2019年11月29日金曜日

「定規織り」でペンケースを織ってみた

2019年夏にシケンジョで誕生した新しい手織り技法、

定規織り」で、ペンダント型のペンケースを作成しました!







ご覧のように、ペンがすっぽりと入る筒形になっています。

このペンケース、定規織りで織ったあと、裁断・縫製はいっさいしていません。

織ることだけで、この「封筒型」の構造が作られています。

一体どんな風に織られているのか、図解と一緒にご紹介しましょう!


織った部分は、その構造から大きく3パートに分かれます。

一番下から見ていきましょう。

一番下は、ふつうの平織で、一枚の帯状になっています。

封筒状のペンケースの、「底」にあたります。




真ん中は、筒状になった二重織、またの名を「風通(ふうつう)」です。

風通組織で織ると、一度に二枚の布が生まれる、不思議な結果が生まれます。

上の図では、青系と赤系の2枚の平織が、風通組織で織ることで

一度に生まれる状態を表しています。


このペンケースの真ん中部分は、風通組織で織られた表と裏、

二枚の布が両端でくっついているので、筒状になっています。

緯糸1本だけを使って織ると、緯糸は表、裏、表、裏、と交互に、

らせん状に織られていくことになります。









ぜんぶ風通組織だけで織っても、緯糸1本だけなら筒状になりますが、

両端の折り返しを綺麗に揃えるために、両端だけ平織になるよう織っています。

(といいつつ、あまり綺麗に織れていませんが…)



一番上は、ペンが入りやすいよう、
ワニの口のように二つに分かれています。

このように完全に分かれるために、表用と裏用、2本の緯糸を使って、


経糸を表用と裏用に半分ずつに分け、それぞれを平織りで織っています。

これは、緯糸2本を交互に使って、

ぜんぶ風通組織で織ったときと、同じ結果になります。


そして、ワニ口の先は、まだ織られていない部分の経糸を、糸の束にしています。

糸がばらけないように、別の糸でぐるぐる巻きにしました。




糸づくりの世界では、これは「カバーリング加工」と呼ばれるものに近いものです。

この図では、Z撚りのあと、S撚りをかけて、2段階のカバーリングをしています。

専門的には「ダブルカバーリング加工」というものに近いです。


(実際には、芯の糸がもっと隠れているのがふつう)



この「経糸」は、じつはもともとシャトル織機で織った元の生地では、

「緯糸」だったものを、90度回転し、経糸として使っています。

シャトルで織った緯糸なので、経糸は耳のところで折り返しています。

(写真の生地では、上の端の紺色の部分が耳)


これを利用して、首にかけるループ状の紐の部分ができあがりました。

以上が、このペンケースの織り方です。


難しいのは、「風通組織の部分の組織を決して間違えてはいけない!」

ということです。

もし間違えていたら、そこだけ表と裏の布がくっついてしまい、


ペンがそこで止まってしまう、という悲劇が訪れます。

この恐怖にたえながら、間違えないよう織り続ける強い気持ちと、


また、途中で間違えていてもよくわからないので、

「間違えていないはずだ!」と
自分を信じる心が必要となります。




下の写真は、このペンケースを織っているところです。



ご覧のように、電車での移動中に織りました。

外の風景は、京都市内から京丹後市へ移動するときの風景です。

シケンジョテキFacebookでもお伝えした、

プレ・テキスタイル産地ネットワーク in 丹後へ向かう車中で織っていたところです。

定規織りは簡単な仕組みですが、すべて手作業なので、

織っていくのは、とても時間が掛かります。

それでも、「あそこでこのへんを織ったなあ」という

旅の思い出が生まれるのは、定規織りならではの風情です。


縞模様のうち、真ん中の明るい白の部分の緯糸は、

京都府
宮津市上世屋地区にある「いとをかし工房」で作られた

手撚り和紙糸を使っています。


京都府与謝野町のデザインスタジオ「PARANOMAD」の


原田美帆さんに上世屋地区に案内いただいたとき、工房でお土産に買った糸です。

買った糸を、旅の帰り道にさっそく織ってみる、という


定規織りならではの旅の思い出にもなりました。



(五十嵐)


2019年11月20日水曜日

誕生! やまなし縄文シルクスカーフ!

シケンジョ(山梨県産業技術センター富士技術支援センター)と山梨大学(茅・豊浦研究室)

共同研究で生まれた特許技術を用いて、 (株)前田源商店による新商品、

「やまなし縄文シルクスカーフ」が誕生しました!




縄文土器に刻まれた文様「渦巻文」を、ジャカード織りで立体的に再現しています。




カラーは3色。経糸・緯糸ともに、富士山の湧水で染められた、



山梨県産100%のシルクです。


サイズは54cm×54cm。

先染めシルクならではの微妙な色合いと光沢感により、

遠目には無地調ながら、角度によって縄文柄が浮かび上がるさりげなさが魅力です。


やまなし縄文シルクスカーフ=山梨×山梨×山梨×山梨×山梨!


