2013年11月20日水曜日

シルク、絞り、キモノ、桐生産地の企業訪問

関東・東北地域のシケンジョが集い、各産地概況や繊維生産技術系に特化した研究・支援事例*の報告会が開催され、その後桐生産地の企業見学に参加してきました。
*
福島:高密度積層縫合による防刃用衣料の開発
東京:生活技術開発セクターの開設、他技術系1テーマ
ヤマナシ:天然素材による生糸のセリシン定着加工、
      バナジウム媒染による繊維の濃黒色化に関する研究
栃木:解(ほぐ)し織りにおける経糸捺染の高度化
新潟:綿の炭化及び微細化による機能性材料の開発に関する調査研究
群馬:CGSⅡ対応コントローラを用いたジャカード織物製織のフロッピーディスクレス化
 

訪問した企業さんは、群馬県桐生市の泉織物有限会社さんです。
完全にシルク100%。
主にキモノ向けとのこと。

オリジナル製品でブログ「シケンジョテキ」での写真掲載の許可を頂いたので、ご紹介します。

個人的に、絞りによる「トゲゾー」「イソギンチャク」「自転車のタイヤ」と名付けさせていただきました写真が、今回のお気に入りです。

「トゲゾー」

 人気が高いはぎれも。


「織物」「絞り染め加工」ともに伝統工芸士でもある、泉 太郎 社長。

 「イソギンチャク」
絞られていますね~。

 「自転車のタイヤ」?!

こちらも 絞られていますね~。相当。

遠目からだと配管かホースか?といった絞られ具合です。 
 

よこ糸も、必要な分を必要なだけ染める。
絞られているものは、きっと水も少しで良さそうですね。
奥の釜サイズに注目しました。
 
こちらは、何か面白い動きをしそうな予感の装置。
糸の束であるかせ糸を動かしながら使うのでしょうか・・。


こちらの糸段階でも、かなり綺麗ですねー。


 糸の上がり下がりを指示する紋紙(もんがみ)。
「針使い」といった、各会社の織機毎に特有の動作情報も埋め込まれているはずです。


よこ糸を作る装置とのこと。このカタチのものは初めて見ました。


 コガネ色のシルク登場。このグレードのものは、泉社長さんでもめったに見られないそうです。






 
















 
見学させていただいた、泉織物有限会社さん
及び今回の主催担当である群馬県繊維工業試験場の方々、ありがとうございました。

(上垣)




2013年11月15日金曜日

甲斐絹ミュージアムより #8 「今週の絵甲斐絹③ /松竹梅」

[1] E154 絵甲斐絹 『梅に麻の葉』

E154 絵甲斐絹 『梅に麻の葉』西暦 1916 年[ 大正 5 年] 南都留郡谷村町 製作者: 小宮芳蔵
http://www.pref.yamanashi.jp/kaiki/kaiki_museum/kaiki-sample/e/e154.htm


今回は梅と麻の葉模様です。

梅はいまの季節とはずれちゃっていますが、麻の葉は、麻がまっすぐにすくすくと伸びる植物なので、子供の成長を願う模様として七五三にも縁があるそうなので、季節感はセーフということで。


梅のかわいらしい図案化が特徴的です。

絞り染めを模したような麻の葉模様、マニアックな視点で見ると、地の部分がなぜか微妙に2色に分かれています。


これがその部分↓

色分けをする必要もない場所なのになぜでしょうか…?


その答えは、絵甲斐絹の型染めにあります。

白い○型を残して染めるには、○の形に防染するということです。

1枚の型紙でこれをするには、「島」となって宙に浮いてしまう幾つもの○型紙を、
紗貼りで固定する必要があります。





これが、紗貼りを使った方法です。

水玉の形の型を並べても落ちないように、紗の生地で支えています。
紗の生地はすき間があるので、染めには影響ありません。


しかしこの作品では、2枚の型紙を使う方法をとっているのです。




これが、この絵甲斐絹を作るために使われた、紗の生地を使うかわりに、2枚の型を使う方法です。水玉型と地の空間を2枚の型で分け合うことで、このようになるわけです。

紗貼りをしなくても良い半面、地色の合わせ部分が見えてしまうのですね。そういう仕掛けでした。


しかし麻の葉模様を出すために、わざわざこんな工夫をしていたのか、と感心します。








[2] 甲斐絹ミュージアム E123 絵甲斐絹 『竹に鶴』

西暦 1914 年[ 大正 3 年] 南都留郡 製作者: 志村作太郎
http://www.pref.yamanashi.jp/kaiki/kaiki_museum/kaiki-sample/e/e123.htm




