第1回では、織物のデザイン/設計をするにあたって、
さまざまなパラメーターや選択肢があることをお話ししました。
今回からは、その一つ一つにフォーカスして、
選択肢があったときに、どのような意図で一つが選ばれるのか?
ということについて説明しようと思います。
今回テーマは、「スパンとフィラメント」です。
この図解では、一番左の「素材」と「短/長繊維」に関係します。
この2つのパラメータからどれかを選ぶだけで、
出来上がる織物の外観、機能、風合いが大きく左右されます。
スパンとフィラメントとは?
まず全ての糸は、大きく分けると
スパン(短繊維)とフィラメント(長繊維)の
2種類に分類される
というところからスタートしましょう。
(上の図の中にあるインターレース糸とBCF糸は、次回以降に触れます)
スパン糸とフィラメント糸、それぞれの写真を撮ってきましたので、ご覧ください。
上の写真を見ると分かるように、スパン糸は毛羽が立っていて、
フィラメントはそれがほとんどありません。
この違いは、
短い繊維を紡いで束ねたもの(=スパン糸)か、
長い繊維を束ねたもの(=フィラメント糸)か、
の違いです。
身の回りにある天然繊維、綿、麻、毛は、みなスパン糸です。
いずれも、もともとの繊維の長さは数センチ程度で、
どんなに長くても数十センチ程度の繊維を束ねたものです。
しかし、天然繊維のなかで絹だけは「センチ」どころか、
その数千倍の長さがあるフィラメントです。
原料がスパンかフィラメントかによって、
糸の作り方や、原材料の繊維の長さが、まったく違うのです。
ちなみに、フィラメントは、短くして撚り合わせれば、
スパン糸にすることができますが、
その逆(スパン→フィラメント)は不可能です。
短い絹糸繊維をより合わせたものは、スパン糸に分類され、
「絹紡糸(けんぼうし)」と呼ばれます。
また、あらゆる人造繊維は、すべてフィラメントとして誕生するので、
短くすればスパン糸として用いることもできるわけです。
では、スパンとフィラメントは、
どんな目的で使い分けられるのでしょうか?
繊維が長かったり、短かったりすると、どんな良いことがあるのでしょうか?
スパンとフィラメントの違いとは?
この写真をご覧ください。
寄り添っている男性と女性の髪の毛に注目です。
出典:無料の写真素材サイト Pexels より、Ba Tikによる写真
https://www.pexels.com/ja-jp/photo/3754244/ (PD)
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スパンとフィラメントの秘密が隠されているのです!
スパンとフィラメントの特徴は、この二人の髪の違いにあらわれています。
この二人の髪の毛の外観の違いや、
触ったときの感触の違いを想像してみてください。
その違いは、スパン糸・フィラメント糸を使った
織物の外観や風合いの違いにも通じています。
ふだん髪の毛のケアをされている方はご存じでしょう。
毛先がたくさん出ていると、髪が本来持っている光沢感が損なわれます。
これは、毛先の向きがランダムになるため、光があらゆる方向に散乱してしまい、
光を強く反射するハイライト部分が減少してしまうためです。
一方、この女性の髪のように長い髪が梳られて一方向に揃っていると、
毛先が途中に見られないので、繊維が揃った状態になります。
そうすると、ある角度の光を正反射して「ピカッ」と輝く状態が生まれます。
宮下織物(株)(富士吉田市)のシルクサテン |
上の写真は、天然で唯一のフィラメント糸である、
絹の輝きを最大限に生かした織物です。
人造繊維が19世紀に生まれるまでは、
絹糸だけが、ピカッと輝く織物を作ることができたのです。
光織物(有)(富士吉田市)のジャカード織物 |
上の写真の織物では、ジャカード織りによって、
フィラメント糸の光沢感を、キラキラと輝く文様に応用しています。
この織物では、絹ではなく、化学繊維が使われています。
下の写真は、スパン糸であるリネン(麻)のふわふわ、さらさらした風合いを
生かした織物です。糸の表面から繊維の「毛先」がたくさん出ているので、
光沢がありませんが、そのかわりに、クッション性や適度な手触りが生まれ、
ふんわりとやわらかで心地よい風合いの生地になっています。
(有)テンジン(富士吉田市)のリネンクロス |
ここで、前回の課題を思い出してください。
みなさんがイメージした「こんな感じ」の布には、
スパン糸とフィラメント糸の、どちらが合っていますか?
素材やほかのパラメータについて詳しく知らなくても、
スパンかフィラメントか(短/長繊維)という1点だけでも、
イメージした「こんな感じ」に近づけることができる、ということが
お分かりいただけたのではないでしょうか。
最後にもう一度、髪の毛を例にして、
スパンとフィラメントの特性を復習しましょう。
これがスパンの例です。特に刈り上げ部分。触り心地がよさそうですね。
出典:無料の写真素材サイト Pexels より、Min Anによる写真を編集したもの https://www.pexels.com/ja-jp/photo/680239/ (PD) |
これがフィラメントの例。美しい光沢ですね~。
出典:無料の写真素材サイト Pexels より、Thgusstavo Santanaによる写真を編集したもの https://www.pexels.com/ja-jp/photo/1813346/ (PD) |
それでは、また次回をお楽しみに。
(五十嵐)