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2012年8月30日木曜日

ミラノデザイン講座2012 (その2)

イタリアはミラノにて開催された、ミラノデザイン講座のレポート第2弾です。
2012年2月、ジュエリー・織物・和紙など山梨の地場産業のデザイナー・職人たちと一緒にミラノを代表するデザイン学校、IEDへ行ってきました。

これは2日目に見学したトリエンナーレ・デザイン・ミュージアム。
雪の残る歩道、灰色の冷たい雲。
いま(8月に)からだと、冬の寒さも懐かしく思い出されます。



エントランスロビー。色々なプロジェクトやアーティストの活動が写真で紹介されています。

展示テーマは「Le Fabbriche dei sogni(Dream Factories、夢の工場)」。
歴史的なプロダクトデザインから、コンセプチュアルなアートにしか見えないものまで、デザインという言葉がイタリアでどんな風に広くとらえられているかを感じるにはぴったりの内容だったと思います。





これは展示されていた有名な作品…ではなくトイレのエアタオルです。

下のオブジェは大きな鳥の巣のかたちをしています。中の卵を守っている巣は、軍服などの軍隊で使われた生地で出来ている、というメッセージ性が隠されたもの。





ミラノにはいくつものデザイン系の学校がありますが、このミュージアムでは各校が参加したデザインコンペの結果が展示されていました。企業の商品開発など具体的なテーマについて、幾つものデザインスクールの学生が競い合っています。
こうしたオープンで実際的な取り組みは、学生のモチベーションも高まり人材育成には役立つことでしょう。また企業からは優秀な人材を早く見つけるチャンスにもなります。
実際にIEDでは、優秀な学生ほど早く企業に引き抜かれてしまうので、卒業できない(しない)傾向があるということです。





外にでると、一転して伝統的なヨーロッパの街並み。
ミラノではモダンデザインとクラシックな様式が、どちらもそれぞれのテリトリーをしっかり守りながら共存しているのを感じました。このメリハリの良さ、あらゆるものが融合してカオスになってしまうアジアの街の魅力とは本当に別物ですね。


研修は、大きく分けて「視察」、「講義」「、ワークショップ」の3つに分かれています。デザインミュージアムを訪問した翌日には、セレーナ先生によるトレンドの授業。表面的な流行を追うのではなく、目に見えない大きな時代の流れを深く観察することの大切さを学びました。


次の写真は、講義を受ける研修生たちです。ほとんどのメンバーは初対面でしたが、研修が始まるとあっという間にお互いが大切な仲間になっていました。
2週間弱という長い時間を忙しい毎日の中からねん出することは、誰にとっても大変なことです。しかしそれだけに本気度の高いメンバーが集まります。そんな研修生同士の出会いも、この研修の大きな魅力です。










IEDでデザインを教える先生は、すべてプロのデザイナーとして活躍されている方々です。 
魅力的な先生たちとの出会い、交流も貴重な財産です。

このイタリア・ミラノへのデザイン研修事業、 その報告会と今年の説明会が明日、富士吉田で開催されます。
明日はIEDで教鞭を振るう戸野氏も来日し、イタリアデザイン界の生の雰囲気を伝えてくれます。
特に今年の研修テーマは「テキスタイル」。 織物関係の皆さま、ぜひお越しください!


*場所 富士吉田商工会議所
*日時 8月31日(金)14:00~

(五十嵐)

2012年8月5日日曜日

プレ甲斐絹展

かつて山梨県の織物の中心地だった都留市の歴史や文化を伝える施設「ミュージアム都留」で、第28回国民文化祭・やまなし2013で行われる甲斐絹展に先駆け、いま「プレ甲斐絹展」が開催中です。

少しだけ展示内容をご紹介します。

まず、エントランスを入ると現れるのが、郡内で織られた生地を使った「甲斐絹タワー」。
上についている三角形のものは「吊るし雛」といって、昔の庶民の雛壇代わりに使われていた風習がいまでも残ったものです。

