2030年までに、持続可能でよりよい世界を目指す国際目標SDGs(Sustainable Development Goals)が話題となっています1)。この取り組みのためには、生産工程での廃棄物発生抑制、ユーザーへのリサイクルやリユースの協力呼びかけ、およびこれらが実際に行われることが不可欠とであると言われています2)。これに関して今回、山梨県産業技術センターで取り組んでいる研究開発の一部をご紹介します。
植物由来のセルロースナノファイバー(CNF)は、循環型社会実現への“夢の新素材”と期待されています。東京大学が画期的なCNFの製法(TEMPO(テンポ)触媒酸化法)を開発し、産学連携により実用化に成功しています3)。この処理技術の凄いところは、加熱処理を必要としないことです。さらに、薬剤も低濃度で触媒再利用も可能であることから、手軽に低コストでセルロース機能化もできることです。一般的には、抗菌性の銀を付与したり、鉛等の有害な重金属を補足するフィルター等への応用例が見られます。
現在、山梨県産業技術センターでは、この技術の和紙・食品・繊維・化粧品等への適用方法を模索しています。
山梨産地で織物生産に使用されている繊維系セルロースには、例えばハンカチのコットンや背広・服裏地のキュプラやレーヨン等があります。キュプラやレーヨン生地に限らず、生地を製造する際には必ず耳と呼ばれる端部分ができます。これらは、通常、燃えるごみとして捨てられる<捨て耳>となります(写真中のゴミ箱参照)。
この捨て耳を、新素材の原料として使用することを考えると、必要なセルロースだけでなく、芯にポリエステル等の化学繊維が入っているため、これらをなんとかして分離しなくては再利用ができないという課題もあります。
産地での捨て耳量を概算で計算したことがありました。裏地は山梨産地で2位の生産量で、年間約5,400 kgの捨て耳が出ているのではないかと推察していました。これらの捨て耳を有効利用するには、手軽でコストのかからないマテリアルリサイクル方法の提案が必要であると感じていました。
そこで、捨て耳をCNFに変換する等再利用のための基礎実験として、キュプラ等セルロース系繊維を溶解させ、ポリエステルとナイロンを分離する実験を行いました。今回の実験では、TEMPO液を調合し、常温で放置(攪拌するとなお良い)するだけで、実際の裏地製造業からでた捨て耳を処理しました。今回は、キュプラ部分を2時間で完全に溶解させ、綿の一部*及び、芯のポリエステル及びナイロン糸を残すことに成功しました。
*条件を調整して綿部分を夢の新素材(CNF)へ変換(極細繊維のため透明度の高い液体に見える)することもできます。
今後、実際の工場で<畑のコンポスト>のように機械から出てくる捨て耳をリアルタイムで処理する実験を予定しています。ご興味のある方はお問い合わせください。
1) https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/about/index.html
2) https://gooddo.jp/magazine/sdgs_2030/consumption_production_sdgs
3) https://www.nedo.go.jp/hyoukabu/articles/201905np/index.html
繊維技術部 製品開発科 上垣
材料・燃料電池技術部 化学・燃料電池科 芦澤