この効果によって、織り柄に光沢や色彩が変化する美しさが加わります。

ちなみにこの効果は、異なる色に染めた糸で織られる
「先染織物」のうち、特にシルクやポリエステルなど
「長繊維」を使用した織物で顕著になります。

※長繊維…フィラメントともいう。短い繊維(数~数十センチ)を撚り合わせた綿や、麻、ウールなどの短繊維(スパン)に対して、数百~数千メートルなど長い繊維を引きそろえて作られた糸のこと。

傘をクルクルと回したとき、色がきらめくように変化する効果。

プリントでは表現できない、先染めジャカード織物ならではの美しさが
「こもれび」のデザインには活かされているのです!


デザイン&技術上の第2のポイントは、「ぼやけた柄」です。

光源である太陽は、「点」ではなく、面積をもっているため、
木の葉の影というのは、地面から離れるほど、ぼやける度合が増えていきます。
そして木の葉はいろいろな高さに生えているので、木の葉の影には、
いろいろなぼやけ方が混ざって見えることになります。

そのため、木漏れ日の影をモチーフにデザインしようとすると、
自然にぼやけさせた柄ではないと、影っぽく見えない、というわけです。

しかし!
ジャカード織でぼやけた柄というのは、
これまで再現することが困難とされてきました。

そのため、ジャカード織では輪郭のハッキリしたモチーフで
デザインされているのがふつうです。

下の写真は、輪郭のハッキリしたモチーフでデザインされた傘と、
「こもれび」傘との違いがわかるよう、並べてみたところです。


手前の美しいモノトーンの柄は、
スウェーデンの誇る伝説的なテキスタイルデザイナー、
スティグ・リンドベリ(Stig Lindberg) のプリント柄を
槙田商店が得意とするジャカード織の技術で再現した傘です。
完全に白と黒、ツートーンのみで構成されたデザインです。

一方、奥にある「こもれび」は、ハッキリした輪郭線は全くなく、
グラデーションだけで構成されたデザインです。


上でも書いたように、このようなぼやけた柄は、これまでジャカード織では困難でした。


次に、なぜそれが困難だったのか、また、それをどのような技術で
実現したのか、簡単にご説明しましょう。


「こもれび」のデザイン・技術上の特徴1、2を振り返って一行でまとめると、

 ①2色の糸だけを使って、②自然なグラデーションをどう織るか?

ということが技術的な課題になります。

次の画像は、「こもれび」のデザイン画の一部です。
グレースケール画像(白~灰色~黒を256段階で表した画像)で作られています。


これを、織物の織り方をあらわす「組織図」に変換してみます。
組織図は、2色の糸が互いにどう交差するかを、
2色(たて糸が上=黒、よこ糸が上=白)で示したものです。


上の画像では、白~黒の変化を段階的に変化する織り組織の違いであらわす、
伝統的な手法「増点法」を使っています。
しかし、7段階しかないので、段差が目立ってしまい、
残念ながら自然なグラデーションになっていません。
これでは失敗です!

次の画像は、印刷などの画像処理で使われる「誤差拡散法」を使ったものです。
さっきの例に比べて、段階が自然なグラデーションになっているように見えますが、
これはどうでしょうか?


残念ながら、失敗なんです!
なぜかというと、この画像は、組織図と同じように白と黒で描かれていますが、
織り組織としての条件をまったく考慮していないので、
このまま織っても、きちんとした生地にならず、傘としては役に立ちません。

次の方法は、織り組織の段階を、7段階から49段階に、一気に増やしたものです。
これはどうでしょうか?


これも、残念ながら失敗です!
変化する織りパターンにクセがあるため、不自然な縞もようのようなものが
出てきてしまいました。
これは特に顕著な例ですが、このようなクセをなくすことは難しいのです。
これでは、きれいな木漏れ日は再現できません。

どうすれば、このクセをなくして自然なグラデーションが表現できるでしょうか?

次は最後の画像、「こもれび」で用いられた組織図です。


この方法では、先ほど紹介した「誤差拡散法」の手法を、
織り組織の変化するパターンにうまく取り入れることで、
段差もクセもない、自然なグラデーションを可能としました。
またこの処理では、ひとつ上の例で見たような、
クセを少なくする工夫もされています。
これが、シケンジョと山梨大学の研究の結果です。

この技術があって、はじめて木漏れ日の影をモチーフにした傘、
「こもれび」が誕生することができました!

「こもれび」は、2018年5月15日(火)に発売開始となり、
5月22日(火)までの1週間、八ヶ岳南麓の八ヶ岳倶楽部にて
展示販売イベントが行われました。





八ヶ岳倶楽部は、俳優の柳生博さんが標高1350mの雑木林を整備してつくった
自然散策路、ギャラリー、レストランからなる観光施設です。

「こもれび」のデザインは、このような山梨の雑木林を
散策するとき、日傘に落ちる木漏れ日のイメージから生まれました。
八ヶ岳倶楽部の木々は、まさにそのイメージにぴったりのたたずまいです。


「こもれび」のデビューの舞台となったのは、その中のギャラリーで開催される
『槇田商店 傘展』の会場でした。




「こもれび」のデザインは、ブナとカエデの2種類
配色はそれぞれ
4色あり、
ブナはライトブルー、グレー、グリーン、カーキ、
カエデはイエロー、ピンク、グリーン、オレンジ、
となっています。

「こもれび」を生み出した、シケンジョ、山梨大学、(株)槙田商店の
『産学官』ネットワークの力はもちろん、
デザインコンセプトにぴったりな八ヶ岳倶楽部という舞台を得たことも追い風になり、
展示販売会は盛況のうちに幕を閉じました。

「こもれび」は、この展示販売会以降も販売を予定していますが、
購入できる場所や時期については(株)槙田商店までお問い合わせください。

シケンジョでは、このような成果が生まれるよう、
引き続き技術研究や、商品開発のお手伝いを進めていきたいと思います。


(五十嵐)