前回、「ポリフェノールたっぷり五倍子ハンティング」
採ってきた天然(?)五倍子を乾燥させた後、ミキサーにかけました。
この媒染剤に用いる四価のバナジウム化合物である硫酸バナジルは、研究では25g単位の試薬を用いましたが20Kg単位で購入すると約1/50のコストで入手可能であることがわかっています。
注:バナジウム化合物については入手先の説明を十分に読み、取り扱いに注意してください。
事前にウールには最高でどれだけバナジウムがくっつくか調べてあります。図のgの投入量以上に濃度を上げてもこれ以上はくっつかずに無駄な排水となってしまうことがわかります。また今回、五倍子濃度を高くすると染色後の黒のクオリティを維持しながら、バナジウム使用量をcまで下げることが可能であることがわかりました。これにより、単純計算で一般的な染色にかかるコストに近くなりました。
ふじさん牧場で採取した五倍子は、市販のものと比べても遜色なく濃黒に染まりました!
右がふじさん牧場採取五倍子抽出液で、左が市販品五倍子抽出液による染色結果。
この図は五倍子濃度を変えたときの黒さをプロットしたものです。
一般的に縦軸の値が300以上が黒色と言われています。
ウールにくっつけるバナジウムの量について、
黒さをキープしつつどこまで少なくできるかを検討しました。
右側にいくほど媒染時のバナジウム量を多くしてあります。
染色時の五倍子濃度は一定です。
ビンに入っている液体は、奥のメスシリンダー(目盛付)の液体が、バナジウムで媒染後の
排水(元は水色の液)で、手前の液体が五倍子抽出液(一定の濃度)で反応後の排水です。
通常捨ててしまうのであまり色は見ないかもしれません。
赤線で囲った茶色と黒色の排水に注目しました!この間の染色条件には無駄なくバナジウムがウールに吸われ、余剰のバナジウムが出ないため排水が黒くならない最適な配合比率が隠されていることがわかります。
ここに、もっともコストパフォーマンスが良好なレシピがありそうです。
溶液の化学反応!
ここまでで明らかになったもっとも効率の良い配合で
同じ濃度の鉄媒染と比較してみました。
鉄×五倍子は「お歯黒」の処方です。お歯黒は歯を虫歯から守る保護膜の役割もあったそうです。
これをみると、従来の黒と比較していかにバナジウム媒染の効果が高いかがわかります。
そして、植物染料は耐光性が弱い!のが常識です。
次の図は耐光性試験の前後における色の変色具合を示したもので、
小さいほど良い結果となります。
実は植物染料での染色物は通常、一番左端の赤い棒よりもずっとずっと大きなものになります。
つまり、すぐに光で色が変わる(分解してしまう)わけです。
それなのにバナジウム媒染を用いると、なぜか耐光性がバツグンに良いことがわかります。
「濃黒色かつ耐光性が高い」植物染料での課題を同時に解決する可能性が見つかったことになります。
****コストの試算について****
バナジウムは試薬と20kgベースでの入手価格を比べて、
約 1/50に下げられることがわかりました。
1kgの繊維を染めるのに、バナジウム代はほとんど無視できるという試算もでています。
原材料代の試算では、実用化が可能なコストだと考えていますが、そのほとんどを
五倍子の価格が占めているので、これをいかに少量にできるかにかかっています。
そのため、先ほどのもっともコストパフォーマンスが良いポイントをさらに絞るべく、細かく条件を設定して実験していく予定です。
ふじさん牧場で採取した五倍子は研究目的のため特別に無償でいただきましたが、富士山麓で天然五倍子をいかに集めるか、方法や仕組みが必要になりそうです。また、需要が増えると価値が上がってくるかもしれません。
この染色方法が実現すると、「バナジウムといえば富士山、富士山麓の五倍子」という地域のストーリー性を持たせた商品開発が現実味を帯びてくると考えています。
そして
なぜ黒くなるのか?
なぜ耐光性が高いのか?
というサイエンスとしても興味深いので
現在、さまざまな角度から検証しているところです。
解明されれば、さらにさらに少ない量で濃く発色できるようになる・・かもしれません。
五倍子ですが、
アブラムシがまだ中にいる時(つまり9月ころ)がもっとも
ポリフェノールが豊富であるということも聞いています。
今回のふじさん牧場産五倍子、および市販の五倍子における抽出物について
総ポリフェノール量やその有効成分(没食子酸)量についても測定中です。
産地の方、その他の方もご興味のある方はお近くにお立ち寄りの際はぜひシケンジョにいらしてください。
(上垣)