低賃金の海外産地で大量生産されたものに囲まれ、ファストファッションや100円ショップの価格に慣れた私たち。
その目で見ると、山梨だけでなく日本の織物産地で作られる自社ブランド製品の価格は「ちょっとお高め」という印象を受けることがほとんどでしょう。
では、国産が当たり前だった半世紀前は、どうだったのでしょうか?
統計情報をひもといてグラフを作ってみると、驚きの結果が現れました。
このグラフを作ってみて驚かされたのは、1968年の背広・カメラの価格が、大卒初任給にくらべてかなり高めだということ。
そして半世紀たっても背広・カメラの価格自体はそれほど変わっていないということでした。
きっと今よりも熱心に良いものを吟味して購入し、一度買ったら大切に長いあいだ使うのが当たり前だったのでしょう。
カメラの価格も並べてみると同じ傾向があるので、これは衣料品だけの話ではなさそうです。
「産地ブランドの衣料品は高いからふだん手が出ない」、「特別なギフト用にならなんとか買えるかな」、という声を聞くこともあります。
しかし半世紀前の暮らしのように、良いもので気に入ったものなら高くても買う、という暮らし方があり得るのなら、きちんとその価値を伝えることで、受け入れられる市場を広げることも可能なのではないか、と思えました。
それでは、背広以外の他の衣料品の価格も見てみましょう。
※このグラフでは大卒初任給の価格だけは右側の縦軸に従っていますのでご注意ください。
これを見ると、ほかの衣料品もほぼ同様であること、また平成以降は給与は横ばいになり、価格は減少傾向にあることが分かります。
グラフには書かれていませんが、この半世紀のあいだに日本の繊維工業の工場数は激減し、逆に衣料品の輸入浸透率は100%近くまで上昇を続けてきました。
長いあいだ衣料品の価格があまり変わらないという、消費者の財布にとってはありがたい状況が生み出されたこの半世紀。
その背景で、日本の<生産-流通-消費>のシステムがどのように変わっていったのか、これからの日本の産地や暮らしはどうなっていくのか。
このグラフがそんなことを考えるきっかけになれば幸いです。
(五十嵐)