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2020年8月13日木曜日

【オンライン織物基礎研修 ⑩】織物組織の「軽重浮沈」

今回のテーマは、名付けて「軽浮沈

前回の「
織物組織の「白黒大小」」に続いて、

織物組織が、
どのようにして出来上がる布の

外観構造をかたちづくるか、その原理を表す言葉です。


これはシケンジョテキの創作用語ですので、

読み方は「けい・じゅう・ふ・ちん」でも「かる・おも・うき・しずみ」でも

どちらでも結構です。

※関連はありませんが、太極拳にも「軽重浮沈」という用語があるようです。



今回説明する「軽浮沈は、織物組織の全てに関係する、

軽い重い浮く沈む、という要素です


軽い重い組織」「ヨコ糸の浮き/沈み」などの言葉は、

織物職人どうしの間では、しょっちゅう会話に出てきます。



まず一般的な、軽・重・浮・沈 のイメージを見てみましょう。

軽いボールは浮く、重いボールは沈む。

当たり前のことを言っている図ですね。

じつは、織物組織にもこれと同じ原理が働いているんです。



軽い組織ではヨコ糸が浮き重い組織ではヨコ糸が沈みます。

これをここでは、織物組織の「軽浮沈」と呼びたいと思います。


でも、糸が浮く、沈むとはいったい、どんな状況を指しているのでしょうか?

だいたい、織物組織が軽い、重いとは、どういうことなのでしょうか?


軽い/重い組織とは?


組織の、
軽い重いの違いのを説明しましょう。

織機は、水平方向に並んだタテ糸を選択的に持ち上げる装置なので、

持ち上げるタテ糸が少なければ、織機にとって軽く、逆に多ければ重くなります。



上の図の右側のようにタテ糸を持ち上げる場所が多い組織は、

 「タテ糸がヨコ糸よりも上になる箇所」=「組織図で黒く表される」

ので、黒っぽい組織となり、そしてそれは、重い組織です。


「白っぽい」
組織は軽く「黒っぽい」組織は重くなります。


職人が一日中、人力で足踏み式の織機で織っていた時代には、

組織が「軽いか/重いか」は、きっと大問題だったはず。

「こんな重い組織、織りたくない!」

「今日の組織は軽くて楽だわぁ~」などの声が飛び交っていたことでしょう。

もちろん現在でも、手機で織っている人には、

組織の軽重は自然な感覚で理解されていると思います。


浮く/沈むとは?


ヨコ糸が
浮く/沈む、というのは、どういうことなのでしょうか?

下の図をご覧ください。

ここでは、ベージュ色のヨコ糸に注目してみましょう。


軽い(白っぽい)組織では、ヨコ糸がタテ糸の上になるので、表面にいて見えます。

重い(黒っぽい)組織では、その逆になるので、裏にんで、見えなくなります。


どのくらい浮くか、沈むかは、その組織が前回説明に使った「白黒大小」図の、

上下方向にどのくらいの位置にあるか、どのくらい軽いか/重いかによって決まります。

ヨコ糸をなるべく浮かせよう/沈ませよう、と思ったら、

組織サイズ(サイクル長)を大きくすれば、軽く/重くなるので、

より浮いたり、沈んだりさせられるようになるというわけです。


ヨコ糸を数種類使うとき


織物では、ヨコ糸を2種類以上使うことがよくあります。

このとき、浮く/沈むの性質は、ヨコ糸同士の関係に現れます。


複数のヨコ糸を使うとき、多くの場合、

それぞれのヨコ糸の役割によって、組織を使い分けます


使い分ける基準は、簡単にいえば、そのヨコ糸を

見せたい浮かせたい)か?、見せたくない沈ませたい)か? です。


次の図では、ヨコ糸が3種類、交互に織られる場合を例に挙げます。

このようなとき、ヨコ糸が「3丁」あるといいます。

このとき、見せたいのはオレンジ色のヨコ糸3、つまり「3丁目」の糸です。

そこで、3丁目はよく浮くように、軽い組織を割り当て、

見せたくないヨコ糸1、2には、重い組織を割り当てます。

このようにして、順番に織っていくと、次のような織物ができあがります。
生地の断面を顕微鏡で見ると、織物組織の軽い=浮く、重い=沈むという関係は、

あたかもボールが水面を基準にして浮いたり沈んだりするイメージどおりに、

ヨコ糸が生地の基準面(波型で示したライン)を境にして、

浮いたり沈んだりする結果に結びついていることが分かります。

別の事例を見てみましょう。

今度は、ヨコ糸のが軽い組織の場合です。
割り当てた組織どおりに、ヨコ糸は軽ければ浮き、重ければ沈んでいるのが分かりますか?

織物組織は、このようにして、

見せたいヨコ糸を見せ、見せたくないヨコ糸を隠す、という力があります。

その力を言葉で表したのが、今回のテーマ、織物組織の「軽浮沈」でした。


では最後に、ここで問題です。

これまではヨコ糸の話ばかりしていましたが、

3丁の織物でタテ糸を見せたいときは

どのような組織を3種類のヨコ糸に割り当てれば良いのでしょうか?

(答えはページの末尾に)


次回は、織物組織の「軽重浮沈」を、場所ごとに使い分ける技、

ジャカード織について説明します。

お楽しみに!


(五十嵐)






(答)
3丁の織物でタテ糸を見せたいときは、
ヨコ糸3丁すべてに、重い組織を割り当てます。
そうすると、ヨコ糸はすべて沈み、タテ糸が浮いた状態になります。




ちなみに、今回紹介した記事の断面図の事例では、
タテ糸が表面に少しだけしか見えていませんでした。

タテ糸に着目してたとき、組織はどうなっていたか、確認してみましょう。

「実際の組織」というところの図を、タテに一列ずつ見てみてください。

どの列も、タテ方向にたどってみると、
白:黒の比率がおおよそ1:2、あるいは2:1になっています。
これは「軽い/重い」の度合いでいうと、
4:1、9:1など、白の比率が非常に高いヨコ糸に比べてみれば
それほど軽くも重くもない、といえる割合です。
だから、タテ糸は全体として、生地の基準面を中心に分布しているのだといえます。

ところで、オレンジ色の生地の事例の中で、もしかしたら注意深い人は
オレンジと黄色のヨコ糸の織物組織の中に、
組織点がない列があることに違和感を感じたかもしれません。
確かにそのような組織は、1丁だけで織れば、交差しないタテ糸が生まれてしまうので
使うことができません。
しかし、心配は無用です。
3丁のヨコ糸それぞれに対応した組織を交互に織ることで、
経糸は別のヨコ糸の上になったり下になったりして、織り込まれます。

以上、補足の解説でした。