〈甲斐絹のワイン〉を生み出したのは共栄堂(室伏ワイナリー)。
室伏ワイナリーは、年ごとにテーマを決めてエチケットを制作している山梨市のワイナリーです。これまでのテーマには、甲州印伝、ビスポーク(仕立て屋さん)、建築家、印章などがあります。
今年は甲斐絹がテーマに選ばれ、スタッフやデザイナー、ライターの方々が当センターを訪問して甲斐絹を見学。その結果、今年は四季折々の四種類の甲斐絹をあしらったエチケットが誕生することになりました。
2026年6月現在、既に〈冬〉と〈春〉の2種類のエチケットを纏ったワインが生まれ、店頭で並んでいます。
それでは、選んでもらったそれぞれの甲斐絹について、ワインと一緒に紹介していきましょう。
〈冬〉「忠臣蔵〈赤垣源蔵徳利の別れ〉」
この甲斐絹、なんとも不思議な絵です。
掛けられた羽織に向かって、侍が手をついている。その下には並ぶの、逆さになった徳利。
実はこの絵は、〈赤垣源蔵 徳利の別れ〉として知られる『忠臣蔵』の一場面を描いたものです。
赤穂浪士の一人である赤垣源蔵が、討ち入りの前に兄に今生の別れを告げに行った場面です。
ただし訪問先の兄は不在だったので、源蔵は仕方なく兄の羽織を相手にして思い出話を語り、兄に飲ませるはずだった酒を開けて別れの酒杯を傾けます。
甲斐絹の図案に酒を飲むシーン自体は描かれていないけれど、その代わりに、空いて逆さになった徳利が並ぶことで、源蔵がそれを飲んだことが表現されています。
これを選んだデザイナーの方は、この甲斐絹の図案のなかでも徳利の並んでいる部分に着目し、そのデザインから抽象表現主義の巨匠とされる美術家、マーク・ロスコの作品を思い起こしたとのことです。
技法としては経糸だけに織機の上で捺染された、絵甲斐絹の絵付け技法で作られています。
甲斐絹の整理番号はE141。西暦 1913 年[ 大正 2 年]に南都留郡で作られた作品です。
〈春〉柳に桜
この作品の、柳の葉と桜の反物が描かれた部分がエチケットになっています。
〈柳〉と〈桜〉は、実は古今和歌集に収めらえた素性法師のこの歌を下敷きにしたものだとされています。
見わたせば 柳桜を こきまぜて 都ぞ春の 錦なりける
「錦」というのは、織物の世界では美しい紋織物をさしますが、歌の世界では秋の紅葉を愛でるときに比喩として使われる言葉で、俳句では秋を代表するような季語として用いられるそうです。
この歌では「春の錦」として、柳と桜の色がまるで秋の紅葉のように都を美しく彩っている、という様子が歌われています。
桜を楽しむ「お花見」といえばお酒がつきものですが、平安時代には和歌を詠みあう文化がありました。
このエチケットを纏うワインをお供にお花見をして、千年前の和歌に想いを馳せる、という場面を想像すると、とてもロマンチックです。
甲斐絹の整理番号はE139。西暦 1914 年[ 大正 3 年]に南都留郡の志村作太郎氏によって製作されたとされています。
今年は、このあと〈夏〉、〈秋〉の甲斐絹エチケットが予定されています。
ワインが出来上がったら、それらもまたご紹介したいと思います。
(五十嵐)