「やまなし縄文シルクスカーフ」の誕生の背景には、

これでもか!というくらい、いくつもの山梨のリソースが潜んでいます。

その秘密をご紹介しましょう!






1:やまなしの縄文土器の文様

写真:山梨デザインアーカイブより



「やまなし縄文シルクスカーフ」のデザインのオリジナルは、


山梨県笛吹市桂野遺跡で発掘された、

大型深鉢(渦巻文)土器
[笛吹市教育委員会所蔵/山梨県指定文化財]です。

この土器は現在、山梨県立博物館(かいじあむ)にて展示もされています。

このような渦巻文は縄文時代中期(4500年前頃)に流行したそうですが、

土器の胴部全体にこのように一面の水の流れのように渦巻文がほどこされた土器は

他に例がなく、大変めずらしい土器とされています。

山梨は「縄文王国」とも呼ばれ、縄文文化がもっとも花開いた5000年前、

もっとも栄えていた土地だったそう。


およそ5000年前の山梨生まれのデザインが、現代の技術でよみがえったのが、

「やまなし縄文シルクスカーフ」です。


2:やまなしのデザインアーカイブ


やまなし縄文シルクスカーフのデザインは、

縄文時代の逸品「渦巻文土器」がモチーフとなっていますが、

このデザインモチーフは、2016年にオープンしたサイト、


「YAMANASHI DESIGN ARCHIVE」
に登録された図案を活用しています。


山梨デザインアーカイブは、山梨県に伝わる過去の優れた物品の造形や模様、

自然から得られる色彩、今に伝わる昔話・伝説を、産業上で使用することのできる

デザインソースとしてデジタル化して配信する山梨県のプロジェクト。

甲府市にあるシケンジョ、甲府技術支援センターのデザイン技術部が

主体となって完成させたものです。「やまなし縄文シルクスカーフ」は、

このデータを活用して生まれました。



3:やまなしの絹糸





かつては全国有数の生糸生産量を誇った山梨ですが、

現在は養蚕農家はごくわずかになってしまいました。

「やまなし縄文シルクスカーフ」は、この
現在では非常に希少な、

山梨県内の養蚕農家が育てたお蚕さんから生まれた


山梨県産シルク
100%使用しています。


4:やまなしの伝統織物技術



山梨の郡内エリアは千年以上の歴史を持つ織物産地です。

明治から昭和初期には細い絹糸を巧みに操り、

「甲斐絹」の名で全国に知れ渡りました。

この技術を受け継ぐ織物職人の手で「やまなし縄文シルクスカーフ」は織られています。



5:やまなしの最新研究成果

晴雨兼用傘「こもれび」((株)槙田商店/西桂町)


「やまなし縄文シルクスカーフ」はシケンジョ(山梨県産業技術センター富士技術支援センター)

山梨大学茅・豊浦研究室の共同研究から生まれた特許技術を用いて作られました。

この技術は、上の写真にある
(株)槙田商店による晴雨兼用傘「こもれび」と同様に、

ゆるやかなグラデーションをジャカード織で表現することのできる技術です。

→バックナンバー こもれび誕生!


さらに今回は、土器のざらざらした質感を表現するために、


「こもれび」で使用した普通の繻子織のパターンではなく、

「変則繻子」と呼ばれるパターンを使ってグラデーションを表しています。





変則繻子パターンを採用したことで生まれる質感、お分かりいただけるでしょうか?

繻子織や変則繻子について知りたい方は、シケンジョテキのバックナンバー、

以上、ご覧いただいたように、「やまなし縄文シルクスカーフ」は、


やまなしの

縄文土器の文様
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デザインアーカイブ
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絹糸
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伝統織物技術
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最新研究成果
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やまなし縄文シルクスカーフ



このように、どこを切っても山梨要素がたっっっぷり詰まった、

山梨ならではのプロダクトとなっております。

現在は、山梨大学により国内外の来賓などに贈られるギフトとして採用されているほか、

次のように、一般にも発売が予定されています。


一般発売日:令和2年1月15日(水)(令和元年11月1日(金)より販売予約受付開始)

価 格:6,000円(税抜)

サイズ:54cm×54cm 

素 材:県産絹100%

予約受付:
(株)前田源商店
 電話/FAX:0555-23-2231/23-8988  メール:info@maedagen.co.jp



山梨の魅力やうんちくとともに、大切な人へのギフトとして、

あるいはあふれる郷土愛を身にまとうツールとして、

ご利用いただければ幸いです!


(五十嵐)