エントランスの横には織り機が設置されていて、甲斐絹の体験をすることもできます。
そして、経糸には郡内織物産地ならではの「ほぐし織り」の経糸がかかっていました!! 
なかなかの細い糸がかかっていたので、織るのが難しそうです。

展示会場に入ってきました。

展示内容は三部構成になっています。

第一部は郡内織物の起源をたどります。歴史をさかのぼり、なんと飛鳥時代まで!!
第二部は織物産業として郡内織物産地として育っていったきっかけや過程をたどります。
第三部は織物組合の動きや「甲斐絹」の生産の向上など、郡内織物産地としての発展を紐解いていきます。

こちらは昭和時代の原簿。
昔の商売の記録が記述されている貴重な資料です。

変わり種の「甲斐絹」。
フランスのドレス地に裏地に甲斐絹を使った、なんともオリエンタルな羽織。

こちらも変わり種、甲斐絹を使った綿入れ。
綿入れとは冬の防寒着であり、表地と裏地の間に綿を入れ仕立てたものとされます。
当時、とても高級品であったであろう「甲斐絹」のハギレを丁寧に繋ぎ合わせ、きれいな柄をつくりだしていて、作った人の布を大切に思う心が見てとれます。
衝撃的なコピーですが、戦争と繊維産業との関わりもこのポスターが物語っています。

この当時、日本の絹織物は世界中で出回っており、戦争でアメリカに絹織物が輸出されなくなったのが、絹に代わる繊維「ナイロン」の開発のきっかけになったという話もあるそうです。
甲斐絹のことを丁寧に説明して頂いた知念さん。
驚いたことに知念さんは今年の4月に「ミュージアム都留」に就職し、今回のプレ甲斐絹展を周りの手助けはあったものの、ほとんど一人で企画したということ!専門的な布のことをここまで調べ上げ、分かりやすく展示している知念さんに脱帽でした。

実際の展示ではブログでご紹介できなかった、あんなことやこんなことまで、詳しく甲斐絹のことが展示されているので、是非見に行ってみてください。
(高須賀)




「プレ甲斐絹展情報」
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プレ甲斐絹展
 第28回国民文化祭・やまなし2013で行われます甲斐絹展に先駆け、プレ甲斐絹展を開催いたします。
展示内容
 展示では原始・古代から都留の織物の歴史を辿るとともに、近代以降の優美な織物の数々をご覧頂きたいと思います。
 また、エントランスホールでは、豪華な柄の甲州織を使用して作られた「甲斐絹タワー」や,本物の繭を使って楽しく解説した「学習コーナー『養蚕から絹糸まで』」などの展示を行っております。
是非、奮ってご参加下さい。
開催日時
開催日:平成24年7月21日(土)~9月2日(日)
 休館日 毎週月曜日、祝日の翌日、毎月第3火曜日(※月曜日が祝日の場合は開館し翌日の火曜日は休館)

会館時間:午前9時から午後5時まで(入館は午後4時30分まで)
開催場所
ミュージアム都留
 〒402-0053 都留市上谷1-5-1
 TEL 0554-45-8008

2012年8月3日金曜日

西脇織物産地レポート(その2)

西脇産地訪問レポート第2弾。

今回は播州織の生地や製品を販売するショップ「The nuno」と、ショップ&イベントスペース、播州織工房館をご紹介します。
どちらも、地元の商工会議所さんが運営しているそうです。

まずはThe nunoから。
西脇区の歴史を感じさせる小路を歩いて行いきます。水路には鯉が泳いでいて涼しそうです。



















ここでは地元の機屋さん数社の生地が委託販売の形で売られています。 古い建物の雰囲気を残しつつ、実にいい感じでリニューアルされていますね。播州織の生地も伝統的なものからアートっぽいものまで、充実しています。
前回ご紹介した玉木新雌さんも、最初はこのショップに出店してから現在の場所に移られたとのことです。

そして次は、播州織工房館。 こちらも古い建物をつかった空間づくりが素晴らしいです。 ここは5年前までは織物工場として動いていたそうです。
店内にはドビー織機が置いてあり、実際に生地を織ってもいます!




