現在、山梨県立美術館で『ミレーと4人の現代作家たち -種にはじまる世界のかたち-』という企画展が開催されています。
その4人の作家のひとりとして、郡内織物産地ともつながりの深い山縣良和さんが展示を行っており、産地の工場で使われていた織機の現物などの展示のほか、シケンジョに所蔵する文献資料も作品の一部として展示されています。
会場の中央に備え付けられたのは、本格的なドビー織機。
型絵染め作家、小島悳次郎(こじまとくじろう)氏の作品をタテ糸捺染した経糸が織機にかかっています。タテ糸に柄をつけてから織るこの手法は「ほぐし織」といい、山梨では洋傘などに使われている技法です。ほぐし織は、19世紀末にフランスから伝わってきたといわれますので、ここにもミレーとの接点が見られます。
こうした織物づくりの現場の雰囲気が濃密にたちこめる空間に、ミレーの有名な絵画が、違和感なく、そっとそこにある。不思議な光景が広がっています。
ミレー『眠れるお針子』と、たくさんの色糸のストック。
ミレーは、お針子さんや羊飼い、農婦など、歴史に名前が残ることのほとんどない、普通の働く人々のつつましい姿を絵画の題材として選んだ作家でした。
この展示は、ミレーがコロナ禍ならぬ”コレラ禍”を逃れてパリからバルビゾン村へ移り住んだことと、山縣良和さんがコロナ禍を機会に主宰するcoconogaccoの展覧会の会場を富士吉田に移したこと、また同時期に長崎県の五島列島に惹かれて通っていたことが重なり合っているという着眼点をもとに作られたインスタレーションだそうです。
上の写真の文章にもあるように、富士吉田で聞いた「半農半機(はんのうはんき)」という言葉にも山縣さんは触発されたそうです。
会場の展示には、山縣良和さんが展開するアパレルブランド「writtenafterwards」とファッションとデザインの学校「coconogacco」という二つの世界も共存しており、富士吉田市内でここ3年間毎年4月に行われている展覧会『coconogacco exhibition 』で展示された作品もパッチワークされたように混ざり合って展示されています。
テーブルの上に資料を広げ、織物の企画や設計の仕事をしていると思われる謎の人物。彼が広げているのは、シケンジョが戦前から保管している資料です。
場所だけでなく、いくつもの時間が同時に流れているような展示空間。その一部にシケンジョが関われたのは喜ばしいことでした。
その他にもたくさんの展示物が縦横無尽に広がっており、一度には見切れないほどの情報量です。ミレーと山縣良和さん、バルビゾン村と富士吉田、工場と暮らし、19世紀~21世紀の時間と空間が混ざり合う異世界。この展示は写真ではなく、ぜひ現場で体験していただきたいです。
[名称]『ミレーと4人の現代作家たち -種にはじまる世界のかたち- 開館45周年記念』
[主催] 山梨県立美術館、山梨日日新聞社・山梨放送
(五十嵐)