鶴、竹、ともに吉祥文様であり、またどちらも寒い季節を象徴するモチーフです。

(松竹梅は中国で「歳寒三友(さいかんのさんゆう)」とされ、寒い季節でも葉の色が変わらない、花が咲く、ということで文人画に好まれた題材だといいいます。)

テキスタイル技法として見ると、縞模様の入ったボーダーに着目してみましょう。

竹の節を表しているのかどうかは微妙ですが、五色に塗り分けられた絣の模様が特徴です。この絣の部分、良く見ると絣だけでなく、縦に棒状の彩色が重なっています。





絣だけでは濃さが足らないと思ったのでしょうか?

絵甲斐絹の絵付け技法での縞柄をそこに重ねているわけです。

良く見ると、縞の中心に棒状の模様が重ねられているだけでなく、
その左右には枝葉のように、さらに広がった意匠が描かれています。
これは一体何を表しているのでしょうか?

この謎を読み解けた方、ぜひシケンジョまでご一報ください。


しかし、何色にも塗り分けた絣だけでも大変なのに、
さらにこのひと手間をかけるこだわりは、いったいどこから生まれるでしょうか?


ちなみに、この大変マニアックなポイントは、シケンジョ在籍時のテキスタイルデザイナー、高須賀活良君が発見したものです。

さすが、「蛇の道は蛇」ですね。


松竹梅編、次号に続きます!

お楽しみに!





(五十嵐)




2013年11月12日火曜日

金蒸着と電顕撮影(ウール断面)

前回*、繊維の断面撮影ネタについて記載いたしました。

今回は電子顕微鏡撮影*の様子をお伝えします。

**甲府市にある山梨県工業技術センターの電子線マイクロアナライザ(EPMA)に活躍してもらいました。本来は主に金属の成分を測定する装置です。



「蒸着中」

綺麗なデンケン写真を得るには、たいていの試料について、金で表面を蒸着(コーティング)します。
真空中で、炉を加熱して金を飛ばしています。

ちなみに、後日ご紹介予定のシケンジョの蒸着装置は、金のフラット板にプラズマを当てて、金を吹っ飛ばす「スパッタ蒸着」という方式です。

中心のハリガネ渦巻きの中に、少量の金をセットしています。丸いテーブルの上に今回のサンプルであるプレートをセットして、テーブルを回転させながら均一に蒸着(コーティング)していきます。


タンクには冷却用の「エキチ」が入っています。

エキチ:液体窒素、近年イボの治療等で塗布するやつです。

大気圧での沸点はマイナス196℃です。凍凍凍。

検出器の冷却に使われています。





 工業技術センターのラボです。

 金属材料の検出や、金属成分の微小領域での分布図(マッピング)を得ることもできます。

今回のウール断面については、側面に極微量付着している媒染剤の「バナジウム」のマッピングも狙っていました。

試料は「ミクロの世界を覗く-コリメート式撮影法とビデオマイクロ装置-」 で作製した、銅板内の0.5mmの穴に詰めたバナジウム染色後のウール糸です。





 金蒸着(コーティング)した試料をEPMAにセットするところ。



電子銃でX線を当てて、試料から飛び出してくる電子を捉えて像にしています。

また、同時に特性X線を捉えて元素(今回はバナジウムがターゲット)の分布を得るのがEPMAです。

今回の、母材が繊維であるといったように、脆い有機材料はX線があたると焼けてしまいます。

なおかつ、断面にはバナジウムはほとんど存在せず、側面に僅かにあるだけです。

つまり、強度をかせぐために電圧は高くしたいけど、焼けちゃうから高くできない。

このため、焼けないようにX線の加速電圧を通常の10~15kVより、かなり下げた5kVで実施したりしてもらいましたが・・・・・。

今回のは装置に不向きな試料でありました。

そこで、現状ある試料で、他にどう対処できるか検討開始。

達人による、重要な試料前処理の方法について。

繊維断面ナナメカット方法により、バナジウムの信号を稼ぐ方法。

樹脂に埋め込んで、繊維断面をフラットにし、金蒸着を綺麗に施す方法***。

***試料表面の電子が帯電する「チャージング」が起きると、デンケン画像は白っぽい不鮮明な画像になってしまう。

等。

いくつかのアドバイスをいただき、さっそく再チャレンジしましたので、また後日まとめたいと思います。

(上垣)











































