2013年5月1日水曜日

極微量バナジウム濃度をプラズマに吹き付けて測る様子~染色、媒染剤、富士山麓、水、バナジウム、ICP・・・・エトセトラ編~

微量金属(銀orバナジウム)を使った染色研究を担当しているUです。

今回は、現在実施しているシケンジョの2つの研究に共通のキーワード「バナジウム」を測る様子をご紹介いたします。

研究の中では、バナジウムを媒染剤(発色補助剤)として染色した繊維にどのくらいバナジウムが残っているのか(約0.2%つきます)、また、染色時の排水中バナジウム濃度がどのくらいか、さらに(別のテーマで実施している)富士北麓地域の染色用水に含まれるバナジウム濃度はどのくらいかについて調べています。
 
こちらの、プラズマを使って。
こちらは微量元素を測定するICP-MS(誘導結合プラズマ-質量分析計)のプラズマを発生させたところです。撮影用にフィルタカバーを外してもらっています。*シケンジョにはこの装置はありません

発色補助剤に使っているバナジウム[V(+4)]溶液。
ゴバイシ等ポリフェノールを多く含む天然染料にて、非常に濃い黒色が実現できていますが、一般的に含有量が多いとされる富士北麓の水に含まれるバナジウム濃度(最大で約0.1mg/L)の約8000倍高い濃度での媒染が、発色において必要であるとわかってきました(従来の発色補助剤(鉄)の1/10の濃度ではありますが・・)。

地元の染色屋さんのすぐ横には、梅花藻(バイカモ)の見れる、こんなに綺麗な水があり、染色に用いられています(発色補助剤に比べたら低濃度ですがバナジウムも含まれている)。

富士山周辺での水中バナジウム濃度のマッピング(山梨県環境科学研究所調べ)

全国の水道水に含まれるバナジウムの平均濃度(山梨県環境科学研究所調べ)
 

ゴバイシとヤシャブシ(まつぼっくりみたいな方)は、共にポリフェノールを多く含んでおり、微量バナジウムを使って濃黒色や緑色にできる染料です。今年度はヤシャブシ(富士北麓で採れる)×バナジウム=緑色染色、の実験も進めています。

糸に着いた微量バナジウムはどのように測るかというと・・。*写真中の水にもおそらく極微量バナジウムが含まれていると思われる



濃硝酸で糸を完全に溶かして(100℃加熱)、50mLにメスアップした溶液を用意します。その溶液中の金属バナジウムをICP-MSで測っていきます。


富士北麓から集めた染色用水のサンプル。染色用サンプル中のバナジウム濃度は極微量ですのでほぼこのままの状態にてICP-MSで測ることができます。


シケンジョにICP-MSがないため、山梨県環境科学研究所に行ってきました。
*甲府市の工業技術センターには同様のICP-AESという装置があります
 こちらは比較的ICP-MSよりは濃度の高いものが得意です(1mg/L~)

山梨県環境科学研究所は、現在、シケンジョの「バナジウムを発色補助剤とした天然染料の研究」について外部指導をしてもらっている県の研究機関です。こちらの構造式は天然染料の成分達。

実験での染料となる、実際の天然染料成分達はこちら。

黒く発色させるためにタコヤキ機のようなヒートブロックで加熱しています。


さまざまな微量元素を含む検体に、内部標準物質という(正確に量を測るための一定濃度に調整された)液体をすべての検体に一定量入れていきます。これは、定量するための検量線用のバナジウム等標準液にも入れていきます。

ICP-MSのコントロール画面。

バナジウムを含む様々な液体達。
チューブのついたストローが一定量ずつ吸っていきます。

チューブ中の液体を押し出しながら運んでいます。


液体を噴霧する装置は「ネブライザー」と呼ばれています。
ガラス管の中心部に霧状になったサンプルが装置の「プラズマ」部分に導入されていきます。
この霧の中に、測りたいバナジウムが含まれています。

プラズマ。
左側から霧状のサンプルが吹き込まれます。バナジウム等の金属はプラズマ中でイオン化し、検出部(質量分析部)に運ばれ、バナジウムの量を知ることができます。

将来的にできるだけ早く、実験で得たデータが商品付加価値を高めたり、また、地域のPRに役立つように、と考えています。

(上垣)