2014年8月27日(水)、ことし第1回目のヤマナシハタオリ産地バスツアーを開催しました!
最初の訪問先は、西桂町。A班、B班に分かれてA班が最初に向かったのは、
小沼浅間神社の参道ぞいにある小野田染色。
神社の境内には、きれいな湧水が川となって流れています。
神社の境内には、きれいな湧水が川となって流れています。
図解するとこんな感じ。
小野田染色では、絹、ウールなど天然素材を中心に糸を染めています。
先染め織物産地にとって重要な工程を担う工場です。
先染め織物産地にとって重要な工程を担う工場です。
小野田哲也さんが、絹のカセ(ドーナツ状にぐるぐる巻いた糸の束)を手に説明しているのは、
精練前と、精練後の絹糸の違い。
精練前の「生糸」は、「フィブロイン」と呼ばれる繊維を「セリシン」という膠状の物質が包み込んでいます。
精練によってセリシンを落とすことで、光沢のあるシルクに生まれ変わります。
ヤマナシ産地に湧き出る富士山の湧水は硬度が低く、
絹の精練に適した水であることが、富士工業技術センターの研究からも明らかになっています。
絹の精練に適した水であることが、富士工業技術センターの研究からも明らかになっています。
試験染め用の染色機。小野田染色さんで自作したそうです!
次は槙田商店(株)。日本の先染め洋傘のトップシェアを誇る老舗です。
下の写真は、ジャカード織機を上から見たところと、上から見ている人。
ジャカード織機の上は、こんな風になっています。
6000口の電子ジャカード。電子制御なので、もちろん「紋紙」は使いません。
工場長の渡部さんが手にしているのが、ジャカード織機の心臓部ともいえるパーツ。
経糸を上下させる通糸(つうじ) のうち、どれを上げてどれを上げないかを制御する部品、
ソレノイドと言われる電磁石をつかった作動機構です。
続いて傘を組み立てる製造工程を紹介してくれるのは、ベテラン職人の幡野さん。
見学対応も職人の域に達しています。
見学対応も職人の域に達しています。
3階のショールームでは、6代目の槇田兄弟の長男、槇田洋一さんが自社商品についてプレゼン。
傘の技術、服地の技術、その両方を活かした、マネのできない傘づくりが槙田商店の強みです。
上の写真は、「カワズ張り」という2枚の生地を表裏に張った商品、「1866(イチハチロクロク」。
槙田商店の創業年、1866年を名前に冠した自社ブランドのフラッグシップです。外側はシャンブレーの傘地、内側は服地の技術、カットジャカード による生地。
※シャンブレー…経糸と緯糸に全く違う色を使って、見る角度によって違う色に見える織物。その見え方を「シャンブレー効果」といい、また「玉虫効果」ともいう。
※カットジャカード…緯糸を織り込むときに、表面から見えない部分はあえて緊密に織り込まずに、織った後で不要な緯糸を切断して除去することで、必要な柄の部分だけに緯糸を残す技法。
続いては槙田商店の企画室。
本棚には、バブル当時に購入したという高価なビンテージ生地の見本帳が並びます。
本棚には、バブル当時に購入したという高価なビンテージ生地の見本帳が並びます。
これらの見本帳は古いもので19世紀の半ばころのもの。
手書きの文字や図が工芸品のように美しいです。
上の写真でズラリと棚に並んでいるのは、槙田商店の歴史のつまった傘生地のアーカイブ。
数十年前の傘生地が、おどろくほどカラフルなことに誰もが感心していました。
吉田のうどんで昼食をとったあとは、下吉田駅を見学。
昭和4年に作られた当時は、出荷される絹織物を貨物列車で運ぶ、いわば「シルクロード」の
出発基地として使われた、織物にもつながりの深い駅です。
当時の貨物列車を再現した車両の展示。中には本当に反物も積まれています。
残念ながら写真はありませんが、見たところ、シャットル織機で織られた傘地でした。
残念ながら写真はありませんが、見たところ、シャットル織機で織られた傘地でした。
昭和初期までは行かなくても、かなり古いものと思われます。
興味のある方は、現地で覗いてみてください。
興味のある方は、現地で覗いてみてください。
※駅の改札内にあるため、入場には100円かかります。
(株)エルトップさんの産地見学ツアーとしてもご紹介しましたが、
この駅にはエルトップさんの裏地のブランド「LOISIR(ロアジール)」の生地見本が常設展示されています。
そして次は、裏地を織る渡邊織物へ。
シケンジョテキの「富士吉田芸術倉びらき2014」 開催中!でも紹介した、
渡辺竜康さん(下の写真の右の方)の工場です。
糸が染められ、経糸と緯糸それぞれが準備されて、生地になるまでの長い工程。
