山梨県では、天然素材(ウール等)を特殊な染色技術で加工し、近赤外線照射によりあたたかくなる特許を取得[1]し、ライセンス許諾を受けた県内企業から新商品[2]が実用化されてきています。
今回紹介するのは、上記特許技術を、繊維加工剤等によく用いられるポリビニルアルコール(PVA)のような親水性樹脂に応用し、新たに取得した特許技術[3]です(R3.11.19登録)。
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図1は、紫外光(波長300 nm)~近赤外光の長波長(波長2500 nm)に対する、未加工PVA樹脂シート(青の実線)と新規に登録した特許技術により加熱成形した加工PVA樹脂シート(赤の実線)の光透過率を示しています。
赤の実線が青の実線より低くなっていることは、対応する光を加工PVAが吸収していることを示しています(厳密には、それぞれの反射率も別途測定して吸収率を計算します)。加工PVA樹脂シートは、近赤外線領域である780 nm ~ 1900 nmの光を吸収してあたたかくなります。さらに300 nm ~ 400 nmの紫外線を透過させない性質があることを示しています。
このように、今回の特許技術は、親水性樹脂へ光熱変換機能を付与するものです。どのようなものに利用できそうか、検討しました。
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樹脂シートを、例えば農業用資材等に応用しようとすると、植物LED工場では、青色(450 nm)や赤色(640 nm)の光を植物に照射するように設計されているので[4]、これらの光は積極的に透過させたいことになります。従って、図1で示した透過率のうち青と赤色の波長の光を吸収・反射しないような色に調整する必要がありそうです。太陽電池の評価規格であるSUN100という強さの光を照射する(図6、太陽電池評価システム、山梨大学)と、未加工シートの表面温度が平均で22.7 ℃に対して、加工シート(図3緑色シート)の表面温度は50.9 ℃と28.2 ℃も高い温度を示しました(図7)。
農業系研究員の方に、これらの成果をみていただいたところ、作物を育てるのに(例えばアスパラガス等)ある一定の期間あたため、ある一定の期間光をあてるものもある[5]ので、常に設置するハウス用ではなく、ハウスの内側で使用するシート等に使えるのではないかとアドバイスをいただきました。そこでPVAの農業資材シートを調べてみると、PVA(ポリビニルアルコール)を使ったハウス用の内張りカーテンが温度調節や湿度管理のしやすさから、今非常に注目されている[6]ことがわかりました。今回の特許技術では、従来の透明PVAや白く濁ったPVAシートよりも、光熱変換作用による温熱効果が期待できることから、ハウス内の内張カーテン等に用いて保温するシートとしての応用が考えられました。
一般的に親水性樹脂であるPVAは基本的に水溶性を示しますが、化学処理に応じて溶けやすさをコントロール[7]でき、溶解度の性質を変えることで、繊維加工剤のみならず、紙加工(表面コーティング、分散剤、顔料バインダー)、接着剤(紙用、合板用)、ガスバリア剤、懸濁液安定剤、3Dプリンター用サポート剤等、さまざまな用途向けに原料が市販されています[8]。
今回の特許技術は、傘のコーティング剤や農業用シートへの活用をはじめとして、親水性樹脂という限られた対象への加工技術でありますが用途開発を継続して行っています。
[1] 特許 第6792108号 光吸収発熱保温用複合体とその製造方法
[2] VANAWARM®、ウール100%、9色、フジチギラ(株)
[3] 特許 第6980238号 光吸収発熱保温用複合体
[4] https://www.arianetech-sg.com/jp/blog-headlines/blogcat60/blogart23(2022年2月28日 閲覧)
[5] https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjshs1925/58/2/58_2_369/_pdf/-char/ja(2022年2月28日 閲覧)
[6] https://www.agriz.net/house/004/001.html(2022年2月28日 閲覧)
[7] https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/37/1/37_KJ00003509027/_pdf/-char/ja(2022年2月28日 閲覧)
[8] https://www.kuraray-poval.com/fileadmin/technical_information/brochures/poval/japanese/kuraray_poval_catalog.pdf(2022年2月28日 閲覧)
繊維技術部 製品開発科 上垣 宮澤 望月