こちらは西脇市出身のミュージシャン、トータス松本さんプロデュースの商品。






この播州織工房館の空間づくりは、西脇産地と神戸芸術工科大学とのコラボから生まれたそうです。 産地に外部の目が入り、価値ある古いものを、未来へ残すためにリデザインされた、良いお手本だと思います。なくなっていく町工場に命を吹き込んだ、気持ちのいいショップでした。


西脇市のこのあたりには、歴史を感じさせる建物も多く、観光地としても魅力的です。
ここに織物産地の力がしっかりとくいこんでいるところ、山梨産地としても学んでいかなければと思いました。
これは来住邸(きしてい)という歴史的建築。屋根がふくらんでいるように見えますが、魚眼レンズ効果ではありません。本当にこういう形。

これがこのエリアのマップです。
播州織工房館は地図の12番、The nunoは、2番の近く、「播州織学生デザイナーズショップ」として出ています。
ところで地図の下の川沿いにある「ポックリ石」、何気にすごいスポットですね。。。要注意です。

以上、先染綿織物のメッカ、西脇産地からのレポートでした。



LINK


The nuno

播州織工房館


(五十嵐)

2012年8月1日水曜日

西脇織物産地レポート(その1)

兵庫県の西脇織物産地を訪問しました。
日本のへそ、西脇市は先染め綿織物の一大産地です。
見どころたっぷりの訪問でしたが、今回は兵庫県のシケンジョ、兵庫県立工業技術センター繊維工業技術支援センターの皆さんに案内していただいたところから、シケンジョ的に要チェックなスポットを3か所、ピックアップしてご紹介します!

まずはデザイナー、玉木新雌(たまきにいめ)さんのブランド「tamaki niime」のショップ兼アトリエ(weaving room & stock room)から。







小さいながら感じのいいショップには、玉木新雌さんがデザインし、ビンテージ織機でつくられたショールがずらりと並びます。
一点ものから、10点程度の小ロット生産。手作り感、素材の気持ち良さがたまりません。

播州織の風合いに魅せられ、新しく解釈した播州織を目指している玉木さんは
工場に織ってもらうだけでは飽き足らず、自ら年代物のドビー織機を買い上げて
ショップに隣接した自社工場でこれらのショールを作っています。

下がその工場(というかアトリエ)の写真です。
45度に配置された織機のなんという格好良さ!しかもベルト駆動!





写真の中にあったベリーショートヘアーの女性が玉木さん。

お客さんには作っているところを見てもらい、その工程も含めて価値を感じてもらうことができる。
自分の織機があることで、作りながら考え、デザインできる。
産地の機屋さんに電話一本で織機のことを聞ける環境がある。
などなど、もちろん玉木さんの情熱と努力があって実現できたことでしょうが、
産地でモノづくりをすることがプラスに回っている、素晴らしい事例だと思います。

京都の西陣のようにイメージが確立している場合、ちょっと変わったことをすると
「それは西陣じゃない」という評価が生まれてしまう。
でも西脇産地は西陣ほど知名度がないので、変わったことができたり、
アイテム開発の自由さがあったり、というメリットもあるそうです。

福井出身という玉木さん。西脇市との縁は、展示会で機屋さんと知り合ったことから始まったそうです。播州織の生地としての魅力もさることながら、展示会で知り合った機屋さんの素早いレスポンスが決め手のひとつだったとか。
自分の作りたいものを自由に作るために産地のなかに飛び込んで、
自分で織機を動かすモノづくり。
玉木さんのようなスタイルが、山梨の郡内織物産地でもこれから生まれてくるかも知れません。
いや、ぜひ出てきてほしい!

玉木さんには、産地やテキスタイルの可能性をひしひしと感じさせてくれました。


あと2か所は、続編でお知らせします。お楽しみに。


LINK

tamaki niime

兵庫県立工業技術センター繊維工業技術支援センター



(五十嵐)