織物組織が、どのようにして出来上がる布の
外観と構造をかたちづくるか、その原理を表す言葉です。
これはシケンジョテキの創作用語ですので、
読み方は「けい・じゅう・ふ・ちん」でも「かる・おも・うき・しずみ」でも
読み方は「けい・じゅう・ふ・ちん」でも「かる・おも・うき・しずみ」でも
どちらでも結構です。
※関連はありませんが、太極拳にも「軽重浮沈」という用語があるようです。
※関連はありませんが、太極拳にも「軽重浮沈」という用語があるようです。
今回説明する「軽重浮沈」は、織物組織の全てに関係する、
軽い、重い、浮く、沈む、という要素です。
「軽い/重い組織」、「ヨコ糸の浮き/沈み」などの言葉は、
織物職人どうしの間では、しょっちゅう会話に出てきます。
まず一般的な、軽・重・浮・沈 のイメージを見てみましょう。
当たり前のことを言っている図ですね。
じつは、織物組織にもこれと同じ原理が働いているんです。
軽い組織ではヨコ糸が浮き、重い組織ではヨコ糸が沈みます。
これをここでは、織物組織の「軽重浮沈」と呼びたいと思います。
でも、糸が浮く、沈むとはいったい、どんな状況を指しているのでしょうか?
だいたい、織物組織が軽い、重いとは、どういうことなのでしょうか?
軽い/重い組織とは?
織機は、水平方向に並んだタテ糸を選択的に持ち上げる装置なので、
持ち上げるタテ糸が少なければ、織機にとって軽く、逆に多ければ重くなります。
上の図の右側のようにタテ糸を持ち上げる場所が多い組織は、
「タテ糸がヨコ糸よりも上になる箇所」=「組織図で黒く表される」
ので、黒っぽい組織となり、そしてそれは、重い組織です。
「白っぽい」組織は軽く、「黒っぽい」組織は重くなります。
「白っぽい」組織は軽く、「黒っぽい」組織は重くなります。
職人が一日中、人力で足踏み式の織機で織っていた時代には、
組織が「軽いか/重いか」は、きっと大問題だったはず。
「こんな重い組織、織りたくない!」
「今日の組織は軽くて楽だわぁ~」などの声が飛び交っていたことでしょう。
もちろん現在でも、手機で織っている人には、
組織の軽重は自然な感覚で理解されていると思います。
浮く/沈むとは?
下の図をご覧ください。
ここでは、ベージュ色のヨコ糸に注目してみましょう。
軽い(白っぽい)組織では、ヨコ糸がタテ糸の上になるので、表面に浮いて見えます。
重い(黒っぽい)組織では、その逆になるので、裏に沈んで、見えなくなります。
どのくらい浮くか、沈むかは、その組織が前回説明に使った「白黒大小」図の、
上下方向にどのくらいの位置にあるか、どのくらい軽いか/重いかによって決まります。
組織サイズ(サイクル長)を大きくすれば、軽く/重くなるので、
より浮いたり、沈んだりさせられるようになるというわけです。
ヨコ糸を数種類使うとき
このとき、浮く/沈むの性質は、ヨコ糸同士の関係に現れます。
複数のヨコ糸を使うとき、多くの場合、
それぞれのヨコ糸の役割によって、組織を使い分けます。
使い分ける基準は、簡単にいえば、そのヨコ糸を
見せたい(浮かせたい)か?、見せたくない(沈ませたい)か? です。
次の図では、ヨコ糸が3種類、交互に織られる場合を例に挙げます。
このようなとき、ヨコ糸が「3丁」あるといいます。
このとき、見せたいのはオレンジ色のヨコ糸3、つまり「3丁目」の糸です。
そこで、3丁目はよく浮くように、軽い組織を割り当て、
見せたくないヨコ糸1、2には、重い組織を割り当てます。
このようにして、順番に織っていくと、次のような織物ができあがります。
生地の断面を顕微鏡で見ると、織物組織の軽い=浮く、重い=沈むという関係は、
あたかもボールが水面を基準にして浮いたり沈んだりするイメージどおりに、
ヨコ糸が生地の基準面(波型で示したライン)を境にして、
浮いたり沈んだりする結果に結びついていることが分かります。
別の事例を見てみましょう。
今度は、ヨコ糸の青と緑が軽い組織の場合です。
織物組織は、このようにして、
見せたいヨコ糸を見せ、見せたくないヨコ糸を隠す、という力があります。
その力を言葉で表したのが、今回のテーマ、織物組織の「軽重浮沈」でした。
では最後に、ここで問題です。
これまではヨコ糸の話ばかりしていましたが、
3丁の織物でタテ糸を見せたいときは
どのような組織を3種類のヨコ糸に割り当てれば良いのでしょうか?
(答えはページの末尾に)
次回は、織物組織の「軽重浮沈」を、場所ごとに使い分ける技、
ジャカード織について説明します。
お楽しみに!
(五十嵐)
(答)
3丁の織物でタテ糸を見せたいときは、
ヨコ糸3丁すべてに、重い組織を割り当てます。
そうすると、ヨコ糸はすべて沈み、タテ糸が浮いた状態になります。
ちなみに、今回紹介した記事の断面図の事例では、
タテ糸が表面に少しだけしか見えていませんでした。
タテ糸に着目してたとき、組織はどうなっていたか、確認してみましょう。
「実際の組織」というところの図を、タテに一列ずつ見てみてください。
どの列も、タテ方向にたどってみると、
白:黒の比率がおおよそ1:2、あるいは2:1になっています。
これは「軽い/重い」の度合いでいうと、
4:1、9:1など、白の比率が非常に高いヨコ糸に比べてみれば
それほど軽くも重くもない、といえる割合です。
だから、タテ糸は全体として、生地の基準面を中心に分布しているのだといえます。
ところで、オレンジ色の生地の事例の中で、もしかしたら注意深い人は
オレンジと黄色のヨコ糸の織物組織の中に、
組織点がない列があることに違和感を感じたかもしれません。
確かにそのような組織は、1丁だけで織れば、交差しないタテ糸が生まれてしまうので
使うことができません。
しかし、心配は無用です。
3丁のヨコ糸それぞれに対応した組織を交互に織ることで、
経糸は別のヨコ糸の上になったり下になったりして、織り込まれます。
以上、補足の解説でした。