シケンジョの五十嵐です。
なんと今日(2013年7月1日)は東京造形大学に呼んでいただき、ヤマナシ産地について語る講義をしてきました。
八王子から横浜線で相原駅下車、キャンパスは「東京」とは思えない森の中に広がっています。
豊かな自然のなかののびのびとした空間、ここで青春時代を過ごせる学生さんたちは
かなりの幸せ者だと思いました。
ちょうど開催中だった大橋正芳先生の個展を見学。貴重な板締め染色の資料が圧巻でした。7月13日(土)までやっています。
そして授業開始前に学内を見学。
ここは1年生の織機ルーム。
学生さんはこういうマシーンで組織の基礎を学ぶのですね。
右にいる男性は、3月までの2年間、シケンジョ臨時職員だった高須賀活良(たかすかかつら)君。
4月から東京造形大の助手として活躍しています。
今日は、シケンジョテキ臨時取材班として、講義の写真を撮ってくれました。
そしていよいよ授業開始です。
授業名は「テキスタイル概論」。テキスタイルデザイン専攻の1年生がメインです。
毎週、大学で教えている講師が、自分の仕事や得意分野を解説するという内容。
外部からの講師はこれが初めてだそうです。
今日の任務は、「産地」というものの存在すら知らない若い学生のみなさんに
地方の産地の概要、歴史、そして最近の動きを伝えること。
同じ山梨でもあまり知られていないヤマナシ織物産地。
当然、誰もその存在を知りません。
そんな学生のみなさんに産地の姿をなんとか伝えようと、
200ページを超えるスライド資料を用意して臨みました。
世界で活躍するテキスタイルデザイナー、鈴木マサルさんに講師として紹介してもらうという栄誉!それを感じる余裕もないくらい緊張の極致です。
そして産地の様々な写真を使って、産地の古くからある織機、新しい動き、
たくさんの人の手で織物が作られていることを説明しました。
ちなみに下の写真は、「紗織り」のための複雑な織機機構です。
下の図は、この日のために作った「ほぐし織り」の工程。
糸の準備からはじめて何軒もの職人に仕事をお願いして生地が出来上がる様子を
実感してもらおうと作ったものです。
そして産地というものが、長い時間を経てさまざまに分業化し、
専門性を高めていくことで
高度なものづくりを実現したことを、
大自然の生態系に例えて説明しました。
どちらも大きなシステムを支えるのは本当に小さな存在の生命サイクルだったり、
一度失われてしまうと元に戻るには大変に困難なこと、
簡単に別の環境に移植したりはできないこと、
とても共通していると思います。
※図中、「○○屋」とあるのは正式名称ではなく、ヒアリングした機屋さんが話し言葉で使っていた呼称です。
また、シケンジョの仕事の紹介と、繊維の現場を実感してもらうため、
繊維の素材を判定する燃焼試験を体験してもらいました。
ライターで糸に火をつけて匂いで植物系、動物系、化学系を区別してみよう、という試み。
なんとリボルバー式ライター(カッチン!じゃなくてギザギザのついた丸いパーツを回す方)の使い方を知らない学生が続出…。これには驚きました。
なんとか動物系(ウール、絹)、植物系(綿、麻)の匂いの違いは体験できました。
ふだんの研修では、ウールの燃える匂いは「髪の焼ける匂い」などと表現していましたが、
「ドライヤーやりすぎたときの匂いがする」、「コテを当てすぎたときの匂い」
などヘアケア系のボキャブラリーが新鮮でした。さすが女子。
そしていつもは「紙を燃やした匂い」と表現していた植物系の匂いでは、
「線香花火の燃える匂い」。
なるほど!キレイです。 この表現、これから使わせていただきます。
産地の歴史、織物業の課題と魅力、思い切り詰め込んだカターイ内容の講義でしたが、
終わったあとで「産地に行ってみたいんですけど…」と声をかけてくれた生徒さんがいて
多少は産地の魅力が伝わったかな?とひと安心でした。
そして夜には大橋先生、鈴木先生と相原駅前の居酒屋で打ち上げ。
講義や産地の話から、いつのまにか
4月から東京造形大で働いている元シケンジョ臨時職員の高須賀君に
ハッパをかける愛の説教タイムに突入。
恩師たちとシケンジョ元上司に囲まれ、「図星…」という表情の高須賀君。
きっと今年は彼のさらなる飛躍の年になることでしょう。
大橋先生、鈴木先生、東京造形大学のみなさま、ありがとうございました!
(文:五十嵐 写真:高須賀活良※友情出演)