2013年11月8日金曜日

極上の糸 シルク/カシミヤ 到着

研究・試作開発用(ストール予定)の糸が届きました。

シルク70 %/カシミヤ30 %の混紡糸です。

~~フンワリ~フンワリ、とても柔らかいです。

ヤマナシ産地で数多くのブランドを扱うハタヤさんの商品でも、このシルク/カシミヤ混紡糸がよく使用されています
*こちらで用いられているのは、さらにハイグレードで、柔らかくて光沢のある高級版です。

今日はこの糸に関して染色屋さん(富士・・染め・・工場!)へ打ち合わせに行ってきました。

シルク/カシミヤを含めて、バナジウム(を発色補助剤としてクチナシ)で緑に染色します。

クチナシは食品にも添加される色素で有名です。

従来の鉄を補助剤とした場合と緑の色相・色彩を比較したり、堅ろう度も調べようと思っています。 

重さ(太さ)は120番手/2です。

デニールに換算すると、9000÷120で75デニールの糸が2本。

9000mの糸の重さが75gの糸を2本あわせたものになります。

最近、麻使いの産地ハタヤさんがヨコ糸に同様のものを、使用したことがあるそうで、非常にいい風合いになって面白いよ、というお話をタイムリーに聞けました。

(上垣)

2013年11月1日金曜日

ヤマナシ ハタオリ トラベル in 岡島百貨店

「ヤマナシ ハタオリ トラベル」が、昨日(10/31(木))から
甲府市の岡島百貨店で始まりました!
来週11/6(水)までの1週間です。



県外の方には知られていないかもしれませんが、岡島百貨店は
山梨県では、いただいた贈り物が岡島の包装紙にくるまれていることはステイタスシンボル、
と言っていいほどの(…そんな言葉をたびたび耳にします。)ブランド力を誇る、

いわゆる地元密着型の老舗百貨店です。


ヤマナシ産地のハタヤさんが作る自社ブランド商品を
ハタヤさん自らがコンシェルジュして販売するイベント、「ヤマナシ ハタオリ トラベル」

そんな岡島を舞台に、県内初の百貨店でのイベントです。


甲府市近郊の方、ぜひお越しください!


 
  
このバナーの生地も、富士吉田で作られています。シルク100%のオーガンジ―です。





デザイナー高須賀活良がデザインする田辺織物さんのブランド「cicioroso(コシオロッソ)」。


山梨県産シルク100%の甲斐絹座のストール。MOMAでの取り扱いもある逸品です。

 






(五十嵐)

2013年10月31日木曜日

甲斐絹ミュージアムより #7 「今週の絵甲斐絹②/曾我兄弟の仇討ち、富士の巻狩ほか」

ヤマナシ織物産地の至宝、明治~昭和初期の絵甲斐絹を紹介する
「今週の絵甲斐絹」、第2回!

さっそく ご覧頂きましょう。



甲斐絹ミュージアム
E113 絵甲斐絹
西暦 1913 年[ 大正 2 年] 南都留郡
http://www.pref.yamanashi.jp/kaiki/kaiki_museum/kaiki-sample/e/e113.htm


今からちょうど100年前の甲斐絹です。
 

描かれているのは、蝶、千鳥、
そして黒いボーダーの中にある家の形は、家紋「庵に木瓜」。
鎌倉初期の武将、工藤祐経の家紋です。

これは実は、日本三大仇討物語のひとつ、「曾我兄弟の仇討ち」を表した図案です。
 

蝶と千鳥は、工藤祐経に父を殺された兄弟、曾我祐成・時致を表しています。

ここで曾我兄弟の仇討ちのアウトラインをご紹介。




簡単に書くと、幼少時に父を殺された兄弟が、苦難のなか成長して
ついに父の仇である工藤祐経を斃す、というお話です。(簡単すぎ…)

