2013年11月15日金曜日

甲斐絹ミュージアムより #8 「今週の絵甲斐絹③ /松竹梅」

[1] E154 絵甲斐絹 『梅に麻の葉』

E154 絵甲斐絹 『梅に麻の葉』西暦 1916 年[ 大正 5 年] 南都留郡谷村町 製作者: 小宮芳蔵
http://www.pref.yamanashi.jp/kaiki/kaiki_museum/kaiki-sample/e/e154.htm


今回は梅と麻の葉模様です。

梅はいまの季節とはずれちゃっていますが、麻の葉は、麻がまっすぐにすくすくと伸びる植物なので、子供の成長を願う模様として七五三にも縁があるそうなので、季節感はセーフということで。


梅のかわいらしい図案化が特徴的です。

絞り染めを模したような麻の葉模様、マニアックな視点で見ると、地の部分がなぜか微妙に2色に分かれています。


これがその部分↓

色分けをする必要もない場所なのになぜでしょうか…?


その答えは、絵甲斐絹の型染めにあります。

白い○型を残して染めるには、○の形に防染するということです。

1枚の型紙でこれをするには、「島」となって宙に浮いてしまう幾つもの○型紙を、
紗貼りで固定する必要があります。





これが、紗貼りを使った方法です。

水玉の形の型を並べても落ちないように、紗の生地で支えています。
紗の生地はすき間があるので、染めには影響ありません。


しかしこの作品では、2枚の型紙を使う方法をとっているのです。




これが、この絵甲斐絹を作るために使われた、紗の生地を使うかわりに、2枚の型を使う方法です。水玉型と地の空間を2枚の型で分け合うことで、このようになるわけです。

紗貼りをしなくても良い半面、地色の合わせ部分が見えてしまうのですね。そういう仕掛けでした。


しかし麻の葉模様を出すために、わざわざこんな工夫をしていたのか、と感心します。








[2] 甲斐絹ミュージアム E123 絵甲斐絹 『竹に鶴』

西暦 1914 年[ 大正 3 年] 南都留郡 製作者: 志村作太郎
http://www.pref.yamanashi.jp/kaiki/kaiki_museum/kaiki-sample/e/e123.htm




鶴、竹、ともに吉祥文様であり、またどちらも寒い季節を象徴するモチーフです。

(松竹梅は中国で「歳寒三友(さいかんのさんゆう)」とされ、寒い季節でも葉の色が変わらない、花が咲く、ということで文人画に好まれた題材だといいいます。)

テキスタイル技法として見ると、縞模様の入ったボーダーに着目してみましょう。

竹の節を表しているのかどうかは微妙ですが、五色に塗り分けられた絣の模様が特徴です。この絣の部分、良く見ると絣だけでなく、縦に棒状の彩色が重なっています。





絣だけでは濃さが足らないと思ったのでしょうか?

絵甲斐絹の絵付け技法での縞柄をそこに重ねているわけです。

良く見ると、縞の中心に棒状の模様が重ねられているだけでなく、
その左右には枝葉のように、さらに広がった意匠が描かれています。
これは一体何を表しているのでしょうか?

この謎を読み解けた方、ぜひシケンジョまでご一報ください。


しかし、何色にも塗り分けた絣だけでも大変なのに、
さらにこのひと手間をかけるこだわりは、いったいどこから生まれるでしょうか?


ちなみに、この大変マニアックなポイントは、シケンジョ在籍時のテキスタイルデザイナー、高須賀活良君が発見したものです。

さすが、「蛇の道は蛇」ですね。


松竹梅編、次号に続きます!

お楽しみに!





(五十嵐)