山梨ハタオリ産地では、鯨寸を単位に使ってどのように密度を表しているかを
「筬(おさ)」の説明と合わせて紹介します。
筬(おさ)について
まず筬と糸の密度について説明します。
筬は織機にはなくてはならない重要なパーツです。
下の写真のような、シンプルな織機にもついています。
出典:無料の写真素材サイト Pexels より、Tope A.による写真を編集したもの
https://www.pexels.com/ja-jp/photo/3592348/ (PD)
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より現代的な高速自動織機でも、基本的な構造や役割はほとんど同じです。
筬とは、次の写真のように、櫛の歯のように、薄い板状のパーツが
狭い隙間をつくって並んでいるパーツです。
その隙間に、タテ糸が通っています。
隙間を作っている薄い板の一つ一つを、「筬羽(おさは)」と呼びます。
まず下の図の①をご覧ください。
タテ糸は筬の隙間を通っているので、
織られる生地の幅や、タテ糸の密度は、筬によって決定されます。
また筬は、ヨコ糸をタテ糸の間に通す「緯入れ(よこいれ)」と呼ばれる工程では、
ヨコ糸を運ぶ「シャトル」や「レピア」の通り道を支える
レールのような役割も果たします。
次に②をご覧ください。
そして緯入れされたヨコ糸は、「筬打ち」と呼ばれる筬の動きによって
織り手のいる手前方向に押し付けられるようにして、
タテ糸のあいだにしっかりと織り込まれます。
このとき、ヨコ糸の密度を決めているのは、厳密には巻き取り装置ですが、
筬打ちによって、筬もヨコ糸密度に大きく関与しています。
たとえば、筬がヨコ糸を打ち込むときの反動の大小をみて、
織物職人は、ヨコ密度が高すぎないかどうか※を判断しています。
※ヨコ糸密度が糸の太さに対して高すぎて、タテ糸のあいだにヨコ糸が織り込まれる際の抵抗が強く、
反動が大きすぎることを「あおる」と表現します。
あおりすぎると、タテ糸に大きな負担がかかり、糸切れの原因となります。
筬とタテ糸密度
筬羽と筬羽のあいだの隙間を「筬目」といい、
筬目にタテ糸を通す作業を「筬通し」と呼びます。
筬目に通すタテ糸は、1本だけの場合もあれば、複数本の場合もあり、
「2本入れ」「3本入れ」のように表します。
これらのことから、経糸の密度は、
これらのことから、経糸の密度は、
[ 鯨寸あたり筬羽が何枚あるか × 筬目に通すタテ糸は何本入れになっているか ]
という掛け算で表され、例えば「30羽2本入れ」のように表記をします。
「30羽2本入れ」と「60羽1本入れ」は、どちらも「60本/鯨寸」で、
タテ糸の密度としては結果的に同じ値になります。
しかし、織物設計においては、筬の違いが重要な場合※があるので、
経糸密度は「筬羽×○本入れ」方式で表現します。
※2本入れと1本入れで織りやすさや織上がりの風合いが違ったり、同じ筬羽かどうかが現在稼働中の織機で織れるかどうかの判断材料になったり、などの理由があります。
糸の密度をどう伝えるか
以上のことから、タテ糸とヨコ糸の密度の表記や、
口頭での表現方法が、次のように決まってきます。
たとえば「90羽4本(くじゅっぱ よんほん/くじゅっぱ よつ)」と言ったら、
それは間違いなく「タテ糸の密度」であることを表します。
同様に「打ち込み240」と言ったら、100% 「ヨコ糸の密度」をさしています。
バッタン
筬でヨコ糸を打ち込む動きを担う機構のことを、
山梨ハタオリ産地では「バッタン」と呼びます。(ほかの産地でもそう呼でいるようです)
織物工場ではいつも、バッタン、バッタン、と音がしているので、
もちろん擬音なのだろうと思っていましたが、
英語でも筬打ち装置を「Batten」、「Battern」と呼ぶこともあるそうなので※、
案外、明治時代に輸入された外来語なのかも知れません。
※実情はわかりませんが、検索結果をみると海外では「Beater」の方が一般的なようです。
(五十嵐)