仇の工藤祐経が源頼朝の寵臣であり、

曾我兄弟の弟は北条時政を頼ってその支援を受けたといいますので、
背景には北条氏の陰謀説もあったりするようです。

そして、仇討の舞台となったのは富士山の裾野でした。
建久4年(1193年)5月、源頼朝は、富士の裾野で盛大な巻狩を開催します。
巻狩は、いまで言うと軍事演習であり、
時の政権、平氏への示威行為でもあったそうです。
ともかく、富士山とも縁のあるお話でした。

この仇討物語は、後に『曾我物語』としてまとめられ、
江戸時代には歌舞伎などの演目として人気を博したとのこと。
赤穂浪士の討ち入りと伊賀越えの仇討ちと併せて、
日本三大仇討ちの一つとされています。

 

さて甲斐絹を見ると、明るいボーダーに二人の兄弟、暗転したボーダーに工藤家の家紋があり、
物語のなかで仇討が全うされたことを明・暗の対比でドラマチックに表現しています。
 

この裏地を見た人には「曾我兄弟の仇討ち」と伝わったのかと思うと、
100年前の日本人の文化度の高さも伺えます。
 

このように物語や文学が絵柄に込められているのも、絵甲斐絹の醍醐味です。










E034 絵甲斐絹
西暦 1910 年[ 明治 43 年] 南都留郡
http://www.pref.yamanashi.jp/kaiki/kaiki_museum/kaiki-sample/e/e034.htm


2枚目も、「曾我兄弟の仇討」をテーマにした絵甲斐絹です。
 
同じように、描かれているのは、蝶、千鳥、家紋「庵に木瓜」。
 
蝶と千鳥はその身体に炎をまとって家紋「庵に木瓜」に襲い掛かり、壊してしまっています。
 
曾我祐成・時致と、工藤祐経を表すモチーフが、より大きく、よりダイナミックに描かれていますが、
仇討の瞬間を、これほど象徴的に描いた図案も珍しいのではないでしょうか?
 
この作品、じつは前回紹介した「曾我兄弟の仇討」の、
3年前(いまから103年前)に作られたものなのです。
 
3年がたつ間に、この直截的で荒々しい表現から、ソフィスティケートされて
前回のような、より暗喩的な明暗の表現に変わっていったことが、
とても面白いと思います。

 




甲斐絹ミュージアム
E157 絵甲斐絹
西暦 1910 年[ 明治 43 年] 南都留郡
http://www.pref.yamanashi.jp/kaiki/kaiki_museum/kaiki-sample/e/e157.htm

建久4年(1193年)5月、
前年に征夷大将軍となり鎌倉幕府を開いた源頼朝が富士山のすそ野で行った軍事演習、
「富士の巻狩り」を題材にした甲斐絹です。

富士の巻狩りの3日目、突然手負いのイノシシが暴れ出し、
源頼朝に向かって突進するということがあったそうです。
すると頼朝のそばに控えていた新田四郎忠常(仁田とも)が馬に乗って駆け寄り、

『不甲斐なきかな、おのおの方』

と叫んで、猪に擦れ違いざまに後ろ向きに飛び移り、尻尾をつかんだ、とされています。

この絵甲斐絹で描かれているのは、まさにその瞬間です。
富士山を背景にしたイノシシ退治の様子が、
素朴ながら動きのある生き生きとした筆致で描かれています。


実は、これまで2枚つづけて紹介した「曾我兄弟の仇討」の3つ目にもあたります。
曾我兄弟による工藤祐経への仇討は、この巻狩りの最後の夜、5月28日に果たされたそうです。

甲斐絹にはその仇討の様子が直接描かれているわけではありませんが、
仇討を果たしたあと、曾我兄弟の十郎祐成(兄)は、
まさにこのイノシシ退治をした新田四郎忠常によって討たれています。
弟の五郎時致については、源頼朝は助命も考えたけれど、
工藤祐経の遺児に請われてやはり命を落としたということです。


余談ですが、

富士山が世界文化遺産に登録される何年も前のこと。

富士山にちなんだこの甲斐絹を題材に、
バンダナをデザインさせてもらったことがありました。
山梨県の世界文化遺産推進課のリクエストで作られたノベルティグッズです。

富士山が、富士の巻狩りのような何百年も前から芸術の題材になってきた事件の
舞台にもなっていたこと、そしてそれが山梨県の織物を代表する
甲斐絹として織られたことを表現しました。
それがこちらです。















(五十嵐)