そのすべてに気を配り、美しい糸をさらに美しく織り上げるために職人が費やす努力と熱意。
参加者達も、ハタオリ工場にただよう張り詰めた雰囲気を感じてか、
真剣に見入っています。
次は、白須織物工場。
ストール生地を織る、武藤(株)の協力工場です。
職人の白須さんが、経糸をつないでいるところでした。
下は、別の織機で見られた経糸の終端。
二本の棒で「綾」が作られています。
綾とは、糸を1本交互に「X」字形に並べることで、
全ての糸の順番をしっかりと固定させることを意味します。
これが失われると、糸が切れたときに、
どの糸と、どの糸の間の糸かが分からなくなってしまいます。
上の写真で経糸をつないでいる白須さんも、
この「綾」をつかうことで、経糸を一本ずつ順番に結び付けることができるのです。
上の経糸はラメ糸です。黄金色の「おまき(ビーム)」、なかなか見られないものです。
※「おまき(ビーム)」…必要な本数、長さの経糸を軸に巻きつけたもの。
※「おまき(ビーム)」…必要な本数、長さの経糸を軸に巻きつけたもの。
白須さんの眼鏡と、眼鏡置き場。うまくおさまっていますね。
こういうピッタリな置き場所が生まれるまでには、
きっと織機の前で過ごす長い長い時間が必要だったのでは?と想像が膨らみます。
次はネクタイ生地を専門に織る、(有)渡小織物へ。
ネクタイ生地は、「緯出し(よこだし)」といわれ、緯糸の色で柄を作ることを基本にしています。
だからネクタイ工場には、様々な色のシルクの緯糸が用意されています。
いかにも先染め織物産地の工場らしい風景です。
下は緯糸をコーンに巻くワインダー。
そしていまは懐かしい、フロッピーディスク。
いまでも織物工場の多くでは、ジャカードデータの保存や、
ジャカード織機の駆動のためにフロッピーディスクが使われています。
下の写真は、新しくつくられた渡小織物のショールーム。
これまでのFUJIYAMA TEXTILE PROJECTでの東京造形大学の学生との作品など、歴代のコラボネクタイが並んでいて壮観です!
なかには女性向けのネクタイも。
中段右側にリボンを付けたようなネクタイが何本かありますが、
これは制服をモチーフにした女の子向けの洋服ブランド、
今回のようなバスツアーをきっかけに誕生したコラボ商品です。
下の写真の傘とネクタイをご覧下さい。
同じ生地で作られたものかと思ったら、よく見ると富士山の柄のサイズが違います。
もしかして、ネクタイの方は生地が縮んでしまったのでしょうか?
(答えは下に↓)
じつは傘に使われたのは、蝶タイ用の生地として作られたもので、別の生地でした。
蝶タイと普通のネクタイ、じつは生地の裁断の仕方が違います。
ネクタイの方は45度に傾けて裁断するので、柄も45度回転したものを織ります。
だから蝶タイの生地は、同じ柄でもネクタイ用の生地とは別に作らなくてはならないわけです。
そして、垂直に柄が織られている蝶タイの生地が、傘の縫製にも使うことができたのだそうです。
そして、傘に仕立ててくれたのが、この道60年以上、というハマヲ洋傘店の鎌田智子さん。
新しい傘生地に出会うため、バスツアーに参加してくれました。
そしてバスはシケンジョへ。
客員研究員の家安 香さん、ゲストキュレーターとして招いた宮浦晋哉さんをモデレーターに
客員研究員の家安 香さん、ゲストキュレーターとして招いた宮浦晋哉さんをモデレーターに
産地ミュージアムトークの時間です。
訪問したハタヤさんの職人たち、バスツアー参加者との間で意見交換が行われました。
写真の渡邊竜康さんは、裏地を縫製して製品染めしたジャケットを披露。
キュプラの裏地生地をつかった新しい試みに、会場も興味津々でした。
裏地のジャケットを来てみたところ。着心地もよさそうですね。
産地ミュージアムトークの後半は、ミニ展示会スタイルに。
生地や製品を介して、参加者とハタヤさんのトークが盛り上がります。
そして最後の訪問先、富士山駅の「ヤマナシハタオリトラベル -MILL SHOP-」へ。
最後は山梨県絹人繊織物工業組合の主催で懇親会。
短い時間でしたが、ハタヤさんも大勢かけつけてくれて、盛り上がりました。
今回のツアーには、都内だけでなく、遠くは鳥取県から夜行バスで駆けつけてくれた方、
さらにはミラノ在住で夏休みを利用して来日し、参加してくれた方など
かなり広範囲の方々がヤマナシ産地へ集まってくれました。
この中から、次のコラボ商品や、新しい取引が生まれてくることが期待されます!
そして、このヤマナシハタオリ産地バスツアー、
11月7日(金)、と12月5日(金)にも開催が決定しました。
詳細は9月下旬に発表しますので、それまでお待ちください!
(五十嵐)