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2022年2月7日月曜日

山梨県有特許を活用した「近赤外線光吸収発熱保温機能の繊維」の応用実験 ―近赤外線フィルター利用―

 山梨県有特許を活用した<光であたたかくなる新商品[1]が開発されています。従来の機能性製品はポリエステル等の化学繊維でできており、光消灯時に冷めやすい(熱伝導率が高い)という課題がありました。この新商品は、天然素材のウール(熱伝導率が低い)で、従来の機能性化学繊維でできなかった高い保温性(高い光発熱も)を持つことが最大の特徴です。

これまでに、光吸収発熱保温特性を評価してきた中で、本特許技術は機能発現に1000 nm近傍の近赤外線Near InfraredNIR)が深く関与していることがわかってきました。そこで、940 nmNIRハンディライトを用いて、どのようにNIRを反射・吸収して機能を発現するかをより詳しく調べることにしました。 繊維の表面温度は、サーモカメラを使用して測定しています(放射率E=0.94)(図1、図2)。

 

図1

 

図2


図3
                                                         

図4

 図2のようにNIR光は可視光の波長範囲(380-780 nm)外であるため、肉眼では見えませんが、図3および図4のように750 nmより長い波長をカットするIRフィルターがついていないスマートフォンのカメラ越しでは、観察することができます(内蔵イメージセンサーが光を電気信号に換えてくれるため)。特許技術使用のウール布は、効率よくNIRを吸収していることがわかります(図4 NIR照射範囲において、左半分からはNIRが反射しているが右半分では観察されていない)。


図5
                                                    

NIRは、生地表面で吸収・熱エネルギーに変換され、処理ウールは未処理ウールよりも16.1℃高くなっています(図5)。

この現象は、白色(未処理ウール)と緑色(特許技術使用ウール)の色の違い(図2)によるIR反射率の違いも影響しているのではないか?ということも考えられました。そこで、黒色染色したサンプルで同様の追加実験をした結果を示します(6-9)

 

図6

            

図7

   
図8

      

未処理黒色ウールは、NIRを表面で反射し(図7)、かつ透過しており(図8)、特許技術使用黒色ウールがこれらをカットしています(図8)。

このサンプルが、どの程度のNIRフィルター性能があるのか?光強度センサーで測定しました(検出器を布で完全に覆っていないため大雑把な値です)。NIR照射強度約1000 W/m2 の環境下で実験します(図9)。

図9

       

結果(図9

未処理黒色ウール:約1000 W/m2→約600 W/m2 (40%カット)

特許技術使用黒色ウール:約1000 W/m2→約300 W/m2 (=70%カット)

よって、特許技術で染色した布の特性として以下のことがわかりました。

  見た目の色の影響ではなく、繊維表面でNIRを吸収し、反射及び透過を抑制できる

  繊維表面で940 nmNIRを熱に変換する

これらの特性は、様々な製品に応用できると考えられます。 

 

図10
<市販品[2]をネイビーに染色(未加工)、特許技術を用いてネイビーに染色(加工) >

 

図11
                                                         

NIR人体に有害に作用する(皮膚へのストレスが懸念)との報告もある[3][4][5]ことから、NIRからの防御用途として利用できるかもしれません

また、NIRを使った盗撮を防止する用途の衣服素材として利用できる可能性もあると考えられました(調べたら世の中には、<繊維越しから発せられるNIR等の赤外線をキャッチし透視撮影することを防ぐ>特殊な繊維の機能性を評価する民間検査試験もありました[6])。

今後も、様々な製品に活用するため、本技術の特性(光発熱保温・難燃性[7]NIRフィルター)を追跡していきたいと思います。

[1] VANAWARM®、ウール100%9色、フジチギラ(株)

[2] スーパーメリノウールVネックシャツMen’s sサイズ、mont-bell製、()モンベル:スーパーメリノウールの特徴、https://webshop.montbell.jp/goods/disp_fo.php?product_id=1107647(参照2022-02-03

[3] https://evidenstyle.com/health/ikasu_07/

[4] 大塚製薬()、近赤外線(IRA)によるヒト表皮細胞の増殖抑制作用とそのメカニズム解明についての研究成果を光生物学専門誌で発表(2020)https://www.otsuka.co.jp/company/newsreleases/2020/20200313_1.html(参照2022-02-04

[5] https://doi.org/10.1111/php.13248

[6] https://www.boken.or.jp/find_tests/functionality/sercurity_safety/1221/

[7] http://shikenjyo.blogspot.com/2021/07/loi.html

繊維技術部 製品開発科 上垣 宮澤 望月